どうすれば安全安心 離れて暮らす親の見守り 通知サービス賢く活用を

2016年11月24日毎日新聞

 
 父は、母は、無事でいるだろうか--。高齢者だけの世帯が増えるにつれ、離れて暮らす親や祖父母が変わりなく過ごしているかを確認し、緊急時に対応を取れるようにする「見守り」のニーズが、ますます高まっている。通信技術の発達で、さまざまな機器を使ったサービスも登場している。【井田純】

 高齢社会白書によると、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は26・7%(昨年10月1日現在)。高齢者のいる世帯のうち「1人暮らし」と「夫婦のみ」を合わせた比率が5割を超え、全国で約1300万世帯となっている。離れて暮らす親の体調の変化や日常生活におけるトラブル、自然災害の状況などを把握し、安否を確かめる「見守り」は、誰にとっても人ごとではない時代だ。

 ひとことで「見守り」といっても、その担い手や方法はいくつかある。例えば東京都は、高齢者を見守る仕組みを(1)地域住民や民間業者による見守り(2)民生委員やボランティアなど決まった担当者が行う見守り(3)地域包括支援センターなど専門機関による定期的な見守り--に分類、相互に組み合わせることが必要としている。

 最近、特に目立っているのがさまざまな民間業者の見守りサービスへの参入だ。日常生活に不可欠なライフラインや機器などと、各種のセンサーや通信システムを連動させることで、迅速な安否確認を可能にしようというのだ。

 例えば東京ガス。日々のガス利用状況を、離れて暮らす家族に電子メールで通知するサービスを提供している。ガスの使われ方から入浴、食事などの生活パターンを把握し、変化が起きていないかの確認に役立てる仕組みだ。電気についても、さまざまな民間事業者がインターネットを通じて消費電力をモニターできるようにするサービスを始めており、高齢者の見守りに活用されている。

 このほか、トイレや冷蔵庫に取り付けたセンサーで使用状況を検知したり、電気ポットに無線通信機を内蔵して未使用時間や給湯時刻などを定期的に電子メールで知らせてくれたりする製品もある。

 一方、警備保障会社は見守りサービスに緊急時の対応を組み合わせることで差別化を打ち出している。オンラインセキュリティーシステム大手のセコム(東京)は、高齢者が携帯するペンダント型の専用端末を使ったサービスを2013年に始めた。端末のストラップを引っ張ると、同社のコントロールセンターに通報される仕組みで、通話機能を使ってオペレーターと会話もでき、状況によっては係員が出動する。GPS(全地球測位システム)と連動しているため外出時も場所の特定が容易で、救急車の手配や家族からの所在地確認などに利用できる。

 セコムは1980年代初めにホームセキュリティーサービスに参入。押し売りや強盗を想定した「非常通報ボタン」を急病時にも利用する契約者が多かったことが事業のヒントになったという。

 同社の担当者は「最近は、親のために導入を考えているという中高年世代からの問い合わせが増えており、定期的に係員が訪問して生活状況を確かめ、離れて暮らす家族に知らせるサービスも提供している」と話す。

 大手スーパーのイオンは今月から、千葉市花見川区の一部地域で移動販売車の運行を始めた。サービス初日の17日には、地域を管轄する千葉北署との間で地域安全に関する協定を締結、高齢者見守りとも連動する予定だ。

 同社の移動販売車は従来、東日本大震災などの被災地や山間部に限られており、都市部での運行は全国で初めて。日曜日を除く毎日午前10時から午後5時まで、地域内の6カ所で停車し、生鮮食料品や日用品などを販売する。運行地域は鉄道・バスなどの便がよくないエリアで、高齢者も多く買い物支援のニーズが高かった。

 鈴木昇・千葉北署長は「管内の大規模団地は1人暮らしのお年寄りが多く、家族から『連絡が取れない』と問い合わせが入ることもよくある。移動販売車が入って日常的に声をかけてもらえれば、見守りの新たな力になる」と期待する。

 イオンの担当者は「いつも同じ場所に来る客が突然来なくなるなど、何らかのトラブルを早い段階で察知することもあり得る。警察や行政とどんな連携ができるかを検討し、地域の見守りの面でも社会貢献していきたい。高齢者によい暮らしと安心を提供したい」と話し、具体的な対応については運用の中で探りたいとしている。

 政府は「介護離職ゼロ」を掲げ特別養護老人ホームなどの施設整備を進める方針だが、一方で高齢社会白書によれば、お年寄りの8割が「体が弱っても自宅にとどまりたい」との意向を持ち、半数以上が「自宅で最期を迎えたい」と考えている。

 高齢者が晩年を地域で安心して暮らすには、民間事業を通じた見守りだけでなく、専門的な機関を利用することも大きな力になる。「地域包括支援センター」は介護に関わるサービスの紹介や手続きについての支援に加え、地域の見守りの窓口にもなっている。自治体の高齢者福祉を担当する課に問い合わせれば、紹介してもらえる。

 高齢社会白書には、お年寄りの約6割が「若い世代との交流に参加したい」と考えているとのデータも紹介されている。親の見守りはもちろん、自分の住む地域でお年寄りとさまざまな機会にコミュニケーションを図ることは、高齢者全体にとって住みやすい社会の構築につながる。

 「見守りサービスも有効だが、週に1回程度は家族が直接電話を」と話すのは、「高齢者医療と福祉」などの著作がある医師、岡本祐三さん。「いつも家族が気にかけてくれていると実感することが、高齢者の心身の健康にプラスに働く」からだ。

 最新技術の活用に加え、家族のコミュニケーションや地域の支えなど、さまざまな形で高齢者を見守る社会を築きたい。