高齢化、孤独の世で需要急増…故人の思い出の品を探し出す遺品整理人

2014年11月03日スポニチ

 どんなにIT技術が発達して省略化が進んでも、人を必要とする新たな仕事は生まれている。現在の社会状況だからこそ生まれた「仕事」とそれをなりわいとする「人」。そこにスポットを当てた新企画「イマドキの仕事人」が3日からスタート。第1回は、故人の遺品を整理して思い出の品を探し出す遺品整理人に迫った。

 遺品整理人の小川健二(52)は、渋谷駅(東京都)から徒歩10分ほどにある古びたアパートの一室で作業をしていた。80代の女性が8月まで1人で暮らしていた1Kの部屋。病院で亡くなった女性の長男から「この部屋で長らく病気で苦しむ姿を見ていたので、早く部屋を引き払ってあげたい」と依頼を受けた。

 作業は3人態勢。部下2人とともにそろいのキャップとポロシャツ、手袋をはめて、遺品を、残すか、廃棄するか、再利用するか仕分けていく。顔ににじむ汗とは裏腹に、淡々とした表情で黙々と進む。腐った遺体からウジが湧く部屋の特殊清掃を請け負う時もある。私情を挟まないよう意識しているように見えた。

 現場に立ち会った長男によると、若い頃の母は華やかだったという。最初から探していた黒い毛皮のコートが見つかると、トランクケースへ。タンスの引き出しから出てきた1枚のモノクロ写真には、驚きの声を上げた。「貴公子」と呼ばれ、20年前に事故死したF1レーサー、アイルトン・セナのブロマイド。長男は照れながら「好きだったのかな」と大事そうにかばんにしまった。

 小川はもともと、産業廃棄物処理業者で、5年前から遺品整理業も始めた。背景には高齢化や孤独死の増加の影響があった。家族の遺品を自力で整理できない人たちが相次ぎ、市区町村に頼んでも家に入って搬出することまではしない。困った末に小川の会社に相談してくるケースが増えた。産廃業のまま参入することは許認可の問題で不可能だったため、遺品整理専門サービス「ネクスト」(東京都大田区)を新たに立ち上げた。

 年間の依頼数は700件以上。多い日で1日4件。仕事を通じて浮かぶのは、家族や親戚付き合いが薄れている現実だ。「息子や娘が見つかっても遺品の相続を放棄したり、やっと見つかった親戚に“ウチは付き合いが無いから困る"と断られて、仕方なく大家が依頼することもよくある」

 会社に持ち帰った遺品には廃棄処分されていくものも多い。「仏壇や故人の写真がゴミとして扱われるのはあまりにもしのびない」という思いから、希望者を募って月1回のペースで合同供養も執り行っている。遺品整理人は、このご時世に必要とされて生まれた。一方で、遺品自体は残された人たちにとって、ほとんどが必要とは言えない。金目のもの、いるもの、いらないものに仕分けされる。

 今回の現場で印象的だったのは、長男が決して必要ではないはずのセナの写真を大事そうにかばんにしまいこむ姿。人間とは「いる」「いらない」の関係を超えた絆で結びついていることを実感した。

 「頼んで本当に良かった」。依頼人から感謝のこの言葉を受け取った小川は「喜んでいただけるのが一番うれしい」と表情を崩して帰りのトラックに乗り込んだ。 =敬称略=

 ≪あいまいな相場、トラブル多発≫この日の作業代金は12万4000円。事前に現地へ出向いて人件費や廃棄処分費などから見積もった金額から、作業後に「部屋がきれいで簡単な掃除で済んだ」と代金を割り引いた。長男によると、自宅に投函(とうかん)されたチラシを見て別の業者に見積もってもらったところ約30万円を請求された。その後、インターネットで評判の良かった「ネクスト」へ連絡した。

 一般社団法人「遺品整理士認定協会」(北海道千歳市)によると、遺品整理を扱う会社は3000社超で3年前から一気に3倍増。相場が無いことから、トラブルにつながるケースも多く、金品の窃盗や不法投棄などのトラブルも絶えない。

 同協会担当者は業者を選ぶ際の目安として「見積書に作業の詳細が書かれていて細かく説明してくれるかどうか」と説明。協会の公式サイトでは優良企業として332社を紹介している。