入居者「孤独死」 備える保険
2015年4月15日読売新聞
賃貸住宅での高齢者の「孤独死」が後を絶たない中、亡くなった人の部屋の「後片づけ」が課題になっている。
掃除や家財の処分に手間と費用がかかり、大家の負担になることが多いからだ。負担を嫌がり高齢者の入居を避けるケースも。こうした状況を受け、片づけの費用を補う保険商品も相次いで登場している。
賃貸住宅 大家の負担軽減
東京都内の木造アパートで今年1月、70代の男性が亡くなっているのが見つかった。死後1か月ほどたっていたとみられる。男性は6年前の入居時から一人暮らし。室内は散らかり放題で、臭いも取れなかった。大家の女性(59)は、「壁紙や床を全面張り替え、流しや風呂、トイレも入れ替える修繕に踏み切った。負担は大きい」と明かす。
孤独死が、賃貸住宅の経営課題になっている。
一般に居住者が亡くなると、家財処理やひどい汚れの清掃などは相続人らが行う。しかし、身寄りがなかったり、あっても拒否されたりして結果的に大家が行うケースが少なくない。風評によって借り手が見つからず、家賃を値下げせざるを得ないことも多い。
三菱総合研究所が2013年、979の管理会社や仲介業者、1000人の大家らを対象に行った調査では、管理・仲介の44%、大家の12%が「高齢者に貸さない」と回答。多くが、孤独死に対する不安や、それに伴う経済的損失を理由にあげた。
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こうした状況を受けて4年ほど前に登場したのが、孤独死に備える大家向けの損害保険だ。室内の片づけや修繕にかかった費用などを一定額支払う。保険金が少額で期間も短い商品を扱う「少額短期保険会社」を中心に、10社ほどが手がけている。
冒頭の大家の女性は2年前、アイアル少額短期保険(東京)の「無縁社会のお守り」に加入していた。1年契約の掛け捨てで、保険料は1室あたり月300円。修繕にかかる請求書などを送り、費用の一部約18万円を受け取った。
「アイアル」によると、契約数は現在約1万3000戸。年々関心が高まっているという。
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東京都新宿区の都営「戸山団地」で居住者の見守り活動を続けてきたNPO法人「人と人をつなぐ会」は昨年、都内の少額短期保険会社「メモリード・ライフ」と共同で、「希望のほけん」を開発した。保険料を払うのは居住者で、例えば65歳以上の女性の場合、月3000円。家財整理や修繕に加え、葬儀や納骨までカバーする。身寄りがない人のため、同会などの第三者を保険金の受取人とすることができるようにした。
同会会長の本庄有由さんは「頑張って巡回などの見守り活動をしてきたが、孤独死はなかなか減らないし、居住者から『死後は人に迷惑をかけたくない』などの不安の声もあった。亡くなった後の対策も必要と思った」という。
「希望のほけん」は今月から本格的に販売される。団地内の居住者に限らず、高齢化が進む他の団地や高齢者向け住宅なども対象にしていく。
今後、高齢者の単身世帯はいっそう増え、住宅需要も高まる。ニッセイ基礎研究所の塩沢誠一郎さんは「こうした保険によって大家の不安が解消され、高齢者が入居しやすくなる面もある。保険と、予防や早期発見のための見守りをセットにした賃貸住宅を増やす必要がある」と話す。
「後片づけ」頼む心得
終活講座などを行う日本消費者協会専務理事、佐伯美智子さんの話
住まいの「後片づけ」に関しては、法律家や葬送関係のNPOなどと生前契約を結ぶ方法もある。家財の整理だけでなく、葬儀や墓の手続きなども任せられるが、契約時に預託料などのまとまった金が必要になるのが一般的。一方、孤独死対策の保険はまとまった費用はかからないが、必ずしもすべてを賄えるものではない。
人様の世話にならず一人で生きてきても、亡くなれば必ず誰かの手を煩わせることになり、費用がかかる。後片づけを頼む人が迷惑だったと感じないような備えをすることが、自立して生活してきた者の責任だと思う。
増える高齢者単身世帯
国立社会保障・人口問題研究所の2013年の推計では、65歳以上の高齢者の単身世帯は、一貫して増え続けている=グラフ=。全世帯数に占める割合は、1985年には3.1%で33世帯に1世帯だったが、2035年には15.4%で7世帯に1世帯になると推計する。
孤独死に関する全国的な統計はないが、東京都監察医務院によると、東京23区内で自宅で死亡した一人暮らしの高齢者は07~13年、毎年2000人を超えている。
不動産、福祉、行政の連携を
取材を終えて 「利便性が良く、新しい物件は高齢者に貸せない」「表立って言えないが、年齢制限はある」。取材中に聞いた不動産関係者の本音に、高齢者が住まいを得ることの厳しさを痛感した。「後片づけ」に対応する保険の普及は、高齢者の住宅事情の改善に一定の役割を果たすかもしれない。ただ、孤独死が起こる世の中の問題を根本的に解決するものではない。不動産業界と、社会福祉関係者、行政が連携した取り組みがもっと必要だと感じた。(斎藤圭史)