増加する「見守りサービス」 使ってみたら親子の交流が増えた!
2015年10月19日週刊朝日
離れてひとりで暮らす老親のことは心配だけど、こまめな連絡や帰省はなかなかできない──。そんな人に便利なのが、高齢者向けの見守りサービスだ。24時間駆けつける手厚いケアから自動の安否確認まで、さまざまなサービスが存在する。しかし、そうしたサービスに対し「まだ元気だから必要ない」と拒絶感を覚える人も少なくない。
高齢者に週2回、専属の「コミュニケーター」が電話で近況を聞き、家族にメールで報告するサービス「つながりプラス」(こころみ)の神山晃男社長は、サービス利用を親に勧める際のポイントを教えてくれた。
「『ひとりじゃ寂しいでしょう?』『心配でしょう』といった勧め方だと『寂しくない』『大丈夫だ』と反発されやすい。それよりも『私たちが心配だからお願い』と子どもから頼むのがコツです」
取材を進めるうち、記者も父親になにか試してみたくなった。NTTドコモに「つながりほっとサポート」という、お年寄りが携帯を使うと自動メールで知らせてくれるサービスがあるらしい。携帯は持ってはいるもののほとんど使わない父にどれだけ役立つかは不安だが、無料に背中を押され、試してみた。
父の古い携帯端末には対応していないとのことで、特別に高齢者向けの端末「らくらくスマートフォン3」を借り、帰省の際に渡してみた。
案の定、父は「いらん」「わからん」「面倒くさい」と不機嫌に。なんとかなだめすかして受信メールの見方を教えて帰京した。
NTTドコモの説明によると、父が初めてスマホを触った時間に自動メールが送信され、触らなかった日もその旨や電池残量を知らせる定期メールが届くはずなのだが、なぜか最初の3日間なんの音沙汰もない。当のスマホに電話をかけても通じず、実家に電話すると、本人は「触っているし電源も入っている」と主張する。「やっぱり79歳でスマホは無理か」と挫折しかけたが、電話越しにスマホの状態を問いただし、すったもんだの“格闘”の末、端末がいつの間にか電波を発しない「機内モード」になっているのが判明した。
ひと騒動はあったものの、それ以後は利用状況を通知する自動メールがしっかり届くようになった。使っていれば安心し、使っていなければ心配が募る。それでも、孫の写真を送ると「かわいえかおしてる」などと、たどたどしい返事をくれることもあり、慣れないスマホを必死で操作する父の姿を思い浮かべてこちらの心も和んだ。当初、想像していた「親のケアを他人や機械に任せている罪悪感」はまったく感じない。親孝行している気分になれるのが意外だった。
シンプルなシステムから24時間駆けつける手厚いものまで、バラエティー豊かにそろった見守りサービス。どのように選び、利用していけばいいだろうか。
遠距離介護を支援するNPO法人パオッコの太田差惠子理事長は「親の心身状態やライフスタイルに合っているかをよく吟味して。最低限の安否確認でいいのか、もう一歩踏み込んだ見守りが必要なのか、目的を明確にするのも重要です」とアドバイスする。
たとえば親が認知症の場合、手厚い緊急通報機能はむやみに押してしまって混乱の原因になる恐れがあるのに対し、センサー型なら、症状の進行を察知しながら見守りができる。また、ガスや携帯、ポットなどの利用状況を知らせるタイプは、毎日それを使う親の安否確認にはぴったりだが、頻繁に使わない人にはあまり意味をなさなくなる、という具合だ。
「一度利用するともう手放せなくなる、という人も多くいます。上手に使えば親子の絆を深めることができますよ」(太田さん)
記者の場合、それまでは忙しさにかまけて親のことを思い出さない日も多かった。だが、今は毎日の自動メールが届くたびに父のことを思い、ほんの一言あるいは写真だけという簡単なものだが、メールを返す。
安否確認や健康管理という点では万全とはいえないかもしれないが、以前よりずっと父を身近に感じるし、連絡することが増えた。見守りサービスは互いを思い合う親子の心をそっとつないで、形にしてくれる存在なのかもしれない。