(地域包括ケア@新潟)我が家で暮らせる介護サービス 阿賀町
2015年11月15日朝日新聞
高齢者になっても特別養護老人ホームなどの施設に入るのではなく、住み慣れた家で暮らし続けられるようにするため、国が要と位置づける介護サービスが小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)。県内でこのサービスを積極的に活用している自治体の一つが阿賀町だ。
午後3時過ぎ、おやつの時間。テーブルを囲んで、高齢者が菓子や果物をほおばる。1人で食べるのが難しい人には、職員が介助をする。テレビには、人気が高い時代劇の再放送が流れている。「小規模多機能ホーム ほたる」(同町九島)ののどかな日常だ。
■自由に過ごす
定員25人に対し、19人が登録。1日平均で十数人が通う。来所後、体温や血圧などを測る健康チェックや入浴をした後、折り紙やおしゃべり、体操など自由に過ごしている。
一見、通所介護(デイサービス)のようだが、小規模多機能では必要な時には、そこに泊まったり、介護職員が高齢者の自宅を訪問して生活を支援したりすることができる。一般的な介護サービスでは別々の事業所が行うサービスを、同じ事業所の顔なじみの介護職員が「通い」「泊まり」「訪問」と全てまとめて行うのが特徴だ。
「急に同居する家族が病気になった時などでも、高齢者は小規模多機能に泊まることができます」と向久子管理者。個々の高齢者のニーズに応じて臨機応変なサービスの組み合わせが可能だ。一般的な訪問介護(ホームヘルプ)では、条件が厳しい通院支援も日常的にできる。「『どんな時でも対応します』と説明すると、遠方の家族も安心してくれる」(向管理者)という。
利用できるのは、要介護認定を受けている高齢者。小規模多機能の事業所に登録することで1カ月当たり定額の料金(食費や宿泊費などは別)でサービスを使え、料金も分かりやすい。
小規模多機能は2006年の介護保険法改正でできた制度。定員は現在、最高29人の少人数の在宅サービスだ。国は地域包括ケアシステムの核として、中学校区(人口1万人程度)に一つの設置を目指す。県内では180カ所(11月1日現在)ある。
■異業種の参入も
人口約1万2千人の阿賀町は12年度、拡充された国などの補助金の活用を民間事業者に呼びかけ、計4カ所の小規模多機能の新設につなげた。05年の合併前の旧4町村に1カ所ずつあることになる。
特養などの施設ではなく、小規模多機能に力を入れた背景には、将来の人口の変化を見据えた戦略があった。総人口、高齢者人口はすでに減少が始まっている。町内には特養や介護老人保健施設が整備され、これ以上、大きな施設を増やす必要はない。一方で、25年度の高齢化率は46%を超すと予想されている。
県内の他の地域と同様、町内でも、子どもたちは町外で働き、高齢の親1人が地元に残って暮らす例が多い。親の入院後などは特に、子どもたちは心配して親に施設への入所を勧めるが、親は「慣れた場所で」「雪の時期に家を守るのは自分しかいない」と自宅を離れたがらなかった。町は「施設と自宅の中間の役割を担い、様々なニーズに対応できる小規模多機能は効果的」と判断した。
町の考えに応じ、町内の建設業や観光業など異業種からも介護サービスへの新規参入があり、4カ所の小規模多機能を運営する。こうした動きを受けて、町内で介護サービスで働く人の数は09年の約280人から15年には約490人に増え、雇用を生み出すという副次的な効果もあった。
加えて、町ではすでに全世帯と介護事業所や医療機関を結ぶテレビ電話システムが整備され、高齢者への情報伝達や安否確認にも活用されている。
町健康福祉課の玉木英人主任は「地域包括ケアに必要なインフラは整っている。さらに認知症への対応などに取り組み、望む限り家で暮らせる町にしていきたい」と話す。