東北被災地で孤独死200人近く 再発防ぐ高齢者見守りサービス続々 日本郵便など参入

2016年5月16日ZUU online


 東日本大震災で大被害が出た岩手、宮城、福島3県で、仮設住宅や災害復興公営住宅で高齢者の孤独死が相次いでいる。

 仮設住宅に空室が増え、周囲の目が行き届かなくなっていることや、災害復興公営住宅で近所との交流が希薄になっていることが原因とみられる。

 行政による見守りサービスは各地で進められているが、被災した独居の高齢者すべてを十分にチェックできているとはいいにくい。そんな中、民間による高齢者の見守りサービスが各地で動き出す一方、情報通信技術を使った実証実験も相次いでいる。新たなサービスの登場が被災地の苦境を救えるのだろうか。

東北3県で200人近い高齢者の孤独死

 被災3県によると、3県のプレハブ仮設住宅には1月末現在で約5万9000人が生活している。仮設住宅で見つかった孤独死の認定数は、岩手県が32人、宮城県が85人。福島県は集計していない。

 岩手、宮城、福島の3県警は2015年末までに200人近い孤独死を確認した。その数は年ごとに増加しており、2015年は1年間で49人を数えた。このほか、岩手県は災害復興公営住宅で5人が孤独死したと集計している。

 プレハブ仮設住宅の入居戸数は公営復興災害住宅への転居が進み、最大時の約半分に減った。空室率も4割以上となっている。空室が増えれば、独り暮らしの高齢者に対し、周囲の目が行き届きにくくなる。

 災害復興公営住宅では、地域コミュニティーを最初から築かなければならず、人間関係が希薄になりがちだ。仮設のように外から簡単に気配をうかがうことも難しい。その結果、高齢者の異変に気づくのが、余計に大変だといわれている。

 仮設住宅や災害復興公営住宅を抱える自治体は、生活支援相談員らが巡回している。岩手県陸前高田市では、19人の相談員が曜日を決めて仮設住宅や災害復興公営住宅を回り、独り暮らしの高齢者を見守り、話し相手になっている。

 しかし、すべての高齢者に十分、目を配ることは難しい。自治会の役員やボランティアらによる善意の声かけにも限界がある。陸前高田市社会福祉協議会は「災害復興公営住宅へ移る人が増え、守備範囲が広くなった。これからがさらに大変になりそうだ」とみている。

日本郵便や綜合警備保障が見守りサービスを開始

 こうした現状を受け、高齢者の見守りサービスにビジネスとして参入する動きが各地で活発になっている。一部は東北3県の被災地でも動きだし、孤独死の解消に力を貸そうとしている。

 日本郵政 グループの日本郵便は2015年から全国2万4000局の郵便局で有料の見守りサービスを実施する体制を整えた。現在1都1道11県の83市町村738局がサービスを始めている。東北の被災地では宮城県美里町が入っている。

 日本郵便広報室によると、このサービスは毎月1回、郵便局員が高齢者の自宅を訪問し、生活状況を尋ねたうえで、確認結果を家族に報告する。30分と60分のコースがあり、追加料金を支払えば月2回以上の訪問も可能になる。

 生活や医療機関の紹介など24時間対応の電話サービスが受けられるほか、大手警備サービスのセコムと提携し、契約者からの要請で警備員が高齢者の自宅へ駆けつけるサービスもオプションに入れている。

 さらに米IBM社、Apple社と協力して高齢者にタブレット端末を無償配布し、健康状態などを遠くに暮らす子供らが確認する実証実験も3月まで山梨、長崎両県で進めた。日本郵便は「利用者のニーズをくみ上げ、アプリ改良やサービスの追加など見守りサービスへの活用を検討する」としている。

 大手警備サービスの綜合警備保障 は、携帯電話大手のNTTドコモ <9437> 、情報通信サービスの富士通 グループなどと連携し、仮設住宅で暮らす高齢者を対象とした宮城県仙台市の独居高齢者生活支援事業に参加している。

 携帯端末からの緊急通報に対応するとともに、トイレのドアに取り付けた開閉センサーに12時間以上反応がなければ、自動通報で安否確認する仕組み。高齢者の孤独や不安を和らげるため、24時間対応のコールセンターも設置している。

 宅配便大手のヤマト運輸は岩手県西和賀町で高齢者の買い物代行サービスを実施、配達の際に高齢者の健康状態を確認し、異常があれば町社会福祉協議会に報告している。青森県黒石市では、市の刊行物をドライバーが宅配し、高齢者の見守りサービスを続けている。

求められる行政と民間企業の連携

 東北の被災地では仙台市を除いてこの5年間に、若者や子育て世代が相次いで故郷を離れ、人口減少と高齢化が一気に進んだ。仮設住宅や災害復興公営住宅への入居で昔からある地域コミュニティーが寸断され、地域による支え合いが困難になっている。

 災害復興公営住宅に移ると、避難生活が終わったとみなされ、支援が手薄になりがちだ。集合住宅の慣れない環境で孤独や不安を増幅させる高齢者は少なくない。ボランティアからは「今後、孤独死がさらに増える」との声が多く聞こえた。

 被災地を訪れるボランティアが年々減少し、自治体の努力だけでは孤独死を未然に防ぐのは難しい。各自治体にとっては次々に産声を上げるこうした民間企業のサービスを活用しながら、きめ細かな見守りを進めることを考えても良いだろう。民間企業にとってもそれは新たなビジネスチャンスになりそうだ。