お茶の間のテレビと自治体がつながる! 京都府和束町が構築した行政情報配信システムとは?

2015年3月25日ITmediaエンタープライズ

 京都府和束町は、2014年11月に「茶源郷行政情報配信システム(和束町チャンネル)」を本格的にスタートさせた。NTT西日本は和束町と「情報化に関する協定」を結び、グループ一丸となって和束町をサポートしている。活力あふれるまちづくりを推進する和束町と、先進的なICTソリューションを通じて社会に貢献するNTT西日本の取り組みを取材した。

 京都府南部に位置する和束町は、全国的に有名な「宇治茶」の主産地として知られる。府内におけるお茶の栽培面積の約40%を占め、茶畑の風景は府の景観資産に指定されている。2013年には「日本で最も美しい村」連合にも加盟。町の起源を奈良時代にまで遡ることができるなど、恵まれた自然や歴史、文化、産業を活かしたまちづくりが全国から注目を集めている。

 この豊かな郷土がもたらす活力と人々の交流を通じたまちづくりをさらに推進するため、2013年9月に和束町は、「スマート光戦略」を推進するNTT西日本と「情報化に関する協定」を締結し、「茶源郷行政情報配信システム(和束町チャンネル)」を2014年2月に構築。トライアルを経て町制施行60年の節目となる同年11月に本格運用をスタートした。

「スマート光戦略」とは?
NTT西日本はICTによる新たな価値創造をめざして、様々なパートナーと連携したソリューションを提供。家庭や生活(ライフ)、職場や仕事(ビジネス)、地域活性・まちづくり(タウン)の3つの分野で、新しい価値やライフスタイルの創造に取り組んでおり、その取り組みをそれぞれスマート光ライフ、スマート光ビジネス、スマート光タウンと呼んでいる。

活力と交流を生み出す「まちづくり」

 和束町の人口は4357人、世帯数は1751世帯(2015年1月1日現在)を数える。1992年の人口は6079人(国勢調査結果)であり、日本の多くの山間地域同様に人口の減少・少子高齢化が進んでいる。このような人口減少・少子高齢化により、まち全体の活力が低下し続けている状況を踏まえ、和束町では、まちづくりのテーマとして、すべての住民がふるさとに誇りを持った全員参加のまちづくりを掲げ、「わづか2010 ふるさと新生プログラム」と称した「第3次総合計画」を2001年に策定、住民と行政のパートナーシップを通じたまちづくりに取り組んできた。2011年度から始まった現在の「第4次総合計画」では子育てにやさしく、高齢者がいつまでも働ける、住み良い町づくりをさらに推進中だ。

 和束町 町長の堀忠雄氏は、「人間らしさを育む豊かな自然と人々の交流を通じて、いつまでも健やかに暮らすことのできる理想郷をめざしています」と話す。町の別名でもある「茶源郷」とは、理想郷とされる「桃源郷」と和束町を象徴する「お茶」を組み合わせたものだ。

 和束町では行政と住民と“つながり"を古くから大切にしてきた。その1つが、1981年に全国で4番目にスタートしたCATVによる町営のテレビ放送だ。庁舎内に専用スタジオを設け、約30年にわたって町内の話題や議会中継などの様々な行政情報を、テレビを通じて住民に発信してきた。「例えば、小学校の運動会で活躍する子どもたちの姿を外出が困難なお年寄りが自宅のテレビで見ることができれば、『がんばっているわね』『がんばったよ』という会話が自然と生まれます。行政と住民だけでなく、住民同士の絆も育むことができる『テレビ行政』を推進してきました」(堀氏)

 だが、2011年7月のアナログ放送からデジタル放送への完全移行がテレビ行政の転機となる。和束町では町営放送のデジタル化を検討したものの、多額の設備投資が必要となることから、デジタル化を断念。30年続いた町営CATV放送の事業に幕を下ろすこととなった。しかし、長年にわたるテレビ行政の経験から自治体による情報発信の重要性を認識していた和束町は、地域コミュニティーのさらなる活性化の仕組みとしてICTの活用に注目し、新たな行政サービスの検討をスタートさせた。

双方向で新たな行政サービスをめざす

 新たな行政サービスの実現をめざす和束町から相談を受けたNTT西日本は、相互に連携しながら地域社会の活性化と住民サービスの向上へ取り組むことを同町と合意し、2013年9月に「和束町における情報化に関する協定」を締結した。

 堀氏は、「ICTの特徴である双方向性を、従来の町営放送では難しかった新たな住民サービスの実現に活かせるのではないかと感じました。町は技術に詳しいわけではありません。豊かな生活につながる様々なサービスを開発し、住民へ提供していくためには、ICTに精通したNTT西日本との連携が不可欠でした」と語る。

 和束町では長らくテレビを活用した情報発信に取り組んできた経緯から、ICTを活用した新たなサービスではPCやスマートフォンを持たない高齢者でも簡単に利用することができるシステムを必要としていた。そこでNTT西日本は、町民の各家庭にあるテレビに接続するだけでリモコン操作により、インターネット上のコンテンツを気軽に利用できる「光BOX+」を活用した情報配信システムを和束町に提案。和束町もこのシステムが、町民が慣れ親しんだCATVによるテレビ放送と同様にテレビを通じて住民が行政サービスを利用できることで、町内への導入がスムーズにできると判断し、採用を決定した。

 新たな情報配信システムの開発に向けて和束町は、各課の職員が参加する検討委員会を設置し、月1回程度のペースでNTT西日本と技術面を含めた検討を重ねた。システムを活用した住民サービスの可能性は非常に幅広いものの、限られた時間や体制の中で取り組まなければならないという課題もあった。

 和束町 参事の大西峰夫氏は、「最初に全てを決めて作り込むのでは時間がかかり過ぎてしまいます。まずは動いてみて、何ができるのかを全員で考えながら取り組んでいきました。そこで、まずPCやスマートフォンが無ければ見ることができなかった町のホームページやFacebookのページを、テレビを通じて見せることから始めたのです」と話す。

 和束町との検討を踏まえてNTT西日本は、行政情報の閲覧や地域情報の配信ができる「茶源郷行政情報配信システム(和束町チャンネル)」を構築し、2014年2月からトライアルサービスを開始した。

 和束町では「和束町チャンネル」を住民に利用してもらうために、NTT西日本のフレッツ光回線を契約した住民へ「光BOX+」を無償配布している。「和束町チャンネル」は、町制60周年を記念した2014年11月の「茶源郷まつり」に合わせて正式サービスへ移行。トライアルで提供していた町からのお知らせを配信する機能に加えて、町のイベントの動画やライブカメラ映像、防災情報の配信、さらに住民と役場が双方向でコミュニケーションできるアンケートなど、新たな機能を提供している。

 大西氏によると、2015年1月時点で約400世帯で「光BOX+」の設置が完了しており、引き続き希望者への導入を推進している。

 利用者からの評判も上々なようだ。例えば、従来のテレビ放送では町のお祭りや運動会などの映像は事前に編成した時間帯にしか放送できなかったが、新システムではオンデマンドで見ることができるようになり、いつでも好きな時に閲覧できることから、特に子育て世代の住民からは「子どもたちの元気な様子が良く分かるようになった」といった声が寄せられているという。

 「町からの情報を『光BOX+』を接続したテレビで閲覧できるおかげで、これまでPCを持っていなかった世帯の方にもご利用いただけるようになりました。これからも住民の生活にとってメリットのある新たなサービスを検討し、提供していきたいと考えています」(大西氏)

 和束町では「和束町チャンネル」を通じた町議会の生中継の映像配信や、高齢者向けの安否確認などをはじめとする住民の暮らしに貢献する新たな行政サービスの実現に向けて様々な可能性を引き続き検討している。

グループの総合力で和束町をサポート

 「和束町チャンネル」の実現においてNTT西日本は、グループ各社や和束町と密接に連携しながら、システムの開発・構築から「光BOX+」の導入や設置、保守に至るまで一元的にサポートしている。

 NTT西日本京都支店 第一ビジネス営業部 企画部門主査の松下浩敏氏は、「和束町チャンネルでは行政情報配信システムとしての高い信頼性や安定性に加え、和束町役場の職員が容易に情報を発信でき、住民もテレビから行政サービスを手軽に利用することができる使いやすさが求められていました。和束町様のご期待に応えるべく、NTT西日本グループ一丸となってスピード感を持ったシステム提案を心掛けました」と語る。

 NTT西日本は、京都支店を中心に和束町の検討委員会と各種要件の検討を進めながら、NTT西日本グループ各社と連携してシステムの構築を進め、協定締結からわずか5カ月後の2014年2月に、早くもトライアル版の稼働を実現している。

 「和束町チャンネル」の利用者の多くは一般の住民のため、わかりやすく直感的なユーザーインタフェースや操作性に優れたアプリケーションが求められる。この点について、NTT西日本京都支店 第一ビジネス営業部 SE部門主査の神谷勝己氏は、「『光BOX+』が持つ本来の使いやすさに加え、お年寄りや子どもでも容易に操作できる使い勝手を実現しなければなりません。双方向機能を利用するアプリケーションをより使いやすくするために、当社から和束町様にサンプルとなる事例をご紹介し、和束町様からも様々なご意見やご要望をいただいて、グループ各社の協力を得ながら技術面での検討を重ねることで作りあげました」と語る。

 また、情報発信をする町の職員もITの専門家ではない。そこで、配信情報を登録する職員用のCMS画面は、全職員が手軽に操作できるようしたいという和束町の要望を反映、電子メールを書くような感覚で配信情報を入力できる非常にシンプルなデザインのインターフェースを開発。また、担当者が登録した情報を適切なタイミングで配信していくためのワークフロー機能についても、行政組織の承認ルールを考慮した承認フローを組み込むなど、システムには和束町の声が数多く反映されている。

 また、映像配信の機能についても、本システムでは担当者がCMSに配信を登録するだけで自動的に動画配信システムへの設定が反映されるようになっているため、一般的なシステムのように担当者がCMSと動画配信システムにそれぞれ映像の配信登録をしなければならないという手間が省ける工夫がされている。

 システム開発について、神谷氏は、「和束町様は5年後、10年後にも使えることをめざしておられました。厳しい要件もありましたが、和束町様と一緒に取り組むことで、当社だけでは気づくことのできなかった様々な知見を得ることができました」と話す。

 松下氏も、「住民の方々がエンドユーザーとなるシステムなので、提供側である和束町はもちろん、住民側にも安心して利用できるものでなければいけません。そのために和束町役場や地元区長の方々と密接に連携しながら、アプリケーション、ネットワーク、端末をしっかりとサポートできるよう努めています」と語っている。