孤独に陥りがちな独居高齢者
ぬくもり重視の見守りサービスが好評

2015年11月19日週刊ダイヤモンド

 現在、65歳以上で一人暮らしをしている人は、日本全体で600万人と推計されている。調査によると、こうした独居高齢者の40.8%は2、3日に1度しか他者と会話をしていない。この傾向は男性に顕著で、16.7%は2週間に1度しか話をしていないという衝撃的なデータがある(国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」2013年7月公表)。

  病気になれば介護保険が適用され、訪問介護など様々なケアを受けられる。しかし今、シニアケアの世界で抜け落ちているのは、病気の一歩手前。いわゆる「未病」状態の人々への対処だ。

 独居高齢者へのケアというと、まずは機械型を思い浮かべる方が多いだろう。センサー付きの家電で安否を知らせるもの、カメラを設置し生活状況を把握するもの、セキュリティ会社と契約し、いざというときは警備員が駆けつけるタイプ。どれも一長一短あるが、機械を使用しているので、どうしても“見張られ感”がある。離れて暮らす家族は安心できるだろうが、本人の満足度はどうなのか。

 そんな中、新たに注目を集めているのが、会話型の見守りサービスである。これは訓練を受けた専門家(コミュニケーター)が、一人暮らしのお年寄りと定期的に会話し、体調や近況を把握するものだ。その先駆けが「つながりプラス」。週に2回、専属コミュニケーターが高齢者の自宅に電話をかけ、日々の様子を聞く。

 ユニークなのは、どんなに遠くても初回はコミュ二ケーターが自宅を訪問。1、2時間かけてじっくりと、生い立ちやこれまでやってきた仕事、趣味、家族、現在の体調や病気のことなどを聞きだす。北海道から沖縄まで、この初回訪問は必ず行っている。

 「知らない人から『元気ですか?』と問われて本当のことを話す人はいないと思います。実際にお会いして、その人を知った上で信頼関係をつくるのが、私たちのこだわりなんです。顔見知りになった担当者が電話をするので、皆さん、安心してお話しいただけます」と、運営する株式会社こころみの早川次郎氏は話す。

 コミュ二ケーターは、会話術はもちろん、家族への報告を目的とした情報収集術、レポーティング記述法などの訓練を積んだ人ばかり。実技と筆記試験に合格した人だけが採用されている。

少し離れた間柄の人にこそ打ち明けられることもある

 電話で聞いた会話は要約ではなく、ニュアンスや言葉遣いの変化もわかるように、あえて聞き書きにしているのも特徴だ。

「聞き書きのほうが臨場感が伝わりますし、親御さんの変化を察知しやすい。同じことを繰り返し言っているとか、最近言動がおかしくなったなど、ニュアンスがつかみやすいんです」(同)

“暑いですねえ。今日は、もう30度を超えてますよ。まったく。
雨のあとだから蒸し暑いですねえ。でも、うちのほうくらいの山になると、夜は20度くらいまで下がって、温度の差が激しいんですよ。今朝方、風邪気味だったので病院に行ってきました”

 こういった話し口調の聞き書きレポートは、その日のうちに家族へ送信されるので、何かあればすぐに対応可能だ。「詳しいレポートが届くので母のことを考える時間がふえた」「日常の様子がわかるので電話をかけても会話が弾むし、電話の回数もふえた」。サービスを利用する家族からは、こんな感想が寄せられる。

 例えば、お金のこと、近所とのトラブルなど、家族には打ち明けづらい話題をさりげなく聞き出せるのも、専門的な訓練を受けたコミュ二ケーターだから。少し離れた間柄だからこそ、率直に言えることは少なくないのだ。

「会話をしないと生活パターンが同じになりがちなんです。日常生活は話題を共有する相手がいないと楽しくない。実際、サービス利用前は消極的だったお年寄りも、だんだん話すことが楽しくなり、心待ちにしている方も多いです。スーパーで弁当を買う毎日だったのが、近所の中華料理屋へ行くようになったり、アクティブになっていく。話すことによって元気を取り戻し、感情を表現するようになって、結果として行動するようになるんです」

 会話は、声を出したり、相手の反応を伺ったりと脳の活性化につながると言われている。特に認知症の予防策としては無視できないことだ。適切な治療を受ければ、進行を防ぐこともできる認知症。親御さんと離れて暮らしていたがために発病に気づかなかった、という事態を防ぐためにも、日々の確認をしておきたい。未病の段階で対処できれば、リスクを抑えることもでき、ひいては急増する医療費削減の一助にもなるはずだ。