国が普及目指す「高齢者見守りセンサー」の凄さ

2016年12月14日日経メディカル

 
 近年、センサー技術を用いた高齢者見守りシステムが相次いで登場しています。その特色や仕組みは製品によって様々で、介護サービス事業者が安全性の確保や職員の負担軽減を目的に導入するケースも出てきました。

 こうした「見守り型IoTシステム」は、政府の「日本再興戦略2016」にも普及促進を図る技術として盛り込まれており、人手不足が慢性化している介護現場では2017年にも普及に弾みがつきそうです。

高齢者の動きを感知しメールで通知

 小型センサーで自宅にいる高齢者の生活を見守るシステムの一例が、(株)Z-Works(東京都新宿区)が開発した「やさしい手LiveConnect」です。複数の小型センサーを居室に設置し、高齢者や要介護者の生活情報を24時間365日、自動収集します。異変を早期に発見できるほか、ケアの効率化にもつながります。

 センサーは、心拍計(心拍数、呼吸数、離床・寝返りを検知)、動作検知(人の動きや室内の照度・温度・湿度などを検知)、そしてドア利用状況の検出(ドアや窓の開閉、照度などを検知)の3種類。これらのデータを自動的にクラウドに送り、時系列に沿って見やすく処理した結果を専用ウェブサイトで確認できるようにしました。「いつも起きる時間に動きがない」「夜中に玄関のドア開閉センサーが反応した」など、あらかじめ設定しておいた“通常とは異なる条件”に合致した事態になると、家族や介護職員などにメールで通知してくれます。

 2016年7月には、在宅介護サービス大手の(株)やさしい手(東京都目黒区)が同システムの提供を開始しました。利用の初期費用は8000円で、月額料金は1800円(センサー1台込み、以降1台追加ごとに400円)。必要があれば月1500円で通信機器(ルーター)も貸し出します(全て税別)。

 同社はまず、自社の在宅介護サービスの利用者を中心に販売しますが、今後、自社および他社が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの各居室に設置することも検討するそうです。介護職員が頻繁に居室を見回る手間を省ければ、介護負担の軽減にもつながります。
 
遠隔画像処理で要介護者の行動を予測

 もう一例、紹介しましょう。ノーリツ鋼機グループのノーリツプレシジョン(株)(和歌山市)が2015年10月に発売した見守りシステム「Neos+Care」(ネオスケア)です。画像処理技術を活用して居室内の高齢者の行動を把握し、転落・転倒につながる動作があった際に職員に通報します。いわば「行動予測型」の見守りシステムです。

 赤外線を用いた距離センサーを居室内に設置し、入居者の動作を3次元の立体映像として常時記録。居室が消灯中でも、赤外線によって入居者の動作を記録できるのが特徴です。プライバシーに配慮し、シルエット画像だけ記録します。

 この立体映像をリアルタイムで解析し、あらかじめ設定した動作パターンを認識すると、職員が持つスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末に通報します。「起き上がる」(起床)、「ベッドサイドに腰掛ける」(端座位)、「立ち上がる」(離床)といった動作パターンを検出可能で、例えば転倒の危険性が高い重度者であれば、「起き上がる」動作を検出したら直ちに通報するように設定できます。離床前に介助することでベッドからの転落や歩行中の転倒といった事故の減少を図ることが可能です。

 また、蓄積したモニタリングデータを分析することで、入居者の移動能力など日常生活動作(ADL)の程度を把握できるほか、睡眠状態の確認や介護職員が定期巡視する時間帯の設定などにも活用できます。

 発売に先立ち、介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの高齢者施設で行った実証試験では、要介護4・5で認知症のある重度者など49人に同システムを使用してもらいました。その結果、1人当たりの1カ月間の転倒回数は約0.6回から約0.29回とほぼ半減。試験前の1年間では49人中、9割以上が1度は転倒していましたが、4カ月の試験中には転倒者の数を21人に抑えられました。28人は1度も転倒しませんでした。

 有老ホーム大手のオリックス・リビング(株)(東京都港区)が2016年6月1日に開設した住宅型有料老人ホーム「流山おおたかの森」(77室)でネオスケアを導入するなど、採用の動きも徐々に広がっています。

認知症高齢者の見守りも

 このほか、センサーを利用した認知症高齢者の見守りシステムも開発されています。その1つが、綜合警備保障(ALSOK、東京都港区)の位置情報提供システムです。タクシー会社の第一交通産業(株)(北九州市小倉北区)と組み、2016年8月から北九州市内で高齢者の地域見守りシステムの実証実験に乗り出しました。

 このシステムでは、まず高齢者などに小型発信機の「みまもりタグ」を身に付けてもらいます。さらに地域でボランティアを募集し、持ち歩いているスマートフォンなどに、みまもりタグとすれ違った際に匿名で位置情報を送るアプリケーションをインストールしてもらいます。

 北九州市の実証実験では、地域の高齢者などに100個のタグを配布。その一方、第一交通産業のタクシードライバーやALSOKの社員・家族のほか、有志企業や地元の自治会などに地域ボランティアとしての協力を依頼。北九州市の同意も得ました。

 例えば、認知症高齢者が徘徊した際に、第一交通産業のドライバーが運転するタクシーとすれ違うと、みまもりタグとドライバーが持つスマホのアプリとの間で位置情報が自動通信され、タグを付けた高齢者の位置情報がインターネット上のサーバーに記録。家族はスマホなどから位置情報の履歴をたどり、居場所を捜索できるようになります。

 ALSOKの取締役専務執行役員の宮澤裕一氏は、介護事業を担当する前、情報・システム担当役員としてCIO(最高情報責任者)職を務めていました。その経験から「警備で培った通信技術などを介護にも応用したい」と意気込みます。今後、子会社のグループホームや介護付き有老ホームなど、高齢者住宅での実験にも取り組むそうです。

厚労省の導入交付金に4倍の応募が殺到

 センサーを用いた高齢者の見守りシステムは、経済産業省と厚生労働省が策定した 「ロボット技術の介護利用における重点分野」にも挙げられており、介護者の負担軽減に期待する声は官民ともに少なくありません。2016年6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」を見ると、介護ロボットの市場規模を2012年の約10億円から2020年までに約500億円、2030年までに約2600億円へ拡大する目標が掲げられています。

 介護事業者側の導入意欲も高く、厚労省の2016年度介護ロボット等導入支援事業特例交付金には、予定の約4倍の応募が事業者から寄せられました。予算の枠内に収めるために、当初300万円だった補助上限額が92万7000円に減額されるなど、ちょっとした混乱も生じたとのことです。

 高齢者見守りシステムに対する介護事業者側の導入ニーズが非常に高いことから、2017年以降も市場は順調に拡大していくとみられます。