「靴に発信器」で見守り、早期発見を 多摩市と稲城市が実証実験へ /東京

2016年12月01日毎日新聞

 
 認知症のお年寄りらの靴に発信器を付け、家族がスマートフォンで居場所を把握できる--。そんなITを活用した地域の見守り事業が多摩市と稲城市で始まる。徘徊(はいかい)時などの早期発見につなげ、地域ぐるみで高齢者を支え合うネットワークづくりを目指す。全国で認知症の高齢者が行方不明となるケースが社会問題化する中、対策の一つとして成果が注目される。

 両市によると、国土交通省のモデル事業の一環で、専用の機器やシステムを開発した大手警備会社「ALSOK」(港区)が、両市など全国10市と協力し、来年から約2年間の実証実験に乗り出す。両市では認知症の高齢者や知的障害者らそれぞれ200人を対象にする。

 システムは、靴に発信器を付けた高齢者が外出時、スマホに専用アプリを入れた市民と半径100メートル以内に接近すると、位置情報がアプリから自動的にサーバーに送信され、捜索する家族に位置情報が通知される。不明者とすれ違うなどした市民に警備会社から情報提供を求めることはあるが、家族と市民が直接接触することはなく、プライバシーも守られるという。

 発信器は縦3センチ、横6センチ、重さ14グラム。箸置きほどの大きさで、靴の甲の部分に設置する。発信器は近距離無線通信「ブルートゥース」を活用しており、全地球測位システム(GPS)を活用した従来品より小型化され、10日ほどで充電が必要だった電池も約1年間交換不要となる。

 両市によると、現在認知症の疑いのある高齢者は推計で多摩市が5426人、稲城市が1361人。このうち稲城市では31人が過去に行方不明になった経験があり、55人は徘徊する恐れがあるという。多摩市では、他市の駅で保護された人や、行方不明になったままの人もいるが、市高齢支援課は「現状は認知症患者の実態を把握することさえ難しい」と話す。
 一方、スマホにアプリを搭載した協力者の確保も課題だ。多摩市ではこれまでに「認知症サポーター養成講座」を受講した約1万人のボランティアを中心に、地域の事業者や民生委員にも協力を求め、年度内に説明会を開くなどして事業の詳細を詰める。

 多摩市の担当者は「地域全体で誰もが安全安心に暮らせるよう、社会的な理解や助け合いの輪を広げたい」。稲城市の高橋勝浩市長は「都市化によって人のつながりが希薄になる中、機械的な見守りも有効な手段。市全域に面的な広がりを期待したい」と話している。