高齢者見守りサービス-多様なサービスの提供と今後の可能性

保険研究部 上席研究員 小林 雅史

2017年06月23日ニッセイ基礎研究所

 
高齢化社会の進展に伴い、1人暮らしの高齢者世帯が増え、孤立死の問題などもクローズアップされる中で、営利・非営利の双方で、高齢者向けに見守りサービスを提供する企業が増加している。

営利事業として高齢者見守りサービスの提供が開始されたのは、おおむね21世紀に入ってからである。

メーカーやエネルギー会社、ホームセキュリティー会社などの参入が相次ぎ、2013年10月には、全国約2万4千の郵便局網を有する日本郵便も、高齢者見守りサービスの提供を開始した。

一方、地方自治体と連携した民間の非営利事業としての高齢者見守りへの取り組みもあり、宅配便業界や生協などに加え、保険会社も無償での高齢者見守りに取り組んでいる。

高齢者見守りサービスの現状と今後の方向性を報告することとしたい。

■目次

1――はじめに
2――高齢者見守りサービスの現状
  1|高齢者見守りサービスの提供開始
  2|高齢者見守りサービスへのニーズ(高齢者側、家族側双方のニーズ)
  3|ホームセキュリティー会社の取り組み
  4|日本郵便の取り組み
  5|地方自治体と連携した民間の非営利事業としての取り組み
3――高齢者見守りサービスについての総括
4――おわりに

───────────────────────────

1――はじめに

高齢化社会の進展に伴い、1人暮らしの高齢者世帯が増え、孤立死の問題などもクローズアップされる中で、営利・非営利の双方で、高齢者向けに見守りサービスを提供する企業が増加している。

わが国において、営利事業として高齢者見守りサービスの提供が開始されたのは、おおむね21世紀に入ってからである。

メーカーやエネルギー会社などが、従来から提供してきた商品やサービスを活かして、新たに高齢者見守りサービスを開発し、はじめて有償で提供する形態であった。

以降、ホームセキュリティー会社などの参入が相次ぎ、2013年10月には、全国約2万4千の郵便局網を有する日本郵便も、高齢者見守りサービスの提供を開始した。
これは、郵便局員が毎月1回、高齢者自宅を定期訪問することで生活状況を確認し、家族に状況を報告するものである。

2015年10月からは、IBM、Appleと共同で、かんぽ生命も含む郵政グループ全体による高齢者向けタブレット等を活用した実証実験を開始するとともに、2017年4月には、茨城県大子町から高齢者見守りサービス事業を受託した。

一方、地方自治体と連携した民間の非営利事業としての高齢者見守りへの取り組みもあり、宅配便業界や生協などに加え、地方自治体と保険会社との包括連携協定締結の中での無償での高齢者見守りの動きも進んでいる。

本レポートでは、本格的なサービス提供後20年近くなる高齢者見守りサービスについて、経緯と現状を紹介することとしたい。

2――高齢者見守りサービスの現状

1|高齢者見守りサービスの提供開始
国民生活センターは、2003年6月6日、報告書「高齢者の安否見守りサービス」を公表した1。

この報告書は、高齢化の進展により、従来、市区町村の民生委員による戸別訪問など、行政の福祉の分野とみなされてきた高齢者向けサービスが、民間事業者を中心に拡大しているとして、事業者4社に対してアンケート調査などを行なった結果をまとめたものである。
同報告書においては、それまで提供されてきた高齢者側が異常事態発生時に自ら通報する緊急通報サービスに加えて、

「高齢者の電気ポットやガスの利用状況を離れて住む家族等のパソコンや携帯電話に送信したり、 あるいは部屋に取り付けたセンサーによって高齢者の在室状況を送信する、など商品や機器と情報通信機器を活用したサービスが、このところ相次いで登場している」

として、高齢者から離れて住む家族側が、高齢者の安否を自動的に知ることのできる、有料の安否見守りサービスが近年相次いで登場しているとしている。

当時の調査対象となった事業者4社のうち、調査時点で自治体や介護施設等を対象としていたアートデータ(1998年サービス開始)を除き、個人へのサービス提供は2001年以降であり、おおむね21世紀に入ってから高齢者見守りサービスの提供が開始されたこととなる。

サービス対象地域は日本全国で、比較的支払いやすい料金に設定してあるが、新しいサービスであるため、当時の利用者も50人から1600世帯程度と少ない。

また、「サービスの提供内容としては、日常生活を見守ることに重点を置いたサービスであり、緊急通報サービスではない」とされており、緊急事態を知らせることはできないとの指摘があった。

  • 1 「高齢者の安否見守りサービス」(2003年6月6日)、国民生活センターホームページ。


2|高齢者見守りサービスへのニーズ(高齢者側、家族側双方のニーズ)
こうした高齢者見守りサービスに対するニーズ動向調査としては、高齢者側のニーズ動向調査と、高齢者の家族側のニーズ動向調査の双方がある。

高齢者側のニーズ動向調査としては、東京都健康長寿医療センター研究所メンバーによる「独居高齢者見守りサービスの利用状況と利用意向」(2011年9月)がある。

これは、2011年9月、東京都大田区において、65歳以上の単身世帯高齢者2,569人全員を対象に、大田区で実施されている公的見守りサービスなどに関する質問表を郵送し、回答があり、実際に独居であった1,095人のデータを分析したものである。

実際の利用者は、緊急通報(公的助成のある有償のペンダント式通報ボタンなど)11.3%、緊急連絡先登録(無償の民生委員への緊急連絡先の登録)18.0%、人的見守り(定期的な電話による安否確認、公的助成額以上の通話料は有償)10.3%、センサー見守り(民間が実施)4.7%となっている。

また今後の利用意向としては、緊急通報47.9%(非利用者については81.4%)、緊急連絡先登録36.2%(同75.1%)、人的見守り32.6%(同60.0%)、センサー見守り30.6%(同53.1%)となっている。

病気や事故などの緊急時に対応するサービスの方が、普段の生活や安否状況を見守るサービスよりも利用率や利用意向が高いという傾向が示されている2。

一方、高齢者の家族側のニーズ動向調査としては、財団法人ベターリビングサステナブル居住研究センターによる「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」(2011年12月)がある。

これは、さまざまな民間事業者により、緊急通報サービスや安否確認サービスなどの高齢者見守りサービスが提供される中で、こうしたサービスに対するニーズを把握するため、全国の65歳以上の親と離れて暮らす子世代(30歳以上64歳以下)の男女1,500人を対象として、2011年12月に実施されたものである。

離れて暮らす親への心配度としては、父親については77.6%、母親については81.9%に達するが、実際の見守りサービスへの加入割合は、緊急通報サービスが 3.5%、安否確認サービスが1.0%、駆け付けサービスが1.7%に止まっている。

見守りサービスに加入していない理由としては、「まだ自分の親には必要ない」が47.6%を占め、次いで「親の住まいの近所に自分や兄弟・親戚などがいるから」が42.0%となっている。

今後の見守りサービスへの加入意向としては、「必要と思う時期が来たら加入したい」が 45.9%と多数を占め、「数年以内には加入したい」(3.9%)、「すぐにでも加入したい」(0.8%)を含め、加入意向のある者が過半数を超えるが、「加入を検討する予定はない」とする者も28.4%と3割近くを占めている。

サービスに加入する際の重視する事項としては、「サービス加入時の初期費用や月々の支払料金」が 66.8%、次いで「現場まで駆け付けてくれる時間」が 64.0%となっている。

見守りサービスの妥当な価格水準としては、「緊急通報サービスのみ」と「安否確認サービスのみ」では月額「500 円未満」が半数程度(それぞれ51.9%、48.3%)となっている一方、「緊急通報+安否確認+駆け付けサービス」では月額「3,000円以上」が約4分の1(24.6%)となっており、組み合わせサービスについてはある程度の負担が必要と認識している者が多いことがうかがえる3。

  • 2 小池高史、深谷太郎、野中久美子、小林江里香、西真理子、村山陽、渡邊麗子、新開省二、藤原佳典「独居高齢者見守りサービスの利用状況と利用意向」『日本公衆衛生雑誌』第60巻第5号、日本公衆衛生学会、2013年5月。
  • 3 「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」(2012年11月27日)、財団法人ベターリビングホームページ。


3|ホームセキュリティー会社の取り組み
ホームセキュリティー会社においては、高齢者による緊急通報サービスのほか、高齢者の安否見守りサービスを提供している。

業界最大手のセコムでは、防犯、火災管理、非常通報といったホームセキュリティー基本サービス(戸建て、機器レンタルプランの場合月5,900円、税別)のオプションサービスとして、シニア・高齢者向けサービスを提供している4。

緊急通報サービスであるマイドクタープラス(2013年4月提供開始。緊急通報ボタンによるガードマンなどの駆けつけ。月1,800円、税別。駆けつけの都度費用発生)5のほか、ライフ監視サービス(センサーによる見守りサービス月300円、税別)、お元気コールサービス・お元気訪問サービス(2013年4月提供開始。月1回の電話かけ・月1回の訪問、月各600円、3,800円、税別)6などを提供している。

また、セコムは、2017年4月から、企業従業員向け福利厚生サービスとして、「セコム親御さん安心パッケージ」を販売している。

これは、高齢の親を抱える従業員の転勤などを想定した、火災監視、緊急通報、ライフ監視、緊急時駆けつけなどをパッケージしたサービスで、企業が福利厚生制度として採用し、従業員が費用を負担する仕組みとなっている7。

一方、綜合警備保障(ALSOK)は、2013年9月から、高齢者向け専用商品として「みまもりサポート」(緊急時の駆けつけ、健康・介護相談、持病やかかりつけ病院などの救急情報登録。機器レンタルプランの場合、工事費11,000円および月2,400円、税別)を提供している8。

基本プランのオプションプランとして、見守り情報配信サービス(センサーによる高齢者の異常事態の家族への送信、工事費3,000円および月710円、税別)、ライフリズム監視サービス(一定期間、トイレの扉が開閉しなかった場合に駆けつけ、工事費4,900円および月480円、税別)などがある9。

このほか、ALSOKは、認知症高齢者向けの徘徊対策システムとして位置履歴が検索できる「みまもりタグ」を開発し、2016年4月から香川県さぬき市10と、2016年8月から北九州市11と協力して実証実験を行っている。

さらに、国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」を活用し、徘徊対策商品「みまもりタグ」2100個やみまもりタグを収納する専用靴などを、さいたま市、多摩市、海老名市など全国10市町で高齢者を中心に無料で配布した12。

この認知症高齢者の見守りシステムは、2016年日経優秀製品・サービス賞において、優秀賞日経産業新聞賞を受賞し13、2017年6月から一般向け販売を開始した(高齢者が携帯するみまもりタグ:機器費2,200円、月額250円、建物の入り口などに設置し、高齢者の外出・帰宅を家族に送信するみまもりタグ感知器:機器費23,000円、月額400円など)14。

  • 4 「シニア・高齢者向けサービス」、セコムホームページ。
  • 5 「セコムとニチイ学館・ツクイが協業しこの協業により『セコム・マイドクタープラス』を開発 超高齢社会対応の新サービス、日本初の高齢者救急時対応サービスを開始」(2013年2月5日)、セコムホームページ。
  • 6 「高齢者の暮らしを定期的に見守るサービス 『お元気コールサービス』『お元気訪問サービス』を開始 『セコム・ホームセキュリティ』のお客様向けの新しいオプションサービス」(2013年5月9日)、セコムホームページ。
  • 7 「セコムグループが高齢の親御さんの不安要因に対してトータルサポート 『セコム親御さん安心パッケージ』を販売開始」(2017年4月19日)、セコムホームページ。
  • 8 「高齢者をハードとソフトの両面から守ります!『HOME ALSOK みまもりサポート』の発売および高齢者向け講座の開始について」(2013年9月9日)、ALSOK。
  • 9 「みまもりサポート」、ALSOK。
  • 10 「~ALSOKが『地域の見守りネットワーク構築』を支援~香川県さぬき市等と共同で、実証実験に向けた協議を開始」(2016年4月5日)、ALSOKホームページ。
  • 11 「ALSOKと第一交通産業が『地域の見守り』ボランティアに福岡県北九州市で、専用タグとアプリを連携した位置情報の提供を開始」(2016年6月22日)、ALSOKホームページ。
  • 12 「ALSOKの『みまもりタグ』等を活用した“地域の見守り”が国土交通省のモデル事業に選定 全国10箇所の市町村にて認知症患者等の『見守りネットワーク』の構築を支援」(2016年11月22日)、ALSOKホームページ。
  • 13 「~認知症高齢者の見守りシステム~2016年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞を受賞」(2017年1月4日)、ALSOKホームページ。
  • 14 「認知症高齢者の徘徊対策商品『みまもりタグ』『みまもりタグ感知器』等一般向け販売開始について」(2017年5月15日)、ALSOKホームページ。


4|日本郵便の取り組み
2013年8月26日、全国すべての市町村に約2万4千の郵便局ネットワークを有する日本郵便は、2013年10月1日から「郵便局のみまもりサービス」を全国6エリア(1道5県)で試行実施するとプレス発表した。

サービスの内容は、
・生活状況の確認(郵便局社員が顧客を訪問、生活状況を確認し、遠方の家族等に報告(月1回)
・24時間電話相談(健康、医療などの相談に、コールセンターで回答)、かんぽの宿の宿泊割引
などである。

基本サービス料金は毎月1000円(税別)で、北海道、宮城県、山梨県、石川県、岡山県、長崎県の全国13市町村、103郵便局で試行実施するとした15。

2015年7月1日、サービス実施エリアを山梨県、長崎県全域に拡大するとともに、サービス内容を改定している。

生活状況の確認を行い、確認結果を家族に報告する定期訪問サービスは滞在時間別に30分コースと60分コースの2コースに区分された。

基本料金も改定され、30分コースは月額 1980 円、60分コースは月額 2480円となった。

同一月の複数回訪問も可能となり、30 分の訪問を1回追加すると別途1500 円、60分の訪問を1回追加すると別途2000 円とされた(これらの料金はいずれも税別)16。

2015年10月1日、再度サービス実施エリアを拡大するとともに、2015年9月28日から新たなオプションサービスとして「駆けつけサービス」を導入するとした。

サービス実施エリアについては、全国1道5県56 市町村 567郵便局から、1都1道11 県の83 市町村 738 郵便局に拡大された。

駆けつけサービスは、セコムおよびALSOKと連携し、契約者等からの要請に応じて、警備会社が駆けつけを実施するものである。

駆けつけサービスについては利用は任意とされ、別途利用料が必要とされている17。
このほか、現在日本郵便のホームページには、みまもりサービスのほか、みまもりでんわも紹介されている。

みまもりでんわは、高齢者に毎日同じ時間に電話し、高齢者が体調に応じて番号を押すことで、家族に体調をメールで連絡するもので、利用料金は固定電話コースで月額980円、携帯電話コースで月額1180円とされている(料金はいずれも税別)18。

こうしたみまもりサービス、みまもりでんわについては、顧客との約定として郵便局のみまもりサービス利用規約、郵便局のみまもり電話利用規約があり、サービスの提供期間が1年間であること、顧客から退会などの申し出がない限り同一の条件で1年間延長されることなどが規定されている。

さらに、2015年4月30日、日本郵政グルーブ(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)は、IBMおよびAppleとの業務提携により、ICT(Information Communication Technology, 情報伝達技術)サービスを活用した新たな高齢者向け生活サービスを提供するとプレス発表した。

IBMおよびApple が開発した新たな高齢者向け専用アプリ・タブレットなどを顧客へ配布、各種のサービス提供の実現に向け、2015年下期に実証実験を開始、2016年度から本格展開を目指すとした19。

具体的には、2015年10月29日からみまもりサービスを拡充するために、IBM、Apple と共同で、山梨県、長崎県において、高齢者向けタブレット等を活用した実証実験を開始した。

みまもりサービスの定期訪問等に加え、タブレットなどを活用したICTサービスを 1000 名程度の顧客に提供し、みまもりサービス(ICT の活用を併用した、子による親の体調の確認、親の服薬確認)、コミュニケーションサービス(TV電話による会話を通じたご家族ホッとライン、家族の写真を共有できるご家族アルバム)、買い物支援サービスなどを提供するものである20。

当初2016年度本格展開とされたが延期となり、2017年7月に先送りされたと報道されている21。

一方、2017年4月には、日本郵便は茨城県大子町から高齢者見守りサービス事業を受託した。

郵便局員が訪問して高齢者の体調を把握し、家族らに状況を伝えるもので、大子町が料金を負担し、町内居住の75歳以上の高齢者116人に対して無料で提供するものである22。

このほか、日本郵便は東京都檜原村からも同様の事業を受託している23。

  • 15 「『郵便局のみまもりサービス』の試行実施」(2013年8月26日)、日本郵便ホームページ。
  • 16 「郵便局のみまもりサービスの試行拡大~山梨県・長崎県の全域でサービスを提供~」(2015年6月26日)、日本郵便ホームページ。
  • 17 「郵便局のみまもりサービスの実施エリア拡大等」(2015年9月25日)、日本郵便ホームページ。
  • 18 「郵便局のみまもりでんわ」、日本郵便ホームページ。
  • 19 「高齢者向け新サービス実施に向けた業務提携について~IBM、Appleとの実証実験の実施~」(2015年4月30日)、日本郵政ホームページ。
  • 20 「高齢者向けタブレット等を活用した実証実験の開始」(2015年10月27日)、日本郵便ホームページ。
  • 21 「日本郵政、高齢者「みまもり」サービスの開始延期 年度内から7月に先送り 調整長引き」『産経新聞』(2017年1月7日)。
  • 22 「茨城県大子町における『みまもり訪問サービス』及び『みまもりでんわ』の提供開始」(2017年4月17日)、日本郵便ホームページ、「日本郵便、高齢者見守りを自治体から受託」『日経新聞』(2017年4月17日)。
  • 23 「高齢者のみまもりについて」、檜原村ホームページ。


5|地方自治体と連携した民間の非営利事業としての取り組み
従来から地方自治体は高齢者に対し、見守りサービスを提供している。

東京都による全国自治体に対するアンケート調査(2012年9~10月、東京都以外の全国の人口10万人以上の250自治体および東京都の全62自治体に対する郵送によるアンケート調査、中間報告時点で東京都以外の93自治体と東京都の36自治体の計129自治体が回答)によれば、各自治体は地域包括支援センター、民生委員などにより、高齢者の見守りネットワークを組織化しているが、その割合は都内自治体が高い(都内自治体では66.7%、東京都以外の自治体では29.0%)。

また、一定の基準による見守り対象者の名簿を作成している自治体も多く(都内自治体では69.4%、東京都以外の自治体では68.8%)、この作成した名簿を地域包括支援センター、民生委員などと共有化し、見守りサービス提供に役立てている。

高齢者の見守りに関する今後の課題としては、見守りが必要な人の発見・通報方法の充実に向け、地域住民の見守りに関する意識の向上(都内自治体では91.7%、東京都以外の自治体では55.9%)、緊急通報装置等の設置(都内自治体では58.3%、東京都以外の自治体では60.2%)、民間事業者の参加協力(都内自治体では72.2%、東京都以外の自治体では51.6%)、電気・ガス・水道事業者の参加協力(都内自治体では50.0%、東京都以外の自治体では36.6%)となっている24。

こうした地方自治体のニーズに対応する民間事業者も多い。

宅配便シェアの半分近くを占める業界最大手のヤマト運輸は、宅配時に高齢者の状況を確認するといった、高齢者の見守りと買い物代行を連動させた「まごころ宅急便」を展開している。

2010年9月に岩手県西和賀町・大槌町などで開始されたもので、以降、高知県大豊町、青森県黒石市、富山県氷見市、兵庫県西脇市などでも、自治体との連携により逐次実施している25。

また、全国1000万世帯以上に宅配サービスを提供している生協も、2007年から自治体との「地域見守り協定」の締結を進めている。

この協定は、生協の担当者が配達の際、組合員や地域の高齢者などの異変に気付いた場合、事前に取り決めた行政の連絡先に速やかに連絡・通報を行うというもので、2016年6月時点で、締結市区町村数は893、全市区町村(1741)の 51.3%に当たり、青森県、宮城県、茨城県、千葉県、鳥取県では県内のすべての市町村と協定を締結している26。

全国に営業職員チャネルを有する生保会社においても、自治体と連携した高齢者支援として、営業職員による高齢者見守り活動を推進している。

第一生命においては、2015年1月22日、千葉県の商業者等の高齢者福祉に特化した地域貢献(ちばSSKプロジェクトなど。SSKは、「しない」のS、「させない」のS、「孤立化」のK)に関して、千葉県と協定を締結した27。同様の協定は、2017年3月7日現在、岡山県を除く46の都道府県と締結されており、高齢者見守りなどが規定されている28。

2017年3月11日には、ヤマト運輸と連携し、近隣に第一生命オフィスがなく、訪問しずらいエリアの顧客に第一生命からのリーフレットなどを届け、配達状況をフィードバックする取り組みを開始するとプレス発表した29。

日本生命においても、2016年4月の埼玉県との包括連携協定の締結(高齢者支援に関する協定項目を含む)30をはじめとして、岐阜県、愛知県、滋賀県、大分県など多くの県と協定を締結している。

岐阜県などとの包括連携協定においては、「高齢者が安心して生活できる社会づくりのために、当社職員が認知症サポーターに登録し、地域における見守り活動や声かけ等の支援活動を実施します」31と謳っている。

  • 24 「高齢者の見守りに関するアンケート(中間報告:基本集計) 2012/10/26版」『区市町村の高齢者見守り体制充実に向けた関係者会議(第2回)』資料(2012年10月26日)、東京都福祉保険局ホームページ。
  • 25 「高齢者を宅急便で見守る」、ヤマトホールディングスホームページ。
  • 26 「生協の『地域見守り活動』全市区町村数の50%を超える893 の市区町村と協定を締結」(2016年6月17日)、日本生活協同組合連合会ホームページ。
  • 27 「千葉県と第一生命保険株式会社との「『ちばSSKプロジェクト』等に関する協定」の締結について」(2015年1月20日)、千葉県ホームページ。
  • 28 「生命保険会社初 福島県と包括連携協定を締結~福島県との連携・協働による『地域活性化』と『復興支援』~」(2017年3月7日)、千葉県ホームページ。
  • 29 「第一生命保険株式会社とヤマト運輸株式会社が連携し、地域のお客さまに『安心』をお届け~地域・社会貢献に資する新たな取組みを開始~」(2017年3月11日)、第一生命ホームページ。
  • 30 「埼玉県との『包括連携協定の締結』について」(2016年4月5日)、日本生命ホームページ。
  • 31 「岐阜県との『包括連携協定の締結』について」(2016年8月24日)、日本生命ホームページ。


3――高齢者見守りサービスについての総括

以上見てきた高齢者見守りサービスの現状と、東京都福祉保険局が作成した「高齢者等の見守りガイドブック」32などを参考に筆者なりに整理してみると、高齢者見守りサービスは、2つに大別できるものと考えられる。

すなわち、マンパワーによる定期的な見守りと、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りである。

さらに、マンパワーによる定期的な見守りは、有料のサービスとして提供される定期訪問・電話連絡と、無料のサービスとして提供される宅配事業者などが本来業務である配達などに付随して行なう安否確認に区分される。

IT技術を活用した日常的な見守りは、ポットやガスなど日常的に使用される既存の機器・サービスを活用するタイプと、新規に配置したセンサー機器などを活用するタイプがあり、いずれも有料で異常状態の感知と第三者への連絡を行なう。

これらの有料サービスについては、地方自治体による公的助成により無料となるケースもある33。

マンパワーによる定期的な見守りの最大のメリットは、孤立する高齢者に対して、一対一のコミュニケーションを提供する機会が確保できる点である。

行政側の民生委員などによる定期訪問に加え、さまざまな機会を捉えて高齢者と日常的なコミュニケーションを図ることは、高齢者にぬくもりと安心感を与えよう。

ただ、マンパワーによる定期的な見守りは、「ゆるやかな見守り」であり、とくに頻度の点で不確実性が残り、万一の緊急事態への対応が難しい。

一方、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りの最大のメリットは、24時間365日の確実な見守りを提供できることである。

しかしながら、日常的なコミュニケーションの断絶=高齢者の孤立という根本的な課題には、センサー機器による「監視」だけでは対応できない。

  • 32 東京都福祉保険局「高齢者等の見守りガイドブック 第2版」(2016年3月)、東京都福祉保険局ホームページ。
  • 33 たとえば、高崎市の高齢者等あんしん見守りシステム事業においては、希望する65歳以上の1人暮らし世帯や夫婦高齢世帯に対し、安否確認センサー(ひと感知センサー)を無料で設置している(高崎市ホームページ)。


4――おわりに

高齢者向け市場は、2025年に100兆円に達するとされているが34、高齢者見守りサービスは、需要は大きいとされながら、実際の加入者は伸び悩んでいる状況にあり、同年で227億円35の見込みに止まっている。

こうした中で、マンパワーによる定期的な見守りと、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りをうまく組み合わせて高齢者見守りサービスを推進していく必要があるのではないか。

マンパワーによる定期的な見守りに関しては、行政の見守りサービスを民間事業者が有償で受託する方式と、全国にまたがる支店網、配達拠点網、営業職員網などの独自の人的ネットワークを有する事業者が無償で高齢者見守りサービスを提供する方式の双方の拡大に注目したい。

過疎地帯において、地方自治体の規模が縮小し、マンパワーの確保が次第に困難となる中でも、行政による基礎的な高齢者見守りサービスの提供継続は必須であり、そのための方策のひとつとして、民間委託が普遍化していくかどうかについて今後注視していく必要がある。

一方、マンパワーによる定期的な見守りを行政だけが担うには限界がある。

東京都による高齢者見守り体制充実に向けた検討の中では、
「見守りは、住民、民間事業者、行政等様々な主体が、それぞれの役割分担の下、連携して行われることが重要」36と指摘されている。

新たなサービスとしてマンパワーによる定期的な見守り事業を立ち上げるには多大なコストや準備期間を要するが、民間事業者の有する既存の人的ネットワークを活かして、高齢者に対する日常的な声かけ、安否確認など、行政の補完サービスとして、ゆるやかな高齢者の見守りについて工夫していくことが、民間事業者に強く求められていくこととなろう。

センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りについても、高齢者全般の日常生活にかかわるガス・電気・水道など社会インフラ事業者、通信事業者、住宅事業者、家電メーカー、寝具メーカーなどが、第一義的には本来業務である既存の経営資源や技術力などを活かして検討していくことが肝要である。

自社の提供するサービスや技術が、高齢者見守りサービスにどう寄与できるのかという視点を常に持ち、自社のみならず業態を超えて、新たな高齢者見守りサービスを模索していく探究心が重要であるものと考えられる。

当然のことながら、技術の高度化と、ニーズを踏まえた利用しやすい価格設定は必須であり、また、高齢者の費用負担を考慮した、一部の自治体で導入されている機器設置についての公的助成のさらなる拡大なども検討する必要があろう。

マンパワーによる定期的な見守りと、センサー機器などIT技術を活用した日常的な見守りは、高齢者見守りサービスの車の両輪であり、バランスの取れた発展を期待したい。

  • 34 「みずほ産業調査 Vol.39 特集:日本産業の中期展望-日本産業が輝きを取り戻すための有望分野を探る-」(2012年5月7日)、みずほ銀行ホームページ。
  • 35 「高齢者見守り・緊急通報サービスの市場動向」(2015年3月9日)、シード・プランニングホームページ。
  • 36 「『見守りの手引き(仮称)』の概要について」『区市町村の高齢者見守り体制充実に向けた関係者会議(第4回)』資料(2013年3月25日)、東京都福祉保険局ホームページ。