高齢化社会とごみ

2015年7月25日朝日新聞

 年をとると大変なのが毎日のごみ出しだ。分別はよく分からないし、集積所まで運ぶのはきつい。ちょっと面倒臭がると、あっと言う間に「ごみ屋敷」になってしまう。市区町村には、急激な高齢化に合わせて、ごみの収集方法を変えたり、安否確認に利用したりするところも増えている。高齢者にとって、ごみは一大事なのだ。

 ■広がるふれあい収集

 2012年5月、東京都町田市内の集合住宅。市職員が、独り暮らしの80代女性宅の玄関にごみ袋が出ていないことに気づいた。呼び鈴を押しても、応答がない。市はケアマネジャーを通じて近くに住む息子に連絡。駆けつけると、いびきをかいていた。脳梗塞(こうそく)の疑いがあったため、救急車で病院に搬送したが、命に別条はなかった。

 昨年3月には、別の集合住宅の3階に住む独り暮らしの70代女性宅のごみが出ていなかった。ケアマネが預かっていた鍵で中に入ると、女性は空の湯船にはまった状態だった。救急隊員を呼んで救助された。

 町田市は02年、ごみ出しが困難な高齢者や障害者を対象にした「ふれあい収集」のモデル事業を始めた。通常はごみ集積所から収集しているが、ふれあい収集に登録すれば、玄関先までごみを受け取りに行く。ごみが出ていない場合には、利用者に声をかけ、応答がなければ安否を確認するシステムだ。09年に正式に事業化し、現在の利用者は介護が必要な高齢者を中心に280人となっている。

 市内には高度成長期に開発された大規模団地が多く、高齢化が急激に進んでいる。ふれあい収集の利用者も、このような集合住宅に多いという。安否確認は1日数件あるが、99%は問題なく確認が取れている。救急車などの要請が必要なのは年4、5件、発見時に死亡しているケースも年に1、2件はあるという。市3R推進課は「高齢者福祉課などと連携して、未然に防止できないかを検討している」と言う。

 通常のごみ出しから異変に気づくこともある。分別がめちゃくちゃになったり、ごみ出しの日が分からなくなったりしていることに収集員が気づくと、市からケアマネに連絡する。認知症が進んでいる場合などには、ふれあい収集に移行したり、施設入所を勧めたりすることもあるという。

 高齢者のごみ出しを支援する制度を導入する市区町村は、増えているとみられる。札幌市環境局と地方自治研究機構による家庭ごみの収集に関する調査では、10年度には政令指定市のうち札幌市、横浜市、名古屋市、京都市など9市が実施していた。利用者も増加傾向で、最も早く1996年に始めた大阪市は約9800人になっている。北九州市も昨年から導入した。小さな自治体にも広がっているようだ。

 国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センターの多島良さんや小島英子さんらは12年、茨城県つくば市の一部の住民にアンケートと、ごみの中身を調べる組成調査を実施した。

 その結果、以下のようなことが分かった。調査対象の高齢者は、1回の可燃のごみ出しで、平均約4キロを100メートル程度運び、1・7分かかっていた。75歳あたりを境に2袋以上出す人は減っていた。後期高齢者の女性のうち半数は、足腰が悪くてごみ出しに苦労していた。3割の高齢者は、ごみ出しに将来的な不安を抱いていた。

 高齢者の大半は「将来、ごみ出しが大変になったら、支援制度を利用したい」と答えた。だが、プライバシーや遠慮の気持ちから、制度利用をためらう人も少なくないという。

 ■「ごみ屋敷」も課題に

 家の内外にごみが散乱し、隣近所にも迷惑をかけるいわゆる「ごみ屋敷」が、各地で問題になっている。

 だが、「ごみ屋敷」にも2種類ある。一つは収集癖のある人が外から持ち込む場合、もう一つは体が不自由な高齢者がごみを持ち出せずにため込む場合だ。これから大きな問題になりそうなのは、むしろ後者の方だ。

 東京都足立区は2012年度、生活環境の保全に関する条例を施行した。ごみや樹木、雑草などが放置されたり、道路へはみ出したりしている場合に調査、近隣に被害を及ぼしている時には指導、勧告する。改善されない場合は、命令や代執行もできる。区条例の特徴は、所有者が自分で改善できない場合に支援ができるという点だ。

 「ごみ屋敷」に関する相談は、14年度末までの3年間に108件あった。このうち収集癖は3割で、ごみが出せない高齢者世帯が半数を占めるという。命令や代執行はまだ1件もないが、支援したケースは2件あった。

 このうち1件は、70代の認知症の母と引きこもりの兄、車いす生活の妹の3人暮らし。区が調査した13年3月には、電気、ガス、水道が止められ、公園などから水をくんで生活していた。区は有識者による審議会に諮ったうえで、限度額の100万円を支出してごみや樹木などを処分した。建物も危険なので解体された。3人は、新たに生活保護の手続きを取り、近くのアパートで生活しているという。

 吉原治幸・区生活環境保全課長は「私有地のごみの片付けに税金を使うことに異論もあったが、仕方がない場合もある」と言う。行政だけでなく、自治会やNPOなど地域との連携も重要という。

 「ごみ屋敷」条例も、新宿区や京都市などが導入するなど広がりを見せている。昨年導入した大阪市が8月末までに把握した「ごみ屋敷」は、95件あった。実態調査では、半数以上が独居で、70代以上は4割を占めていた。認知症も6件あった。「自分でごみが捨てられない」は45件で、「ごみを集めてくる」の16件より多かった。

 高齢者世帯からは、おむつや在宅医療廃棄物などのごみも出る。注射針などは医療機関、ほかは自治体が処理するという原則だが、実態は不透明だ。自治体からは「さらなる高齢化に対応したごみ対策について国に指針を示してほしい」という声が上がっている。だが、いまのところ動きはない。