高齢者の見守りビジネス 企業の参入相次ぐ

2016年12月03日NHK

 
 高齢化と過疎化を背景に、お年寄りの健康状態などを離れて住む家族が確かめることができる「見守りビジネス」に新たに参入する企業が相次いでいます。

 大手IT企業の楽天は、全国のLPガス会社など18社が加盟する団体と提携し、来年春から見守りビジネスに参入する計画で、今月から鹿児島県内で試験的にサービスを始めました。

 具体的には、ガスボンベの交換を担当する社員と団体の担当者が家庭を訪問し、面談の形でお年寄りの健康状態などを確認します。さらに、認知症の予防に向けた運動や食事のアドバイスを行うために社員が今後、専門の講座を受けて、内容を充実させることも検討しています。

 訪問を受けた薩摩川内市に住む大重五男さんは(73)「今は元気ですが認知症への不安があるのでありがたいサービスだと思います」と話していました。離れて暮らす長女の美樹さんは、「毎日、電話するようにはしていますが長年つきあいのある方に見守ってもらえると安心です」と話していました。

 LPガス会社代表の上薗真歩さんは「利用者の自宅でガス機器の点検をしながら直接、話を聞くことができることが強みで他社との差別化を図りたい」と話しています。

 このLPガス会社と電気の小売り事業で提携している楽天は、都内の本社で、見守りビジネスの対象となる全国の家庭の電気の使用状況をリアルタイムで監視します。家電製品の使われ方や電気を使っている時間帯などからお年寄りが外出していなかったり、夜中も起きている日が続いたりといった異常を確認すると、LPガス会社に連絡し、ガス会社の社員が駆けつけます。

 楽天エネルギー事業部の菅原雄一郎ジェネラルマネージャーは「料金面だけでなく、安心や地域貢献のサービスがお客様に選ばれる重要な要素になる」と話しています。

 見守りビジネスをめぐっては、日本郵便がNTTドコモや日本IBMなどと新会社を設立して全国の郵便局の局員が定期的に自宅を訪問するほか、地域の商店街と連携しタブレット端末で食料品の配達の注文もできるようにする計画で、来年2月から順次、事業を展開することにしています。

 また、東京電力はパナソニック、日立製作所と共同で高齢者の安否を確認するため、家電製品など電力の使用状況のデータを集める事業に参入することを先月発表しました。

 社会の高齢化が進む中で、企業としては高齢者の見守りや認知症の予防など社会課題の解決にも取り組む姿勢を打ち出すとともに、高齢者との接点を深めることで拡大するシニア市場での競争を優位に運びたいという狙いがあり、こうした動きはますます活発になりそうです。

IT大手との連携で顧客をつなぎ止める

 見守りビジネスへの新たな参入をめぐっては、高齢者世帯と接点のある会社と、高齢者世帯とのつながりを深めたいと考えるデータ分析が得意なIT企業といったように、異業種の企業の組み合わせが目立ちます。

 このうち楽天が提携するLPガス会社各社は、社員が月に1回はガスボンベの交換で顧客の住宅を訪れるうえ、緊急時に備えて、いつでも30分以内に住宅に駆けつける体制を整えている会社も多く、顧客との結びつきが強みです。楽天としてはLPガス会社のネットワークを生かして高齢者世帯との接点を深める狙いがあります。

 一方、中小企業が多いLPガス会社は自社で電力データを分析したり、ポイントを付与したりすることは難しいのが実情です。ことし4月の電力小売りの自由化や、来年4月から始まる都市ガスの小売りの自由化でエネルギー間の垣根を越えた競争が激しくなる中、IT大手との連携で新たなサービスを提供し、顧客をつなぎ止めたい狙いがあります。

 また日本郵便とNTTドコモや日本IBMなどとの提携や東京電力とパナソニック、日立製作所との提携も、高齢者世帯と接点のある会社とデータ分析が得意なIT企業や大手電機メーカーなどとの組み合わせとなっています。

進む高齢化と拡大する高齢者向け市場

 国がまとめた、ことしの厚生労働白書では、高齢化が世界に類を見ないスピードで進んでいると指摘されています。65歳以上の人たちが総人口に占める高齢化率は、毎年、上昇していて、去年は26.7%に達し、2020年に29.1%、2025年には30%を超える見通しです。

 また65歳以上の高齢者がいる世帯数は、去年、2372万世帯で30年前の2倍以上に増えています。このうち1人暮らしは620万世帯余りで全体の4分の1以上を占め、夫婦のみの世帯を合わせるとおよそ1370万世帯と、高齢者のいる世帯数の半数を超えています。

 国がことし2月に40歳以上の男女3000人を対象に行った調査では、80%以上が高齢での1人暮らしに不安を感じると答えています。1人暮らしで期待するサービスとしては通院や買い物など外出の手伝いが51.1%、急病など緊急時の手助けが37.8%、日常的な家事支援が37.5%、配食サービスの支援が27.9%、見守り・安否確認が22.1%などとなっています。

 一方、厚生労働省によりますと、認知症の高齢者は去年の時点で全国で520万人と推計され、2025年には700万人に達し高齢者のおよそ5人に1人に上ると見込まれています。

 民間の調査会社「シード・プランニング」によりますと、高齢者の見守りや緊急通報サービスの国内の市場規模はおととし142億円でしたが、2025年にはおよそ60%増え227億円に拡大すると予測しています。また、認知症の予防など認知症ケア支援サービスの市場規模は、ことしのおよそ230億円から2025年には3倍近い679億円に達すると予測しています。