独居老人の心細さにつけこみ、カネを巻き上げる悪質業者の手口
2017年03月24日現代ビジネス
親族に頼れない高齢者を対象に、入院時や老人ホーム入居時に必要な身元保証をはじめ、安否確認や身の回りの世話などを引き受ける事業が好評だという。
だが、中にはひとり暮らしの心細さにつけ込み、高齢者の財産を狙う悪質な事業者もいるなど、トラブルも相次いでいるようだ。
あなたの親御さんは大丈夫か――。
ひとり暮らしの老人がターゲットに
これで少しは気が休まる高齢者も多いに違いない。
今月9日、老後に不安を抱える“おひとりさま”から多額のカネを集め、ずさんな経営で破綻に追い込んだ一般財団法人「日本ライフ協会」(東京都港区、破産手続き中)の元役員3人が、大阪府警と三重県警に出資法違反の容疑で逮捕されたからだ。
府警によると、元代表の濱田健士容疑者(63歳)らは、これまでの捜査で判明しただけでも2014年4月中旬から15年6月下旬にかけて、金融庁などの許可を得ずに高齢者ら約40人から葬儀・納骨代として預託金名目で計約2000万円を集めた疑いがあるという。
日本ライフ協会は、親族に頼れない高齢者らを対象に、入院時や老人ホーム入居時の身元保証をはじめ、安否確認や緊急時対応、身の回りの世話、死亡後の葬儀・納骨などを支援。一括で約165万円を払うプランが基本で、このうち葬儀や納骨に充てる預託金は約58万円だった。
昨今、ひとり暮らし高齢者の増加や親族間の付き合いの希薄さも相まって、こうした支援へのニーズは高まる一方、事業者は全国に100社以上あると言われる。
約3000~4000人の会員を抱える大手も存在し、日本ライフ協会も公益法人の認定を受けていたことやNHKの元アナウンサーを広告塔(元理事)にするなどして、全国から約2500人の会員を集めていた。
ところが昨年1月、内閣府公益認定等委員会の調査で、預託金約8億8000万円のうち約2億7000万円が不足していることが判明。日本ライフ協会は2010年、弁護士ら第三者の事務所で預託金を管理する「三者契約」で安全性をアピールし公益認定を受けていたが、その直後に同協会が直接管理する契約(二者契約)に勝手に変更し、預託金を関連法人に貸し付けるなど流用していたことも明らかになった。
破産管財人によると、二者契約だった会員は約1500人に上る。
「貯金のほとんどを費やしてしまった」
その後、日本ライフ協会は同年4月、約12億円の負債を抱えて破綻。事務所の高額な家賃の支払いなどで資金繰りが悪化していたにもかかわらず、代表自らと息子の専務理事らは多額の役員報酬を受け取っていたほか、都心の高層マンションを借り上げて家賃の一部を同協会に肩代わりさせていたことも筆者の取材でわかっている。
公益法人を私物化して好き放題にやっていた代表を、元役員らは誰ひとりとして止めることができず、さらに内閣府のチェックも機能していなかったことから最悪の事態を招いたというわけだ。
元会員の男性(73歳)は、「頼れる身内がいないので、病気になったときに助けてもらいたいと思って2015年春に加入したばかりでした。ようやく精神的にラクになったと思ったら、こんなことに……。貯金のほとんどを費やしてしまったので、もう他に頼めるお金もありません」と肩を落とす。
ひとり暮らしの心細さを解消するために日本ライフ協会に頼っていた高齢者を、不安のどん底に突き落とした代表ら元役員の罪は重い。せめて受け取った報酬を返還するくらいの責任を果たすべきだが、いまのところそれさえ覚束ないようだ。嘆かわしい限りである。
そもそも同種の支援への社会的なニーズが高まっているにもかかわらず、事業を始めるにあたって行政の許認可がいらないことも問題だろう。第三者によるチェックもなく、悪質な事業者を排除することさえままならないのが現状だ。
肝心のときに頼りにならない
モラルの低い事業者は、ほかにも存在する。
つい先ごろも、愛知県内にある事業者が利用者から遺贈された現金計約1億5000万円を隠し、法人税を免れたとして名古屋国税局から告発されたという報道がなされたばかりである。
内閣府消費者委員会は今年1月、日本ライフ協会の事件を受けて、ようやく事業者の実態把握とそれを踏まえた措置を検討するよう消費者庁や厚生労働省、国土交通省に対して建議を申し立てたばかりだが、早急な対策が望まれる。
「確かにまとめて支援を依頼できるのは便利ですが、サービス内容が多岐にわたり、契約形態も複雑なので高齢者には理解が難しい。何を契約したのかすらわかっていない例も見受けられます。葬儀や納骨などの預託金は事業者の倒産に備え、保全措置を義務づけるなど法的な対応が望まれます」(東京都消費生活総合センターの消費生活専門課長)
実際、預託金を事業者みずからが管理している例は、日本ライフ協会以外でも見受けられる。別法人で管理しているところも存在するが、勝手に引き出されてしまえば、結局は同じだ。入出金の状況を客観的に把握できるよう会員に情報開示できればいいが、そうした事業者は数少ない。
肝心のサービスについても、緊急時に事業者と連絡がつかなかったり、呼び出しに応じてもらえなかったりするなど“期待外れ”に終わる事態も起きている。
身の回りの世話など日常生活の支援を別法人に委託している例は少なくないが、そうした事実を知らないまま契約してしまう高齢者もいるのだ。
途中解約をめぐる苦情が続々
介護が必要になったときの支援も事業者によって差が大きい。東京都内にある某有料老人ホームの営業マンはこう打ち明ける。
「自宅での生活が難しくなって老人ホームへの入居が必要になった際、事業者が本人の希望や予算を踏まえずスタッフが通いやすい場所に決めてしまう例もあります。なかには老人ホーム側に紹介料を要求してくる事業者もあるくらいです」
必ずしも本人のために支援してくれるところばかりではないようだ。とりわけ認知症などで判断力が低下した場合は、サービスの手抜きが行われていても誰にも気づかれない。
預貯金・不動産などの財産管理や遺言書の作成まで引き受けている事業者も存在するが、第三者のチェックが届かないなかで都合よく使われてしまう懸念もある。
全国の消費生活相談センターには、「払い込んだ費用がほとんど戻らない」「高額な違約金を請求された」などといった途中解約をめぐる苦情も相次いでいる。
悪質な事業者にこれ以上老後の大切な蓄えを食いつぶされることのないよう、国には早急な対策を検討してもらいたい。