「高齢者見守りキーホルダー」の波及効果 - 大田区

2014年07月30日けあZine


 前回取り上げた、大田区の地域包括ケアシステム「みま〜も」における活動の3本柱のひとつ、キーホルダー登録システム。今回は、さらにその詳細について述べ、大田区における浸透ぶりや、周辺自治体に及ぼした波及効果などについて述べる。

一任意団体が始めた事業が大田区の高齢者施策に・・そして他の自治体へも広がる

  「高齢化の一途をたどる大都市東京において、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続するためにはどうしたらよいのか?」この課題解決に向けて、社会医療法人財団仁医会 牧田総合病院が受諾し、運営している「大田区地域包括支援センター入新井」の呼びかけで、高齢者に携わる各種専門機関と地域団体、企業等が協働し生まれた「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称:みま~も)について前稿で述べた。そのなかの取り組みのひとつとして、今回は「高齢者見守りキーホルダー」登録システムについて詳しく述べたい。

 本会が平成21年8月より大田区6ヵ所の地域包括支援センターエリアで申請を開始した「高齢者見守りキーホルダーシステム」は、その後多くの区民から、「どうして同じ大田区に住んでいてキーホルダーをもらえる地域ともらえない地域があるのか!」という問い合わせが区役所に殺到。この一任意団体が始めた事業の思わぬ反響を受けて、平成24年度より大田区の高齢者施策となった。大田区に暮らす65歳以上すべての方が登録可能となったのである。

 平成26年4月末現在、登録者20,500名、65歳以上人口に対する割合は約13.5%となっている。現在、同様のシステムが、都内では中央区、町田市、都外では茨城県土浦市、新潟県胎内市、愛知県豊川市、岡崎市、広島県竹原市、佐賀県小城市、熊本県人吉市、徳島県海陽町、横浜市泉区の各自治体により運用されている。

 平成25年度、大田区が実施した「平成25年度高齢者実態把握調査」の結果では、居宅サービス利用者及び未利用者において、キーホルダー登録事業は、区が実施しているさまざまな高齢者サービスの中で最も認知度の高いサービスであり、利用意向については、第一号被保険者、サービス未利用者、施設・居宅系サービス利用者において1位であった。

年に一回の情報更新と元気なうちからの備え

 「高齢者見守りキーホルダーシステム」とは、事前に地域包括支援センターに本人情報、緊急連絡先、かかりつけ医療機関、病歴等を登録してもらい、個人番号の書かれたキーホルダーを配布するものである。

 キーホルダーを持つ方が外出先で救急搬送された場合や、認知症の方の徘徊などの際に、警察や消防から地域包括支援センターに連絡が入り、情報を共有することができる。また、通行人など一般の方からの通報に対しても、地域包括支援センター職員が通報してくれた方と連携し対応することが可能である。

 このようなシステムにおいては、情報が命であるから、登録情報が常に最新で正確な情報でなくては、警察や消防も緊急の際に活用できない。「登録情報の更新」とても重要なのである。

 そこで、キーホルダー登録を行って地域包括支援センターとつながった方たちに対しては、「つながりの更新」も含めて年1回、本人の誕生月に管轄の地域包括支援センターに来てもらうことを基本としている。

 もうひとつの大きな効果として、この取り組みは地域に暮らす65歳以上の方すべてを対象としているため、「現在は介護保険サービスを受ける必要がない」「現在は、医療・介護の専門職とのかかわりが必要ない」元気な方々が、地域包括支援センターに登録のため訪れているという点である。このシステムを通して、まだ介護が必要のない段階から、地域包括支援センターの存在を知り、地域住民が地域包括支援センターとつながることが可能となったのである。これは地域住民からすると、まさに「元気なうちからの備え」と言える。

誕生の背景には、培ってきた地域ネットワークの存在が大きい

 このキーホルダーシステムは、みま〜もが地域住民向けに開催している「地域づくりセミナー」をきっかけに誕生した。当院及び地域の4病院の医療ソーシャルワーカーが講師となった際の打合せの中で、医療ソーシャルワーカーより、「外出先で突然倒れて救急搬送されてきても、身分を証明できる物を何も持っていない。身元を特定するものを探すために、荷物を隅々まで探すようなことが珍しくない」という話が出た。このことがきっかけで、「本当の意味で高齢者の安心に繋がるものを生み出したい!」という共通の思いから、何度も話し合いを重ね、消防・警察など関係機関との調整を経て、企画から2ヵ月後の平成21年8月に大田区内一部地域で申請を開始したのである。

 話し合いを始めてから2ヵ月で申請を開始することができたのも、「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称:みま〜も)が今まで培ってきたネットワークをフル活用し、区内すべての医療機関、消防・警察、民生委員などに周知。協力を求められたからに他ならない。まさにこの登録システムを通じて、地域全体での見守り、そして、住民と専門職、専門機関との連携が実現できたと言えよう。

 たとえば、認知症があり、自宅に帰ることができなくなっていた高齢者を、通りがかりの方が保護、杖に付けていたキーホルダーを見て、地域包括支援センターに連絡してきた事例。熱中症で路上に倒れていた人を発見した住民が救急車を要請。救急隊が意識不明の本人が身に付けていたキーホルダーを発見し、地域包括支援センターに身元確認依頼を行なった事例。病院に救急搬送された患者が緊急連絡先を覚えておらず、キーホルダーを看護師が発見し問い合わせがあった事例など、その効果はさまざまである。

従来の見守り機器との違い

 キーホルダーシステムが普及した大きな要因には、以下の3点が挙げられる。

1. 自治体高齢者総合相談窓口であり、地域包括ケアの拠点である「地域包括支援センター」が申請窓口となっている。

2. キーホルダー自体は非端末であり、個人情報を持たない(居住エリアの地域包括支援センターの連絡先・利用者IDのみ記載)ため、携帯して個人情報が流出することがない。

3. 毎年誕生月に、登録者が地域包括支援センターとのつながりの更新も含めて、情報の更新に来る。そのため、1年以内の情報が登録されており、警察や消防、病院など関係機関の活用度も増し、登録者にとっての万が一の安心につながる。

 従来の見守り機器は、以下のように大別され、それぞれに課題がある。

センサー型(赤外線・監視カメラ等)
見られ感、誤報多発、大規模災害時には機能しない。

GPS型
プライバシーの侵害。GPSの精度が低い。どちらかというと徘徊者対策。

緊急通報システム等
高価な初期費用・維持費・駆けつけ費がかかる。

 キーホルダーシステムは、「高齢者の見守り」=「地域とつながること」をコンセプトとしている。登録者である高齢者自身が、「持っていることで地域包括支援センターにつながっていて、万が一にも安心!」という実感を近隣住民に伝え、住民同士のつながりでこのシステムが着実に広がっていることが、このコンセプトが地域に浸透してきている証である。