新聞以外のものも配ります! 新聞販売店・宅配業者・郵便局が地域密着の新サービスで商機

2017年05月28日AERA dot.

 
 新聞販売店、宅配業者、郵便局など、全国津々浦々に拠点を持ちサービスを提供する業態。地域への細かな目配りができるという強みを生かして、今、新たなビジネスの地平に切り込もうとしている。

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「新聞を配っているだけではあまりにも寂しい。我々の事業の強みはやはり地域密着であること。地元のことは何でも知っているし、地元の情報を発信していくような企業になりたい」

 大阪府枚方市を中心に10カ所の営業所を持ち、西日本の新聞販売店としては最多という購読者3万人を擁するマンモス新聞販売店「アクセス」。社長の村田孝義さん(58)はこう話す。この顧客数を生かして、1千店舗近い地元商店で割引などのサービスが受けられる会員制サービス「ひらかた朝日くらぶ」を展開している。のみならず、独自に割引特典付きのグルメ本や地域限定のスポーツ新聞を発行し、コメを宅配、果ては子ども向け英会話教室まで運営するという多角経営ぶりだ。

●独自取材でスポーツ紙

「顧客と地域と働く人たちが満足できるサービスを提供します」を経営理念に掲げる同社。地域住民にも喜んでもらいたいとの思いからまず手掛けたのが、「ひらかた朝日くらぶ」だ。地元商店にとっては無料で店舗情報を掲載でき、新規の顧客が獲得できるとあって、スタート時の150店舗から1千店舗近くまで拡大した。スポーツ新聞は、新聞の地域欄に載らないような地元のスポーツ大会を取材し、新聞読者に無料で届けている。

 読者の新聞離れが進む今、9割新聞配達、1割折り込み広告という収入構造を改めなければならないと、社内には新規ビジネスの担当社員を配置している。将来的には6割新聞配達、1割折り込み広告、3割新規事業といった比率にできないかと考えている。

「地域に根差したさまざまなネットワークがコミュニティービジネスの基盤になるという動きが全国的にあります。これは今の日本社会の大きな構造変化に対応したものです」

 こう解説するのはニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さん(63)。自由に移動しづらい高齢者が増える中、生活水準を維持するにはICTツールの導入による効率化と、実際に物を届けるための物流の仕組みが必要になると指摘する。

「企業がこうした需要をとらえてビジネスとして参入する場合、もともと地域に物流ネットワークを持っていることは強み。そういう企業が需要に対してタイムリーかつ的確に対応することができる」

●販売店を地域の拠点に

「地域のためにこんなことまでやっているんだと感じてもらえるように、新聞販売店をブランディングしたいんです」

 こう意気込みを語るのは、新聞販売店へのコンサル業務を手掛けるMIKAWAYA21(東京都港区)社長の青木慶哉さん(40)。30分500円で困りごとを解決するサービス「まごころサポート」を全国400店ほどで展開している。新聞販売店は折り込み広告を自前で刷ることができるので、発信力は抜群。加えて「◯◯新聞を配っている」という信用力もあるので、家の中に入る必要のある作業を頼む心理的なハードルが低い。

「全国の加盟店が平均月20件ほどのお手伝いをしていますから、1カ月で8千~1万件くらいの困りごとを解決していることになります。新聞販売店が高齢化社会を支える仕組みをつくっていきたいですね」

 もちろん30分500円では、売り上げが伸びるといっても微々たるもの。ただ、加盟店は困りごとの解決から一歩進んで、エアコンや換気扇の有料クリーニングサービスまでできる体制を整えることで、売り上げを飛躍的に伸ばすことができているという。

「新聞販売店の経営は本当に苦しい。地域貢献に加えて、『ありがとう』と言われながら、新しい売り上げをつくっていくというのがテーマですね」

 4月には、日本初の高齢者向けIoTデバイスを発売した。インターネットに不慣れな高齢者でも、ボタンを押すだけで簡単に外部と通信ができる「MAGO(まご)ボタン」。天気予報や災害情報などを受信するほか、家族に安否確認のためのメッセージを送ったり、コンシェルジュと通話して困りごとの相談をしたりといったことがボタンを押すだけで可能になる。

 まずは、新聞販売店や新聞社を中心に、介護事業者や医療法人など地域密着型の事業者にMAGOボタンと事業化のノウハウをパッケージにして販売。事業者には、高齢者の困りごとの解決の拠点になることで、地域での存在感を高め、既存の事業を強化できるメリットがある。

 ほかにも、買い物難民支援のために新聞販売店をドローンデリバリーの拠点にしたいと、NTTドコモ、ドローンメーカーのエンルートと共に実証実験中だ。新聞販売店で託児所や塾の運営もしたいと考えている。

「新聞販売店を、地域の全世代のサポート拠点にしたい」(青木さん)

●ヤマトも地域をお助け

 全国に約4千カ所の集配拠点を持つヤマト運輸も、地域課題の解決に積極的だ。2010年から、地方自治体と連携しながら社会的課題を解決する「プロジェクトG」を全国的に進めている。

「地域の課題は、全国津々浦々、三者三様でどこも同じではない。課題を一番理解している自治体と協力しながら、地域の資源を活用し、さまざまなプレーヤーと連携してその場所に合ったサービスのモデルをつくっていくというスタンスです」

 プロジェクトGの責任者、山口直人さん(36)はこう言う。

 全国601の自治体でプロジェクトGを行っており、最も多いのは高齢者の見守り支援。高齢化率約55%の高知県大豊町では、地元商店と協力し、買い物の困難な高齢者向けに商品を配達している。高齢者の体調に異変があった場合に町役場に連絡するという見守り機能もある。

 都内では高齢者が増える多摩ニュータウンで、多摩市とUR都市機構と協力。買い物支援、家事支援、コミュニティーの拠点づくりなどを含む総合的なサポートサービスを提供している。その中心になっているのが団地内に新たにつくった拠点「ネコサポステーション」。

「人が集うような仕掛けをつくっている」という拠点は、単なる荷分けや梱包の場ではなく、高齢者を中心とした地域住民の社交の場にもなっている。コミュニティースペースを設け、交流イベントやセミナーを企画運営。住民の相談に乗るコンシェルジュも常駐している。

「住みやすい街づくりを複合的にサポートするモデルを、まずは多摩ニュータウンでつくりたい。この仕組みが地域のお役に立てるということと、社の事業としても成り立つということを確認したうえで、ほかの地域にも広げていけたらと考えています」

●郵便局も新サービス

 全国に張り巡らせたネットワークの強固さでは、2万4千強の郵便局が営業中の日本郵便も引けを取らない。13年からは郵便局員による高齢者宅の訪問見守り「郵便局のみまもりサービス」を行っている。蓄積したノウハウに基づき、同社はNTTドコモやセコム、日本IBMなど8社共同で近く新会社を設立し、高齢者向けの新たなサービスを事業化する方針だ。

 少子高齢化で全国各地で課題が噴出する中、高齢化で一度は打撃を受けた地域密着型の企業がさまざまな業態と組みながら地域を立て直す側に回る──そんな未来が始まろうとしている。