高齢者見守り、細やかに 学生が寝泊まりも
地域ぐるみ、企業も協力
2015年11月12日日経新聞
地域ぐるみでお年寄りを見守る動きが加速している。少子高齢化が進む中、行政だけで増え続ける一人暮らしの高齢者や認知症の人の安全を確保するのは難しい。住民や大学に加え、高齢者と接点の多い企業が見守り活動の受け皿になるなど、支援の輪が地域の隅々に広がり始めている。身近な場所にどんな取り組みがあるか。高齢者を近くで支える家族も「もしものとき」に備えて調べておきたい。
「表情が生き生きとするようになった」。秋田県内に住む女性(51)は東京都大田区で一人暮らしをする母親(78)の変化に驚く。
区の地域包括支援センター入新井などが2008年に立ち上げた「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称「みまーも」)に参加。約100人のサポーターの一人として、週3回、みまーもが受託した区立公園の管理作業などに汗を流す。
■自主性を生む
発起人の沢登久雄さんは活動の特徴を「高齢者が互いに見守り、見守られる仕組み」と話す。サポーターは年2千円の登録制。活動に応じて商店街で使える商品券をもらうため自主性も生まれやすい。商店街の空き店舗を改修した拠点で、サポーターが調理した昼食を提供する事業も始めた。女性が母親と会うのは月1回程度だが、「母は地域とつながっている」と不安より安心感を口にする。
見守り活動は以前から行われてきた。しかし、孤独死や所在不明などが社会問題となる中、行政だけでの対応には限界が出ている。きめ細かいケアには地域全体での支えが必要だ。
名古屋市のベッドタウンとして1960年代に開発された高蔵寺ニュータウン(愛知県春日井市)。地元の中部大は高齢者宅に学生が短期滞在し、孤立を防ぐ事業に取り組む。他人が自宅に寝泊まりすることに抵抗を感じる人もいるが、戸田香准教授は「日帰り訪問などを通じて信頼関係を深め団地の活性化にもつなげたい」と意欲を燃やす。
■アプリに位置情報
今や社会インフラといえるコンビニエンスストアとの連携も目立つ。大阪府は9月、大手コンビニ4社と認知症高齢者の見守り活動で協力する協定を結んだ。対象は計約3500店。府介護支援課の担当者は「お年寄りがいなくなったら、ためらわずに助けを求めて」とした上で「家族も服に名前を書くなど、早期発見・保護につなげる努力をしてほしい」と呼びかける。
鹿児島市は7月、鹿児島相互信用金庫(同市)と協定を締結。同信金の市内店舗の職員が営業活動中に高齢者宅に新聞や郵便物がたまるなどの異変に気付いた場合、情報提供する。
IT(情報技術)を使った見守り活動に取り組む自治体もある。兵庫県伊丹市は市内1千カ所に設置予定の防犯カメラと無線受発信装置を連動させ、見守り活動に生かす。発信器を付けた高齢者が防犯カメラの近くを通るとスマートフォンのアプリを通じて家族に位置情報を伝える。見守りに協力する市民向けに発信器を付けた高齢者が近づくとスマホが振動して分かるアプリも開発する計画で、担当者は「子供も含めて、地域ぐるみで安全を確保する体制を整えたい」(安全・安心施策推進班)としている。
■サポーター目標800万人 厚労省、認知症対策を強化
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2010年に498万人だった一人暮らしの65歳以上の高齢者は35年には762万人に増え、高齢者世帯の4割近くになる。認知症の人も25年に約700万人に達する見通し。高齢者に住み慣れた地域で安心して暮らしてもらうためには、見守り活動の充実は欠かせない。
厚生労働省は今年1月にまとめた認知症対策の総合戦略「新オレンジプラン」で、一人暮らしの高齢者の安全確認や行方不明者の早期発見・保護など地域での見守り体制を強化する方針を明記。認知症について正しい知識を理解し、自分のできる範囲で認知症の人や家族を支える「認知症サポーター」の数を17年度末に800万人と、従来目標から200万人引き上げた。
市町村や職場などで実施される養成講座を受講すれば、サポーターになれる。厚労省は今後、養成講座を終了した人が復習を兼ねて学習をする機会を設けたり、上級講座を開くなどし、サポーターの養成だけでなく、様々な現場で活躍できる仕組みづくりを検討していく考えだ。