地域の高齢者 ITで見守り 防犯カメラや水道メーター利用

2015年10月22日日経新聞

 地方自治体がIT(情報技術)を活用し、高齢者らを見守る試みが広がっている。兵庫県伊丹市は防犯カメラと無線を連動させ、高齢者の居場所を家族らに伝達。岐阜県郡上市は住宅の水道メーターの利用状況で安否を確認する。一人暮らしの高齢者の急増が予想される中、産業界でも見守りに役立つ機器やサービスの開発が活発になっている。

 伊丹市は市内1千カ所に設置する防犯カメラに無線受発信装置を取り付け、高齢者の見守りに活用する。高齢者が持ち歩く約3センチ四方の小型発信器を約2500円で提供。発信器を付けた人が防犯カメラの近くを通ると、スマートフォン(スマホ)のアプリを通じて家族に位置情報を伝える。連絡がとれないときは、カメラの映像を所在確認に役立てる。

 見守りに協力する市民向けのアプリも開発する。発信器を付けた高齢者が近づくと、協力者のスマホが振動して分かるようにするなど、地域ぐるみで安全を確保する体制を整える。子どもの安全を確認するシステムを高齢者に応用する。2015年度中に試験運用を始め、16年度に市全域に広げる。

 郡上市は水道メーターを高齢者の安否確認に生かす。電気機器メーカーなどと連携し、一人暮らしの人の自宅に専用機器を設置。水道の利用が2時間以上続くなどした場合、家族や近隣住民にメールで異変を知らせる。

 東京都世田谷区は「烏山駅前通り商店街」と連携し、ポイントカードを活用した高齢者の見守り事業を始めた。烏山地域に1人で暮らす65歳以上の高齢者のうち希望者にカードを配布。商店街の加盟店でカードを提示すれば、買い物をしなくても「見守りポイント」がたまる。カードの利用が一定期間ない場合、緊急連絡先に電話をする。連絡が付かなかったり、異変を感じたりした場合、区の担当者が訪問するなどして安否を確認する。

 群馬県高崎市は10月から、徘徊(はいかい)高齢者の所在を把握するため、家族や介護事業者に全地球測位システム(GPS)機器を無償で貸し出す事業を始めた。市内には徘徊行動があるとして介護認定された人が約500人いる。位置情報は同市の「高齢者あんしん見守りセンター」が把握し、家族などの求めに応じてメールで伝える。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、10年に498万人だった一人暮らしの65歳以上の高齢者は35年には762万人に増え、高齢者世帯の4割近くになる。また、認知症の人は25年に約700万人に達する見通しだ。

 産業界でも高齢者の見守りに役立つ技術やサービスの開発が活発だ。パナソニックと富士通はインターネットにつなげたエアコンと非接触型の生体センサーを活用し、高齢者が寝ているか起きているかなどの情報を集め、適切にエアコンを制御する。熱中症を防止したり、睡眠中に何度も起きていることを介護職員に通知したりする。

 コニカミノルタは高齢者の呼吸停止や転倒を検知できるシステムを開発し、12月にも売り出す。室内にカメラとマイクロ波装置を設置し、高齢者の異変を検知すると介護担当者のスマホに通知する仕組みだ。

 NTTデータはNTTやロボットメーカーのヴイストン(大阪市)と共同で、ロボットで高齢者を見守るサービスの実証実験を進めている。ヴイストンが開発した身長30センチメートルのヒト型ロボットと、テレビや照明、血圧計などの生活家電をインターネットに接続。ロボットが高齢者の体調や要望を聞き取り、室内の温度や明るさを調節したり、体調管理の助言をしたりする。