100%近い検知率を誇る「ビーコン」を使った最先端の「子ども見守りサービス」始動!

2016年1月25日lifehacker


 近年、首都圏を中心に少子化と核家族化が加速しています。特に子育て世代にとって高い関心事であるのが、登下校中の子どもの安全対策。とはいえ、都会に住んでいると、近隣住民の顔さえよく知らないのが現状です。

 そんななか、リクルート住まいカンパニーが開発した、ビーコン端末の活用により、通信回線契約がなくても位置情報が把握できる「子ども見守りサービス」が脚光を浴びています。

保護者から評判上々の「下校しました」通知

 同社は昨年9月から10月末の期間、秩父市立南小学校、目黒区立月光原小学校の2校にて、「子ども見守りサービス」の実証実験を行いました。子どもたちに独自開発のビーコン端末を携帯させ、同時に、2校の地域住民らに子どもたちの「見守り人」として協力を依頼。学校の校門や下駄箱に設置したセンサーのほか、「見守り人」のスマートフォンにインストールされた専用アプリを通じて、登下校中の子どもの動きを検知するテストを実施しました。

 検知された位置情報は、保護者のスマートフォンアプリに通知が届く仕組みになっていて、学校に設置したセンサーの検知率は、正常稼働時で、なんと99%。この新しい試みについて、各地域の保護者からは、「子どもの下校時間が把握できて安心できる」「小学校に携帯を持っていけないので便利」などと、評判は上々だそうです。

 地域の「見守り人」が検知した子どもの位置情報が、保護者のスマホに送信される仕組み。ビーコン端末を携帯した子どもが近づくことで、校門に設置したセンサーや地域住民のスマートフォンが作動し、登下校の通知が保護者に届く。ビーコンは定点に固定する活用事例が一般的だが、移動するビーコンをスマートフォンで検知する方式を採用。これにより、子ども用端末の費用や通学路へのセンサーの敷設費用をかけずに、低コストで子どもの見守りサービスが導入できる。

 実証実験で得た手応えや今後の展望について、その仕掛け人であるリクルート住まいカンパニーのプロジェクトリーダー、河本晃卓(かわもとひろたく)さんを直撃しました。

 ビーコンを使った「子ども見守りサービス」を開発したリクルート住まいカンパニーのプロジェクトリーダー、河本晃卓さん。河本さんが社内の新規事業立案コンテストでグランプリを獲得したのをきっかけにプロジェクトを始動。

小学生の保護者が一番心配なのが、子どもの登下校時の安全

── サービス開発のきっかけは?

河本:当初、社会が抱える問題として、地域コミュニティが崩壊しつつある一方で、少子高齢化や単身・核家族化の進行と行政の財政状況の悪化にともない、地域での相互扶助の必要性がますます増えると感じていました。そこで、いわゆる地域の"ご近所づきあい"を活性化させる仕組みやサービスができないものかと考え始めました。

イメージとして近かったのは、アメリカの「ネクストドア」というご近所さん同士がつながるSNSサービス。でも、かつて行政の掲示板や地域のSNSが流行り、乱立したことがありますが、そのほとんどは残っていないのが現状です。ただ単にSNSのプラットフォームを作るだけでは血の通ったサービスにならないという結論に至りました。

そこで、立ち上げ段階では総合的なサービスではなく、ターゲットを絞った機能的なサービスが必要だと感じ、地域の助け合いを強く必要としているものについて考えました。結果、子育て世代の「子どもの防犯」という答えにたどり着き、サービス検討を開始しました。

まずは小学生の保護者の方たちと何度も会って、どんな時に不安を感じるか、といったヒアリングから始めたのですが、幼稚園から小学校に上がると急に、1人で登下校したりするようになるので、とても不安になるという声が多かったのです。

たとえば、下校時に授業終了が10分遅れても、学校から連絡が来るわけではないので、いつも心配して待っていると。

その声を受けて、登下校中、いつも地域の人が見守ってくれるサービスを作れないかと考え、最終的にビーコンを使った、子どもの位置が検知できる「子どもの見守りサービス」に着地しました。

── 秩父市と目黒区でのテストでは、保護者の方からの反応はいかがでしたか?

河本:学校の校門や下駄箱に設置したデバイスによる登下校検知率は、正常稼働時で99%と非常に高く、満足度が高かったですね。また、アプリの仕様として、開かなくても通知は出るのですが、それでもわざわざアプリを開いてくれる人が毎日6割を超えていました。

秩父在住のあるお母さんは、以前、子どもが横断歩道で交通事故に遭ってしまい、大事には至らなかったものの、以来、子どもの帰りが本当に心配で仕方なかったそうです。

でも、このサービスの通知によって、安心して待っていられるようになったという話を聞きました。こうしたエピソードからも、子どもの安心安全に寄与できるサービスになり得ることを強く実感しました。

── 郊外の秩父市、市街地の目黒区では、テストによる地域差は表れましたか?

河本:登下校時間の通知は、検知した瞬間ではなく、一定時間、継続的に検知したデータを分析することで、校門を出た瞬間にもっとも近い時間を通知することを目指していました。でも、通知までのタイムラグが発生し、目黒区の方では、通知が届く前に子どもが帰宅してしまうという状況が発生しました。

ですので、たとえば学校と自宅の距離によっては、通知のタイムラグの範囲を変える必要性があることがわかりました。あとは地域性とは関係ないのですが、放課後、子どもが校庭で遊んでいるときに、ランドセルの中のビーコン端末が反応して校門に設置しているセンサーが検知し、保護者の方に通知してしまうというケースも。

通知はあるのに、なかなか子どもが帰って来ないと思ったら、結局学校で遊んでいたということもありました。子どもは予測もつかない行動をするので、誤検知が起こらないように電波強度を調整するなど、今後の参考になりましたね。

地域の「見守り人」を増やすことが、サービス拡充のカギ

── ほかに課題点はありましたか?

河本:今回のテストは、いかに高い検知精度が出せるか、という技術的なチャンレジがメインでした。というのも、100%に近い精度で検知しないと、「通知が来ない」と、保護者の方が心配してしまうからです。

検知精度を上げるために、電波の強度を高める工夫もしました。しかし、電波の強度や頻度を上げると検知率は上がる一方で、バッテリーがもたないという問題が出てしまいます。そんな経緯もあって、独自の技術で加速度センサーを搭載したビーコン端末を開発しました。

10秒歩くと、電波が出始める仕組みで、置いているときは電波が出ない仕様にすることで、これまでの何倍もバッテリーがもつようになりましたし、教室で誤検知してしまうなどのトラブルも防ぐことができました。

ほかの課題点としては、地域の「見守り人」を獲得すること。今回のテストは、実施期間が2カ月と短いなか、保護者以外に100名以上の地域住民に協力していただけたものの、それでも「見守り人」としては十分な数には至らず、学校に設置されたセンサーによる登下校検知がメインとなった背景がありました。

将来的に私たちが目指すのは、地域の人みんながアプリを入れることで、子どもの動きを周囲のスマホで検知することができて、GPS代わりに、いつでもお子さんがどこにいるか把握できる世界です。だから、地域のお店などに定点で設置してもらうなど、どれだけたくさんの人に協力いただけるか、というのが今後の重要なテーマになってくると考えています。

子どもやお年寄りの見守り対策として、自治体も注目

── 地域の「見守り人」は、年齢もさまざまで、最先端サービスについてわかりやすく説明するのが大きなハードルになりそうですね。

河本:確かにそれはありますね。ただ、秩父市の場合、市役所の危機管理課の皆さんにご協力いただけたことで、市役所でも置いてもらうことができたのは大きいですね。さらに、各学区の町長さんにご説明したところ、「良い取り組みだね」と、ご賛同いただき、回覧板で全住民にビラを配布することができました。

行政や自治体にご賛同いただけたことで、周知活動がスムーズでした。あわせて、私たちも個別にお店などを回って協力をお願いし、数多くの方にアプリを入れていただくことができました。

もちろん保護者の方も、自分の子どもを見守るためにアプリ入れると、よその子どももあわせて見守ることになるので、保護者の親戚やご近所さんを紹介していただくことができました。従来のイメージでいうと、誘拐や暴力、いたずらなどなんらかのトラブルに巻き込まれた子どもを地域ぐるみで保護するボランティア活動「子ども110番の家」のようなものなんです。

「子ども見守りサービス」も、保護者の方にご協力頂きながら拡大し、最終的には、住民の方が率先して安心安全な街づくりができるような地域社会の構築に、少しでも寄与していきたいと考えています。

── 秩父市の全面協力体制は素晴らしいですね。秩父に限らず、郊外や地方ほど、登下校中に人気がなかったりするので、安全面については特に関心が高いのでしょうか?

河本:今回のテストでは、期間が短かったこともあり、登下校検知が主なテーマとなったのですが、秩父市の場合、登下校の時間が長いという側面が大きかったと思います。将来的に「見守り人」が増えれば、学校の登下校だけでなく、休みの日に友だちの家に遊びに行ったり、習い事や塾などに通ったりするシーンでも活用できると考えており、地域を問わず、メリットを感じて頂けるサービスを実現できると思います。

既存のサービスとしては、カードをかざして出席を検知するシステムが入っているところも多いと聞きます。ただ、そうしたシステムを導入するには多額の費用がかかりますし、見守りをカバーしてくれるのは生活のほんの一部分にすぎません。

一方で、「子ども見守りサービス」が入っている学区であれば、大きな初期投資は不要です。塾の先生がスマホにアプリを入れるだけで、子どもがちゃんと塾に来たかどうかわかるようになります。

学校の登下校検知だけでなく、街全体でサービスの活用を広げていくことで、より一層安全面での価値も増してくると考えています。

── 今後の展開イメージについてご教示ください。

河本:「子ども見守りサービス」は、学校単位を基軸に、1つのエリアで導入の密度が増えれば増えるほど利便性が広がるのが特徴です。だからこそ、各地域の行政と提携し、行政区の中のすべての小学校に導入をおすすめできればと考えています。

さらに、駅前や公園などの公共スペースすべてを定点スポットにできれば、子どもたちの見守り範囲が広がり、かなり安全性や利便性が高まると考えています。

また、今後、ますます少子高齢社会となり、地域社会が抱える課題として、認知症高齢者の問題があります。聞いた話によれば、山奥に住む認知症の方がいなくなると、捜索のために消防団などを動員したり、多くの人員を割いて山中を探し回ったりすることになるので、莫大なコストがかかるそうです。

その解決策として、認知症高齢者の方にビーコンを配り、いくつか定点スポットを行政として作っておけば、捜索が飛躍的にスムーズになると考えています。少なくとも、ご本人がどっちに行ったかということがわかれば、焦点を絞って効率よく探せるし、コストも抑えられる。そういう観点からも、今、行政からの関心がすごく高まっています。

GPS付き携帯電話は端末・回線契約料金ともに高額な上、認知症の方に確実に携帯していただくことや、数日に一度充電していただくことはなかなか困難かと思います。「地域見守りサービス」では、導入規模次第ではありますが、ビーコンの単価は3000円前後を想定しております。

それをたとえば、お年寄りがかならず持ち歩く物に付けておけば、確実に携帯いただけますし、バッテリーも半年以上持つようになっています。月々数百円の負担で有効性のあるお年寄りのための「見守りサービス」が実現できるのではないかと考えています。

── 今後のマネタイズについてはどう考えていますか?

河本:基本的には子どもを持つ保護者の方に月額数百円で利用いただくイメージです。なるべく負担は軽くして、より多くの皆さんに使ってもらえるかたちを目指し、マネタイズの検証を進めています。

── 子どもやお年寄りだけでなく、ペットの迷子防止にも活用できそうですね。

河本:おっしゃる通りですね。そもそものサービスの目的は、地域のコミュニティの活性化がゴールです。子どもや高齢者の見守りだけでなく、幅広い対象や見守り以外の安心安全に関わるサービスにも領域を広げたいと考えています。

先の話にはなりますが、プラスの機能として、たとえば、安心安全マップという事件事故の情報を即時発信したり、回覧板の機能を追加したりすることもできると思っています。サービスを拡充することで、利用者の輪が広がり、最終的には地域のプラットフォームや地域コミュニティの礎となるようなサービスを目指せればと考えています。

「地域になにかしらのかたちで貢献したい」と考える住人の方は、実際多いと思うんです。でも、忙しかったり、なにをすればよいかわからなかったりして、実行できていないのが実情ではないでしょうか。まずはアプリを入れるだけで、地域の子どもたちの見守りができるという、ハードルが低い方ところから参加していだいて、徐々に地域の絆が強まってくような展開で進められれば理想的ですね。

そうした地域の絆から生まれるコミュニティとの接点を生かすことで、今後、さらに新しいサービスを企画する機会も広がっていくと思います。

子どもだけでなく、お年寄りや家族の一員であるペットも含め、地域社会を温かく見守る、セーフティネットワークになり得る「子ども見守りサービス」。今後、より多くの自治体の賛同を得て、学校や地域社会を見守るネットワークが全国に広がるのもそう遠い話ではなさそうです。