サンダルにGPS 高齢者見守りで各社知恵比べ
2014年10月23日日経新聞
電機・IT(情報技術)各社が遠隔地の高齢者を見守るシステムの開発を急いでいる。パナソニックはベッドの下にセンサーを取り付けて呼吸などを検知するシステムを開発。NTTドコモは全地球測位システム(GPS)を活用した新サービス開発を側面支援するインフラを提供する。急速に進む高齢化に合わせ、機器の販売にとどまらない、新たなビジネスモデルの構築を急いでいる。
■ベッドの下から呼吸や体の動きを予測
「センサーはベッドの下なので、高齢者は見られている感じがしないはずだ」――。パナソニックで介護関連事業を担当する新規事業推進グループの斉藤裕之グループマネージャーはこう強調する。
新システムはベッド下に小型センサーを置いて、特殊な電波を発して空気中の水分量をはかり、ベッドの上の高齢者の呼吸や体の動きを検知する。従来のシステムは天井などにセンサーを設置することが多いため、監視されているように感じる側面があった。
検知情報はWi―Fiなどの無線を使って離れた場所にある介護ステーションなどに送信する。パソコンで各部屋の状況を一覧できるソフトも開発した。
新システムを使えば、体調の急変や徘徊(はいかい)などの異常を早期に発見できるため、先回りして適切な処置をとれる。ソフトの設定で、呼吸数などが危険値を超えると異常信号を発することも可能だ。パナソニックは2016年度にシステムを介護施設や病院向けに販売を始める方針だ。
シャープはHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)と見守りサービスを組み合わせたシステムの実証実験を神奈川県の住宅で来年1月から始める。テレビを使って健康に関するアンケートを毎日実施し、その結果を家庭内の電力使用状況と照合する。精度を高めた上で、離れて暮らす家族などにデータを送信する。
タブレット(多機能携帯端末)でゲームなどを楽しみながら健康を維持したり、体温や血圧、服薬などのデータを管理したりする仕組みも取り入れる。実証実験でコストなどを見極め、実用化を目指す。
NTTドコモが開発した「かんたん位置情報サービス」も高齢者サービスへの活用が期待されている。GPSを活用するため、ドコモが小型のGPS端末や位置情報を把握するシステムをあらかじめセットにして提供する。高齢者向けの新サービスを始めたいと考える企業や自治体が自分たちで端末やシステムを用意する必要がなくなり、手軽に始められるようになる。
今年初めの提供開始に先立ち、昨年11月から今年2月末まで秋田県で認知症の高齢者を見守る実証実験を行った。サンダルや服などに端末をつけて位置情報を把握し、分析した。認知症高齢者の徘徊対策用として、鳥取県や山梨県など自治体を中心に関心が高まっている。
■スマホの画面をノックで家族に通知
格安スマートフォン(スマホ)を活用したより身近なサービスも登場した。フリービット(東京・渋谷)は家族が利用するスマホの遠隔管理サービス「PandA(パンダ)ファミリー」を自社端末向けに6月から提供し、高齢者や子供の手軽な見守り用途に使える新機能を順次追加している。
スマホの現在地をネット経由で検知したり行動経路を後から確認したりする機能がある。ライフログ(生活記録)用の独自アプリ(応用ソフト)も年内をめどに提供する予定だ。スマホに日々の歩数やカロリー消費量などを記録しておき、データを家族と自動で共有できる。同時に、遠くに住む家族同士の気軽なコミュニケーション手段として、スマホの画面を軽くノックするだけで相手のパンダに振動を伝えるアプリも用意し、安否確認に役立てる。
一人暮らしの高齢者が増えており、遠隔地で暮らす家族が見守ることができるサービスの需要が高まっている。市場調査会社のシード・プランニング(東京・文京)の11年の調査では、高齢者を見守るサービスの市場規模は2020年度に132億円と10年度から5割弱伸びる見通しだ。
過去には電気ポットの使用状況をメールで知らせたり、赤外線装置で人の動きを検知したりするサービスがあったが、「問題がないのにアラームが鳴ることが多く、スタッフの手間がかかり、なかなか広がらなかった」(パナソニックの斉藤氏)。機器の精度を高めたり、複数の情報を組み合わせたりして、いかに多様な情報を集められるかが普及のカギを握っている。