「人生の最期は、家でひとりで」の時代がやってくる
『孤独死のリアル』著者・結城康博インタビュー
2014年05月16日現代ビジネス
「孤独死」――誰にも看取られずに自宅で亡くなり、死後、2、3日以上たってから遺体が発見される死。独り暮らし世帯がいま、増えている。とくに65歳以上の高齢者の独り暮らしは増える一方だ。
これからは誰にとっても他人事でなくなる孤独死の実態を、データや現場の声を通して描く『孤独死のリアル』(講談社現代新書)。著者・結城康博氏は、介護保険など社会保障政策の論者として知られるが、以前は都内区役所のケアマネジャーなども経験した福祉専門職員。現場経験も長い。
その経験や視点をふまえた同書について語ってもらった。(聞き手=編集部)
■孤独死に関わる人々を全国に訪ねた
――この本では、孤独死の現場に関わるさまざまな人の話が出てきますね。
結城 ひとりの人が孤独死で亡くなると、ほんとうに多くの人が関わることになります。遺体が発見されたらまず警察、検視医など。そのあとは葬儀業者、僧侶、便利屋や遺品整理業者、行政の担当者、アパートの大家などです。
また、孤独死を防ぐために、いろいろな取り組みや、行政が民間と組んだサービスも行われています。行政による戸別のゴミ収集サービスなどもあります。自治会やNPO、新聞やヤクルトの販売所、診療所の人たちに、話を聞きに行きました。
――取材先で、いちばん印象に残ったのは?
結城 いろいろありますが、強烈だったのは、遺体を扱う葬儀業者から聞いた話です。孤独死の場合、2、3日中に遺体が発見されればまだよいですが、1ヵ月近くなってしまうと……、グジャグジャになってしまい、大きなビニール袋に入れて、くるまなければならなくなります。臭いもすさまじいです。部屋も、遺体からにじみでた脂で床をすべて張り替えなければならない状態になります。
家族が身元確認をしたら、そのあと遺体を扱うのは葬儀業者です。こんなケースでは、葬儀でも故人のご遺体との「最期のお別れ」はありません。
そういうわけで、葬儀業者は孤独死の実態をよく知っているんですね。
――結城さんは、研究者になる前は、区役所の福祉担当職員だったのですね。
結城 はい、高齢者福祉の現場では、計6年間働いていました。大学卒業後、福祉専門職として北区、そのあと新宿区に勤めたのですが、新宿区では、ケアマネジャー(=ケアマネ、要介護高齢者の在宅介護サービスをコーディネートする仕事)、相談員、地域包括支援センター職員などをしていました。夜間の大学院を修了して淑徳大学の教員になってからも、しばらくは二足の草鞋で、非常勤で特別養護老人ホームのケアマネもやっていました。
――孤独死問題に関わるようになったのも、区職員の時代からですか?
結城 そうですね。僕が勤めていた新宿区は、当時から独り暮らし高齢者が多い区でしたし、高齢者福祉課には「孤独死対策」という名前の仕事もありました。
ケアマネ時代には、ヘルパーや民生委員から、応答のない独り暮らし高齢者の相談を受けて「万が一、孤独死してしていたらどうしよう」と、緊急措置で2階の部屋によじのぼってベランダから立ち入ったこともあります。担当している高齢者が孤独死したらどうしよう、というプレッシャーで、用事がなくても定期的に訪問したりもしていました。そういうことは僕だけではないらしく、当時も似た話をよく聞きました。
■深刻なのは独り暮らしで軽度の認知症になったとき
——孤独死で亡くなる人は、年間3万人と言われているそうですね。
結城 孤独死については、まだ各都道府県によって定義がまちまちなのです。だから、実数のデータはまだなく、3万人というのは推計値です(ニッセイ基礎研究所の2011年3月の調査データをもとに推計)。
3万人という数について、思ったほど多くないと思う人もいるかもしれませんが、1日に100人近くが孤独死しているわけですよ。僕はとても多い数だと思います。周囲に「孤独死したらたいへんだ」と心配されている予備軍を含めると、この数十倍になるわけですし。増えてきているし、これからまた大きく増えるだろうという実感もあります。
——それはどうしてでしょうか?
結城 独り暮らし高齢者が、急速に増えてきているからです。65歳以上で独り暮らしの人は、来年2015年には約600万人になります(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。
家族のかたちが以前と変わってきているんですね。高齢者の夫婦ふたり暮らしも増えていますし、結婚しない人や熟年離婚も増えています。少し先ですが、2035年には独り暮らし世帯が4割になるとも言われています。
それから深刻なのは、認知症患者の増加です。いま「道に迷う」「金銭管理にミスが目立つ」などの日常自立度Ⅱ以上の認知症高齢者は300万人以上、65歳以上の10人に1人といいます。
軽度の認知症ではコミュニケーション能力は落ちますが、自分が認知症だという自覚はありません。そこでたとえば、ゴミの分別がちゃんとできなくなって、近所から文句を言われ、なぜなのか本人は納得がいかず、それをきっかけに少しずつ地域で孤立していってしまう……といったことも起きがちです。
さらに、都市部で暮らしている人には地方に親がひとりでいるという人も多いと思いますが、過疎や高齢化が進むにつれ、その地域の「見守り力」も弱くなってきています。
■どんな人が孤独死しやすいか?
――男性と女性では男性のほうが孤立死する確率が高いそうですが?
結城 独り暮らし高齢者は、平均寿命が長い女性のほうが多いのです。しかし、孤独死で亡くなる人を男女別でみると、男性が7割以上です。男性のほうが圧倒的に確率が高いということになります。
その理由を考えると、これは一般論ですが、男性のほうが、高齢になってから人間関係が薄くなってしまいやすいからではないでしょうか。定年退職後は会社の人間関係もうすくなっていきますし、年をとってから新しい人間関係をつくるのはなかなか難しい。とくに地域のつきあいでは、会社づきあいと違った気遣いや謙虚さが必要ですよね。
会社人間で、地域での付き合いはもっぱら妻がしていた、定年後もそのままあまり新しい人間関係もできずに、妻が先に亡くなって独り暮らしになった、というパターンはあぶないですね。
――孤独死しやすい性格というのはありますか?
結城 まず、人間関係をつくるのが苦手な人ですね。家族や親戚とのつきあい、友達づきあいもおっくうな人。わがままな人や、独りでいるほうがいいというおとなしい人。もちろん、独りでいるのが好きでも、友達がいて、日頃から交流している人は孤独死しにくい。
「孤独死したらあぶない」と思っている人は、意識して人間関係を大事にするから大丈夫かもしれないですね。孤独死に関心がない、あるいは自分は関係ないと思っている人のほうがあぶないのです。
■「家族や地域ががんばろう」でよいのか?
――孤独死問題を社会の中で考えるのに、大事なことは何でしょうか?
結城 孤独死問題はどうしても、自治会や民生委員などの地域の見守りで防ごうという考え方になりがちです。最近の国の政策でもそういった「互助」という考え方が強調されています。
たしかに地域の力や「互助」は大事だし、盛り上げないといけないけれども、不安定な要素も多いのです。個人の負担に頼るボランティアですし、地域での見守りも「きのうは見守ったからきょうはいいか」とか、「新聞が少したまっているけど様子を見ようか」といったふうに、その人の感覚で、まちまちになりがちです。
その点で、本書でも、読売新聞やヤクルトなどの例を取り上げていますが、自治体が民間企業と組んで、配達先の独り暮らし高齢者を業務として見守ってもらう、というサービスを取り入れるのは有効です。企業がやれば、システムとして均一なサービスを提供できます。
ただし、異状を発見したとき、実際に責任を持って対応できるのは行政です。プライバシーに一歩踏み出さないといけないこともある。だからやはり、孤独死対策には、行政が担う「公助」の充実が要なのですね。職員の経験の蓄積も必要です。
政府はそんな実態と逆方向に、「家族ががんばりましょう」という「自助」、「地域で見守りましょう」という「互助」の方向に、私たち国民を誘導しようとしている。しかし孤独死対策には、公的サービスや職員を増やす、地域包括支援センターを充実させる、など「公助」を増やすべきです。それによって、「互助」も育ってくるのです。
――それはほかの問題にも共通していることで、そう考えると、孤独死問題は、いまの日本の問題の縮図でもあるのですね。最後に、一人ひとりの問題として、孤独死をどう考えればよいのでしょうか?
結城 ここまでお話ししてきたように、孤独死はもはや特殊なものではありません。三世代、二世代世帯はどんどん減っているし、夫婦ふたりで暮らしていても、いつかはどちらかが先に亡くなります。
施設に入ったり、子どもと暮らしたりするのを選ばずに、独りで暮らしていくなら、どうしたらよいか。私の実感は、「孤独死しても2、3日以内に発見してもらえる人間関係と環境をつくっておこう」ということです。そう意識して生活していれば、ほんとうに困ったときには、誰かが助けてくれるようになるものなのです。
結城康博(ゆうき やすひろ) 1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。1994~2007年、地方自治体で勤務。この間、介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護部署などの業務に従事(社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士)。現在、淑徳大学総合福祉学部教授(社会保障論、社会福祉学)。著書に『介護』(岩波新書)、『日本の介護システム』(岩波書店)、共編著に『孤独死を防ぐ』(ミネルヴァ書房)など。