高齢者見守りサービスー多様なサービスの提供と今後の可能性

 保険研究部 上席研究員 小林 雅史

2017年08月08日ニッセイ基礎研究所基礎研REPORT(冊子版)8月号

 
1―はじめに

高齢化社会の進展に伴い、1人暮らしの高齢者世帯が増え、孤立死の問題などもクローズアップされる中で、営利・非営利の双方で、おおむね21世紀に入ってから、高齢者向けに見守りサービスを提供する企業が増加している。

2―高齢者見守りサービスの現状

1|高齢者見守りサービスの提供開始
国民生活センター「高齢者の安否見守りサービス」(2003年6月)は、事業者へのアンケート調査結果である。

[図表1]のとおり、当時の事業者4社のうち、調査時点で自治体や介護施設等を対象としていたアートデータ(1998年サービス開始)を除き、個人への高齢者見守りサービス提供はおおむね21世紀に入ってからである。


2|高齢者見守りサービスへのニーズ
(高齢者側、家族側双方のニーズ)

高齢者側のニーズ調査としては、東京都健康長寿医療センター研究所「独居高齢者見守りサービスの利用状況と利用意向」(2011年9月)がある。

病気や事故など緊急時に対応するサービスの方が、普段の生活や安否状況を見守るサービスよりも利用率や利用意向が高いという結果が示されている。

一方、高齢者の家族側のニーズ動向調査としては、財団法人ベターリビングサステナブル居住研究センター「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」(2011年12月)がある。

離れて暮らす親への心配度は父親、母親とも約8割に達するが、実際の加入割合は、緊急通報サービスが 3.5%、安否確認サービスが1.0%、駆け付けサービスが1.7%に止まっている。

加入意向としては、必要になったときとする者が 45.9%と多数を占める。

3|ホームセキュリティー会社
業界最大手のセコムでは、防犯、火災管理、非常通報といったホームセキュリティー基本サービスのオプションサービスとして、シニア・高齢者向けサービスを提供している(緊急通報サービスであるマイドクタープラス、センサーによるライフ監視サービス、お元気コールサービス・お元気訪問サービスなど)。

また、セコムは、2017年4月から、企業従業員向け福利厚生サービスとして、企業が福利厚生制度として採用し、従業員が費用を負担する「セコム親御さん安心パッケージ」を販売している。

一方、綜合警備保障(ALSOK)は、2013年9月から、高齢者向け専用商品として「みまもりサポート」(緊急時の駆けつけ、健康・介護相談、持病やかかりつけ病院などの救急情報登録)を提供している。

また、ALSOKは、認知症高齢者向けの徘徊対策システムとして位置履歴が検索できる「みまもりタグ」を開発し、2016年4月香川県さぬき市、2016年8月北九州市との実証実験を経て、2017年6月から一般向け販売を開始した。

4|日本郵便
全国約2万4千の郵便局ネットワークを有する日本郵便は、2013年10月から、郵便局社員が顧客を定期訪問し、状況を遠方の家族等に報告する「郵便局のみまもりサービス」を全国6エリア(1道5県)で試行実施した。

2015年7月、サービス実施エリアを拡大するとともに、定期訪問サービスを30分コース、60分コースとした。

このほか、高齢者に毎日同じ時間に電話し、高齢者が体調に応じて番号を押すことで、家族に体調をメールで連絡するみまもりでんわも提供している(両サービスとも、2017年6月9日から新規受付を停止)。

2015年4月、日本郵政グルーブ(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)は、IBMおよびAppleとの業務提携により、ICT(Information CommunicationTechnology, 情報伝達技術)サービスを活用した新たな高齢者向け生活サービスを提供するとした。

2017年4月には、茨城県大子町から高齢者見守りサービス事業を受託した。

郵便局員が訪問して高齢者の体調を家族らに伝えるもので、町が料金を負担し、町内居住の75歳以上の高齢者に対し無料で提供するものである(東京都檜原村からも同様の事業を受託)。

5|地方自治体と民間との連携
従来から地方自治体は高齢者に対し、見守りサービスを提供している。

東京都による全国自治体に対するアンケート調査(2012年9~10月、都内全自治体と東京都以外の人口10万人以上の自治体に対するアンケート調査)によれば、各自治体は地域包括支援センター、民生委員などにより、高齢者の見守りネットワークを組織化している(都内自治体では66.7%、東京都以外の自治体では29.0%)。

高齢者の見守りに関する今後の課題としては、見守りが必要な人の発見・通報方法の充実に向け、地域住民の見守りに関する意識の向上(都内自治体では91.7%、東京都以外の自治体では55.9%)、緊急通報装置等の設置( 都内自治体では58.3%、東京都以外の自治体では60.2%)、民間事業者の参加協力(都内自治体では72.2%、東京都以外の自治体では51.6%)がある。

こうした地方自治体のニーズに対応する民間事業者も多い。

業界最大手のヤマト運輸は、宅配時に高齢者の状況を確認する、高齢者の見守りと買い物代行を連動させた「まごころ宅急便」を展開している。

2010年9月に岩手県西和賀町・大槌町などで開始されたもので、以降、自治体との連携により逐次拡大している。

また、宅配サービスを提供している生協も、2007年から自治体との「地域見守り協定」の締結を進めている。

この協定は、生協の担当者が配達の際、組合員や地域の高齢者などの異変に気付いた場合、事前に取り決めた行政の連絡先に速やかに連絡・通報を行うというもので、2016年6月時点で、締結市区町村数は893、全市区町村(1741)の51.3%に当たる。

全国に営業職員チャネルを有する生保会社においても、自治体と連携した高齢者支援として、営業職員による高齢者見守り活動を推進している(第一生命、日本生命など)。

3―高齢者見守りサービスの総括

高齢者見守りサービスは、[図表2]の通り、マンパワーによる定期的な見守りと、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りがあり、それぞれ有料方式と無料方式に区分される。


マンパワーによる定期的な見守りの最大のメリットは、孤立する高齢者に対して、一対一のコミュニケーションを提供する機会が確保できる点である。

行政側の民生委員などによる定期訪問に加え、高齢者と日常的なコミュニケーションを図ることは、高齢者にぬくもりと安心感を与えよう。

ただ、マンパワーによる定期的な見守りは、「ゆるやかな見守り」であり、とくに頻度の点で不確実性が残り、万一の緊急事態への対応が難しい。

一方、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りの最大のメリットは、24時間365日の確実な見守りを提供できることである。

しかしながら、日常的なコミュニケーションの断絶=高齢者の孤立という根本的な課題には、センサー機器による「監視」だけでは対応できない。

4―おわりに

高齢者向け市場は、2025年に100兆円に達するが、高齢者見守りサービスは、需要は大きいものの、実際の加入者は伸び悩んでいる状況にあり、同年で227億円の見込みに止まっている。

左記の筆者による区分のうち、マンパワーによる定期的な見守りに関しては、行政の見守りサービスを民間が有償で受託する方式(過疎化の中で行政による基礎的な高齢者見守りサービス提供を継続する方策のひとつ)と、全国にまたがる支店網、配達拠点網、営業職員網などの独自の人的ネットワークを有する各種事業者が無償で高齢者見守りサービスを提供する方式(行政の補完サービスとして、高齢者に対する日常的な声かけ、安否確認など、ゆるやかな高齢者の見守りについて工夫)の双方の拡大に注目したい。

センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りについては、技術面の高度化はもとより、高齢者の日常生活にかかわる社会インフラ事業者、通信事業者、各種メーカーなどが、本来業務の経営資源や技術力などを活かして検討していくことが肝要である。

マンパワーによる定期的な見守りと、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りは、高齢者見守りサービスの車の両輪であり、バランスの取れた発展を期待したい。

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