どうすれば安全安心:「サ高住」の選び方 介護、医療への対応を重視

2014年10月30日毎日新聞

 「おひとりさま」や「老老介護」が増える中、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が注目されている。制度ができて3年間で全国4932カ所、15万8579戸(9月末現在)が新設され、さらに右肩上がりだ。そのメリットは何か。入るとしたら何をポイントに選んだらいい?(医療ライター・福島安紀)

 サ高住は、2011年10月施行の「改正高齢者住まい法」に基づいて登録制度が導入された高齢者向け賃貸住宅だ。介護が必要になっても住めるように、建物がバリアフリーであることと見守りサービスを義務化し、長期入院の際にも勝手に退去させないなど契約を厳格化した。

 利用できるのは60歳以上か要介護・要支援認定を受けている、またはその両方の人だ。義務付けられたサービスは「安否確認」と「生活相談」のみだが、日中は生活相談員が常駐。94・7%の施設には食事提供のサービスがある(3月末時点、国土交通省調べ)。

 個室は1人部屋で原則25平方メートル以上。しかし、共用スペースに食堂や浴室を設ければ18平方メートル以上でもよいとされているため、実際には浴室やキッチンのない18平方メートルの個室が全体の6割を占める。間取りはイラストのようなワンルーム・マンションタイプが多い。

 「サ高住の最大のメリットは、入居にかかる費用が有料老人ホームよりも安く、気軽に利用できることです」。サ高住の開設・入居相談を行うタムラプランニング&オペレーティング社長の田村明孝さんは言う。有料老人ホームが数百万〜数千万円の入居一時金を求められるのに対し、サ高住では、一般の賃貸契約と同じように敷金として0〜30万円程度を払う方式がほとんどだ。同社の調べでは、敷金の全国平均は14・9万円。高額ベスト3は兵庫県22・5万円、神奈川県21・8万円、東京都21・7万円だった。

 毎月かかるのは家賃と共益費、生活支援サービス費、食費で大半は合計6万〜24万円程度。特別養護老人ホームの個室と変わらず、有料老人ホームよりも安い15万円未満が8割近くを占める。東京都の平均額は18・7万円、神奈川県は18・2万円と都市部は高め。一部には1000万円以上の家賃を前払いするサ高住もある。

 「費用だけでなくサービス内容も、安否確認と生活相談だけのところから、末期がんの患者を受け入れる施設まで千差万別です。入居する本人が見学し、食事もしてみたりして選ぶことが大切です」と田村さん。夫婦どちらかに介護が必要となり2人で入る、特養が空くまでの待機期間に利用する−−といったケースもある。

 東京都内で、あるサ高住を見学してみた。

 個室は25平方メートル。浴室とミニキッチン、トイレ、洗面台、備え付けのクローゼットがある8畳程度の洋室ワンルームで、ベッドやタンス、カーテンなどの必需品は持ち込みだ。トイレ、浴室、ベッドや布団を置く場所の3カ所に緊急通報システムがあり、共用スペースに食堂がある他は一般的なワンルーム・マンションと変わらない感じだ。食堂で入居者数人がお茶を飲みながら談笑していた。

 比較的元気な人は、サ高住内に趣味を楽しむ場があるか、駅やバス停が近いか、建物の出入りが自由か−−もチェックしたい。

 高齢者住宅情報センター東京センター長の小泉奉子(ともこ)さんは次のようにアドバイスする。「料金やサービス面で有料老人ホームとの差が縮まり、手厚い医療やホテルのような高級感をアピールしたり、入居者の経験を生かして働く場を提供したりといったユニークなサ高住も徐々に増えています。長く生活するためには、事業者の理念や施設の雰囲気が自分に合うかどうかも重要です。違和感があるとサービスへの不満が募ったりなじめなかったりして、住み替えが必要になるケースがあるからです。何を優先したいかよく考え、価値観に合うところを探しましょう」。倒産や経営危機のリスクがあるので、決算書をもらい、経営状態をチェックすることも勧める。

 「預貯金額を確認し、自宅を不動産査定してもらうなど資産額をしっかり把握したうえで、他の高齢者向け住宅を含めて検討すると選択肢は広がります。首都圏に住んでいる人が手ごろな費用で広めの部屋を望むなら、思い切って住む地域を変える方法もあります。長生きすれば、1000万〜2000万円の前払い家賃を払って月額の費用を抑えたほうが総支払額は少ない場合もあるので、10〜20年でいくらかかるか長い目で見て比較しましょう」

 心配なのは介護や医療が必要になった時だ。一般的には外部か併設の事業所と契約して在宅介護保険サービスを利用する。サ高住の約8割はデイサービスや訪問介護などの事業所を併設しているが、その内容や質はさまざまだ。

 田村さんは、入居費や家賃の安さだけで選ばず「緊急時や介護を要する時の対応、きちんと往診してくれる医療機関と提携しているかなどを確認すべきだ」と強調する。「サ高住に提携医療機関があるなら、かかりつけ医にその評判を聞くといいかもしれません。また要介護度が高くなると、介護保険の範囲内では間に合わなくなり月2万〜20万円の上乗せ費用がかかるケースが少なくない。その点も要チェックです。ただ認知症については、本当の意味で必要な介護ができる体制を整えているサ高住はほとんどないので、あまり期待しないほうがいい」

 約5%と数は少ないものの、介護保険で24時間の日常生活支援と介護、機能訓練を提供する「特定施設」に指定されているサ高住がある。介護を重視するなら選ぶのも手だ。特定施設やサービス内容は「サ高住情報提供システム」(https://www.satsuki-jutaku.jp/search/index.php)で検索できる。

 息子や娘でなく自分の視点から選ぶために、元気なうちから「ついの住み家」を検討しておきたい。