【見解】孤立化を防ぐ 幅広い「見守り」を 社会部・入江剛史
2014年12月05日西日本新聞
「ここは都市の限界集落だ」。福岡市・天神から車で約10分の福浜団地。福浜校区自治協議会の田中久志会長は嘆いていた。同校区は2004年から14年にかけて人口が約930人(15%)減り、高齢化率も36.8%と高い。かつては若い夫婦や親子が暮らしていたが、1人暮らしのお年寄りが増えている。
市営団地は高齢者らが優先的に入居できる仕組みがあり、超高齢化が急速に進む。こうした人口減少社会の「先進地」では、どう孤立死を防ぐかが課題となっている。
福岡市は人口が増え続けているものの、25年以降には減少に転じる見込み。同市を舞台に人口減少の「芽」をみつめる連載「成長都市の実像」を担当し、現場で感じたのは孤立化が広がる恐れだ。
市では未婚率が34.5%(10年)と政令市で最も高い。その一方で、1人で暮らす75歳以上の高齢者は3万1千人(同)で25年には、その2.4倍の7万4千人に達する見込みだ。連載でも、一人で生きる決意をした「おひとりさま」の女性、妻との別れで孤独に耐えるお年寄りたちを紹介した。
人口減少に歯止めをかけるには出生数を増やし、少子化を是正する必要がある。ただ急速な改善は望めず、超高齢化が進むことは避けられない。まず、どう孤立化を防ぐかに向き合わざるを得ない。
通報を受けて住居に駆けつけ、孤立死を防ぐNPO法人「孤立防止センター」(福岡市)の速水靖夫理事長は「大声での呼びかけに応答がなくても部屋の中で住民が倒れているとは限らない。扉を閉ざしたままテレビをみている人もいる」と話した。悪質な勧誘も多い都市部の集合住宅の扉は閉ざされがち。周囲とのつながりが薄い傾向もあり、都市の孤立は深刻さを増す。
孤立は1人暮らしに限らない。子育てや介護でも周囲の支えが得られずに孤立感に苦しむ人もいる。
超高齢化が進む市営団地だが、定期的な清掃もあり、住民が顔を合わせる場がある。長期不在時に自治会に連絡したり、周囲が異変がないかを気遣ったり、見守りが進む。隣人の接点が薄い民間の集合住宅は、そうした場も少なくさらに深刻だ。近隣住民だけでなく、より幅広い人の手で「見守る」仕組みを充実させる必要がある。