今日は「介護の日」転ばぬ先の杖で高齢者サポート!

2015年11月11日日刊工業新聞

 高齢者の生活を支援する機器として「見守りシステム」と「歩行アシストシステム」が注目されている。高齢化が進展する日本では病気の診断や治療といった医療体制を充実することはもちろん、高齢者が自立し、安心して暮らせる環境づくりが求められる。元気な高齢者の外出をサポートし、転倒などの不測の事故に対処できる両システムを開発する企業も相次いでおり、今後国内で急速に普及が進みそうだ。

 NKワークス(和歌山市)は次世代予測型の見守りシステム「ネオスケア」を開発し、10月から提供を始めた。特別養護老人ホームや有料老人ホームなどで利用するシステムで、距離センサーで対象者の動作を検知できるのが特徴だ。

 同社の出立祥一ロボット事業プロジェクト課長は「スタッフの”無駄走り“を減らすなど業務負担を軽減できる」と、利点を説明する。従来の離床センサーは通知を受けたスタッフが急いで駆けつけても、寝返りや少し起き上がっただけだったことも多かった。

 同システムは距離センサーを使い、ベッドと対象者の位置関係から姿勢を正確に分析する。動作はシルエット画像として、モバイル端末からリアルタイムで確認できる。転倒につながる危険な予兆動作を検知し、居室に駆けつけなくても状態把握が可能になった。画像データを蓄積し、「なぜ転倒したのかといった分析や、モノの配置を見直すこともできる」(出立課長)。

 キング通信工業(東京都世田谷区)は、シルエット見守りセンサーの販売が好調だ。WiFiルーターとセンサー、タブレット端末でシステムを構築でき、導入しやすいのが”売り“という。センサーで対象者の動きを検知し、ベッドからの起き上がり、はみ出し、離床を区別してスタッフにリアルタイムで通知する。従来のセンサーはタイミングが遅ければ、駆けつけた時に既に転倒している可能性もあった。同センサーは離床前の起き上がりの時点でシルエット画像を確認し、居室に確認に行くことができる。

 エー・エス・ブレインズ(仙台市泉区)が開発した「An・pi君」は、個人ユーザーの利用がメーンだ。本体を電話回線に接続し、センサーをトイレ、居間、玄関、通路に設置するだけで導入が可能になる。

 廣吉秀俊エー・エス・ブレインズ社長は「生理現象でトイレにいっているかを検知するだけで、見守りができる」と強調する。トイレ間隔を見守りタイムと考え、時間を超えてもトイレに行かなかったら安否異常と判断する。既に約1000セットを提供し、賃貸住宅のオーナーが導入することも多い。「入居者が部屋で何かあっても分からない。家賃滞納で異変に気づいても、既に1カ月以上たっていることも珍しくない」(廣吉社長)のが実情だ。

 日本は2025年に高齢化率が30%を超える見込み。国民の3割が高齢者になり、その健康度合いが社会に与える影響は大きい。特に高齢者の転倒は要介護や寝たきりに結びつくことが多く、施設と在宅でともに対策を講じなければ高齢者の健康寿命を延伸することは難しい。

懸念される「健康寿命」との差

 「”転ばぬ先の杖“の市場は大きく広がる。歩行アシスト機器は国内で5000万台以上使われても不思議ではない」。RT.ワークス(大阪市東成区)の河野誠社長はこう語り、歩行アシスト機器の普及に強い自信をのぞかせる。

 同社はロボット・IT技術を駆使して開発した最新機器をこのほど投入。現在、介護・福祉業界では多くのメーカーが同機器の開発に乗り出しており、今後数年で市場が一気に開けそうだ。

 高齢者が1人で操作する手押し車(カート)タイプの歩行アシスト機器は、買い物など日常生活での屋外移動時に手軽に利用できるのが特徴だ。

 搭乗するのではなく、高齢者は歩行アシスト機器を使い自らの足で歩く。外出頻度が増えれば生活も充実し、元気に歩くことは身体機能の維持・向上にもつながる。

 RT.ワークスが発売した製品は各種センサーが路面状況や歩く速度、荷物の重さなどを検知し、ハンドルに手を添えるだけで歩行をアシスト。上り坂でパワーアシスト、下り坂で自動減速を行う。全地球測位システム(GPS)などを利用し、歩行経路や現在位置を家族がモバイル端末で確認することも可能。カートの転倒を関係者に緊急通知する機能など、今後はサービスも拡充していく。

 ナブテスコも自動アシスト・ブレーキ、急加速時の転倒防止ブレーキを搭載したアシスト歩行車を開発中だ。同社は介助用電動車いす「アシストホイール」も手がけており、次世代製品は「従来の抑速ブレーキやアシストホイールで培った制御技術を融合させる」(竹澤善則ナブテスコ住環境カンパニー福祉事業推進部技術グループリーダー)。

 介護・福祉分野向けに階段昇降機などを提供する大同工業も、歩行アシスト機器に本格参入する。カートを押す手元部で自動抑速機能を操作できる新製品を来春発売する計画だ。

 カート前方部に幅広の荷台スペースを設け、「スーパーマーケットの買い物かごを置けるサイズにした」(大同工業)という。

 リョーエイ(愛知県豊田市)が実用化を目指す「ロボスネイル」もユニークな機能を持つ。前面が開けたカート型の歩行機器として利用し、背面に収納した座席部分を下げると自走・介助式車いすに変身する仕組みだ。

 歩行アシスト機器の需要が高まる背景には「健康寿命」がある。日本人の平均寿命(男性80・21歳、女性86・61歳)は今後さらに延びるが、健康寿命との差が懸念される。

 高齢者が健康で自立した生活ができる期間を延ばすには、病気だけではなく転倒・転落による骨折やけがにも注意が必要だ。要介護や寝たきりの期間が延びれば生活の質は向上しない。介護用の車いすはあくまで”転んだ後の杖“であり、利用者が増えるのは問題だ。超高齢社会に突入する日本では、転ばぬ先の杖として機能する生活サポート機器を充実していかなければならない。