社説:地域のICT導入 高齢者を支える一助に

2017年02月23日秋田魁新報

 
 高齢化や人口減が進む中、湯沢市が情報通信技術(ICT)を導入して地域課題を克服しようと取り組んでいる。タブレット端末を使って高齢者の安否確認を行っているほか、医師がいない地域では市内の医院と端末をつないで遠隔診療も実施中だ。いずれもまだ試験段階だが、検証を経て近い将来の本格導入を目指している。

 民生委員や医療関係者など地域の高齢者を支えるマンパワーが不足する事態に備えた試みだ。同市を含む県南地域では見守りなど住民の共助活動が盛んになってきたが、この先も支え手を十分に確保できるかどうかは見通せない。高齢化の一層の進展を見据え、ICTで地域課題に対応していくことも前向きに検討すべきだろう。

 安否確認は昨年8月、同市の雄勝地域で始まった。現在は民生委員や住民らが高齢者宅を訪問しているが、ICTの活用実験ではタブレットを約80の高齢者世帯に配布。毎日2回配信される地域情報やお知らせの画面を高齢者がタッチするだけで、市は管理端末で安否を確認できる仕組みだ。

 高齢者が慣れない端末に触ってくれるのかという懸念もあったというが、操作を簡単にしたこともあって8割が利用しているという。地方創生交付金の2200万円を事業費に充てた。市は来月、利用者にアンケートを行って効果を確認するほか、2017年度は対象を市内全域に広げて活用実験を続ける。

 遠隔診療は昨年12月、診療所はあるが常勤医師がいない皆瀬地区でスタートした。医師不足にICTで対処する際の課題などを今月末まで検証する。16年度は国の交付金3500万円を充てており、17年度も自主財源で継続する方針だ。

 日常的に往診している医師の負担軽減が目的で、看護師がタブレット端末を持って患者宅を訪問。患者の体温や血圧などを測定して医院に待機している医師に端末を通じて知らせ、医師は画面で患者の表情などを確認しながら診察する。

 地域課題に対応したICT活用の試みとしては、由利本荘医師会が在宅医療を受けている患者の情報を医療・介護者間で共有するシステムを15年に全国で初めて導入した。県が本年度内に策定する「秋田版生涯活躍のまち構想」にもタブレット端末を使った買い物や見守りの支援が盛り込まれる予定で、県内でも今後ICT導入の動きが活発化することが予想される。

 全国各地でICTを活用した高齢者見守りなどの実証実験が行われているが、地域の事情はそれぞれ違うため他の自治体の仕組みをそのまま導入するのは難しい面もある。自治体ごとに課題を十分把握することが必要だろう。共助組織の活動など住民同士の支え合いを拡充していくことを基本としながら、地域のニーズに即したICTの活用方法を探っていきたい。