民生委員なり手不足で高齢化が深刻 福井県内、地域支える基盤揺らぐ

2015年6月10日福井新聞

 高齢者宅を訪ねて話をするなど、地域に密着した見守り活動を行っている民生委員のなり手不足が福井県内で深刻化している。県内約1800人の平均年齢は64.6歳と約10年で3.5歳上がり、“定年"に当たる75歳を過ぎても続けているケースが多い。一人暮らしの高齢者が増え、民生委員の役割が増す中、関係者は「社会の基盤が揺らいでいる」と警鐘を鳴らしている。

  ■道をフラフラ■

 「道ばたでおしっこをした高齢の女性がフラフラと歩いている」。ある日の早朝、福井市内の70代の男性民生委員宅に、連絡が入った。

 男性は現場に駆け付け、女性を保護。日ごろから女性の世話をしている近所の親せきの元へと届けた。男性は「女性が認知症であることや、誰が世話しているかを知っていたから対応できた」と話す。

 民生委員は地域住民の一員として、高齢者の見守りや安否確認などを行い、必要に応じて専門機関に報告する。国の基準では10万人以上の市の場合、170~360世帯に1人、10万人未満の市なら120~280世帯に1人、町村部は70~200世帯に1人を配置することになっている。

 国勢調査によると、県内では高齢者(65歳以上)の一人暮らしが2000年に1万4790人、05年に1万8020人、10年には2万1356人と増加の一途。民生委員の仕事も、認知症への声かけ、振り込め詐欺を防ぐための普及啓発、災害時に援護が必要な人の安否確認など、幅広くなっている。

 県民生委員児童委員協議会の清川忠会長(74)は「民生委員の重要度は年々増している」と話す。

  ■倒れても継続■

 福井市の別の男性(73)は68歳のとき、地区の自治会連合会長から民生委員を頼まれた。前任者が病気で亡くなったためだ。「大変そうなので一度は断ったが、どうしてもと言われ引き受けた」

 2年前には自身が脳梗塞になり、自宅で倒れた。体の機能は低下したが、民生委員は今も続けている。4月の高齢者宅の訪問活動は10回。体はきついが「後を任せられる人が見つからない」と話す。

 民生委員の平均年齢は04年に61・1歳だったが、13年は64・6歳。民生委員の高齢化の背景には、なり手がいないこともある。ある民生委員は「法律によって企業は原則、65歳まで雇用する義務を負った。65歳を過ぎた人に、民生委員をお願いしても、すぐには引き受けてもらえない」と話す。

 厚生労働省は「民生委員は75歳未満の者を選任するよう努めること」としているが、県内で活動する1827人のうち、75歳以上は38人。清川会長は「ここ数年、民生委員のなり手不足が大きな問題になっている」と打ち明ける。

  ■変化見逃さず■

 福井市には、看護師や社会福祉士などの専門職でつくる地域包括支援センターが9カ所ある。民生委員は、見守り活動などで異変を察知した場合、センターに連絡することになっている。

 同センターのある担当者は、民生委員の役割について「ごみや新聞がたまっているなど、小さな変化を見逃さないため、さまざまな問題の早期発見につながる」。問題を抱えた高齢者の支援を計画する際にも、地域を知る民生委員の存在は不可欠という。

 地域には、民生委員の職務と一部重なる福祉委員もおり、両者が連携しながら、より細かい見守り活動を展開している。しかしこの担当者は「高齢化が進み、なり手がいないのは福祉委員も同じ。長い間地域を支えてきた基盤が、人口減少や高齢化によって揺らいでいる」と指摘する。