東芝、タブレットで高齢者支援 食事の出前注文も

2014年05月14日日経新聞

 東芝がこれまで手薄だった高齢者との接点作りに挑んでいる。タブレット(多機能携帯端末)を活用し、健康管理や宅配注文などを可能にする新しいネットサービスの提供を開始した。東芝はヘルスケア部門を新たな収益の柱にする方針を掲げている。高齢者の声を酌みとる仕組みを整え、主力の医療装置事業以外に収益の裾野を広げる。

 東芝はシステム子会社の東芝ソリューションを通じて昨年10月、タブレットを活用した高齢者向け有料サービス「大人の自由時間」(基本利用料は月額980円)を始めた。同サービスは遠くにいる家族が高齢者を見守れること、また高齢者らの生活を便利にできることが大きなメリットだ。

 高齢者を見守る仕組みはこうだ。高齢の利用者はタブレットで日々の血圧や体重のデータを入力したり、薬の服用記録をつけたりする。このデータは遠隔地に住む家族も見られるようにした。家族はデータ内容のほかデータ更新の有無をチェックして、利用者が元気かを確認できるわけだ。

 ただ、高齢者の見守り機能だけでは携帯電話各社が提供する類似サービスと差がない。そこで携帯電話に比べて画面が大きいタブレットの強みを生かして高齢者の生活に役立つサービスを基本メニューにそろえた。

 例えば、レンタルDVDの宅配や出前なども注文できる。今月からはタクシー予約がメニューに加わった。今後は旅行手配なども可能にするという。それぞれ専門会社と連携しており、タブレットが1つあれば、高齢者が様々なサービスを一括して利用できるよう、環境作りを進めている。

 足元の会員は約1000人。現在は東芝製タブレットの利用者に限られているが、今後は米アップル製など他社のタブレットでもサービスが利用可能にし、来年に「6万人の会員獲得を目指す」(東芝ソリューションの開発担当者)。

 高齢者が使いやすい画面デザインでは、10万人規模の高齢者向け交流サイト(SNS)「スローネット」を運営する日本テレネット(京都市)に協力を依頼。スローネットの会員にタブレットを使ってもらい、最適な文字の大きさを決め、不満の声も聞いた。「手軽に楽しめるゲームを求める声が多かった」(同)ため、早速検討を始めた。

 東芝は昨夏、半導体メモリーと電力エネルギーの2本柱に続く「第3の柱」を育成すると田中久雄社長が表明。それがヘルスケア事業だ。2013年度に約4000億円だった同事業の売上高を15年度に6000億円に伸ばす目標を掲げる。

 13年度のヘルスケア事業はコンピューター断層撮影装置(CT)やがん治療装置など医療機関向け機器が大半を占める。今後はだれでも簡単に使える、人間の息から脂肪燃焼量を測定する装置などの開発に焦点が移る。

 ヘルスケア関連の新製品を出すためにも、高齢者との接点が多ければ利用者の声を開発に生かしやすい。タブレット向けのネットサービスは、昨夏以降のヘルスケア関連の新規事業第1弾であるとともに、同事業の戦略全般と密接にかかわっている。(山田健一)