毎日フォーラム・ファイル:見守り NTT西が自治体向けサービス

2014年02月17日毎日新聞

 ◇テレビ利用状況で「お元気コール」 双方向のやりとりも

 見守られる人と見守りたいと願う家族をつなぐために、最先端の技術を取り入れたさまざまなサービスがすでに展開されているが、個人と企業との契約によるサービス提供が基本となっている。しかし、超高齢化社会では社会全体での見守りが必要で、自治体に求められる役割は大きい。こうした中、NTT西日本(大阪市、村尾和俊社長)が昨年8月に発表した「見守り・生活支援サービス」を追加した「シニア向けライフサポートサービス」は、自治体向けの支援サービスとして注目を集めている。

 NTT西日本は、関連会社の「NTTマーケティングアクト」(同、村井守社長)と共同で、2012年10月から「シニア向けライフサポートサービス」を提供してきた。電話を用いた「お話し・相談」や「見守り」、日々の困り事を解決する「サービスの紹介・取り次ぎ」などの高齢者向けの電話サービスだ。コールセンターを運営するマーケティングアクト社が自治体や企業などと契約。専門の「聞き役」(オペレーター)を置いて、自治体住民などからの電話相談に応じるという内容だ。自治体では職員や民生委員などによる巡回を強化しているが、定期的なコールによって巡回を補完するサービスとして登場した。

 新たに追加されたサービスは、見守られる側の心理的負担の軽減に配慮した機能を付加している。テレビの利用状況によってオペレーターから高齢者に「お元気コール」をかけて安否確認を行う見守りサービスだ。さらにテレビに表示されるアンケートに回答すると、高齢者が必要としている情報についてオペレーターが電話で答えたり、テレビに映し出されたりと双方向の情報のやりとりができるのが特徴だ。

 これらの情報は、NTT西日本、東日本が提供しているインターネット接続サービス「フレッツ光」などを介在することで可能になった。また、自治体や企業から伝えたい情報を表示できることから、地域の情報などを提供することで引きこもりがちな高齢者に地域のイベントなどに参加を促し、新しいコミュニティーづくりのきっかけになることも期待されている。保健師・看護師による電話での健康相談や、緊急通報端末を設置すれば消防などの緊急機関などへの通報などのサービスもサポートしている。

 今回の追加サービスは家電大手「シャープ」と連携して、テレビによる見守りサービスを実現した。熊本市と包括連携協定を締結し、15家族を対象に共同トライアルによる実証実験(13年2月)をへて導入に踏み切っている。実証実験では(1)身近なテレビを利用するために高齢者でも利用しやすい(2)アンケートの回答結果に答えると電話がかかってくるので見守られている安心感がある−−などの感想が寄せられていた。

 テレビなどの家電製品を利活用した見守りについては、総務省の「情報家電の高度利活用技術の共同開発」事業で、08年にNTTコミュケーションズが三菱電機と共同で東京都や千葉県柏市で実証実験を行うなど、早くから取り組みが進められてきた。

 テレビのスイッチのON/OFFや家電製品の使用状況などによって、(1)ニュースを見る時間(2)お気に入りのドラマ(3)就寝前にはテレビを消す−−などの行動パターンが定量化できることなどが把握できていた。また、報告書では(1)見守られる側が特別に意識することなく、さりげなく見守られていることが大事(2)必要な時に助けてもらえるというコミュニティーの絆を創設すること−−などの提言が盛り込まれている。

 NTT西日本の今回のサービスも、こうした成果を踏まえた形となっている。高齢者問題に詳しいジャーナリストの藤本順一氏は「高齢者の見守りは、1人暮らしの高齢者と家族だけの問題ではない。家族は遠隔地に住む場合が多く、どうしても高齢者が住む地域コミュニティーや自治体に頼らざるを得ない」と指摘。「このシステムが安全・安心な『見守り社会』を構築するための有力なツールとなる可能性は大きい」と話す。

 NTT西日本は「急激な高齢化が進む中で、自治体に頼るだけでは安全・安心を提供できる見守り社会を構築することは限界がある。新システムは見守りだけではなく、新しいコミュニティーづくりも期待でき、地域社会全体として『高齢者に優しい社会』づくりに貢献できるはず」としている。

 NTT西日本はすでに個人向けには、テレビの利用状況の情報を離れて暮らす家族にメールなど知らせるシステム「TVみたん」を提供している。フレッツ光などのブロードバンドサービス利用者が、テレビに接続できる「光BOX+」(ひかりボックス、税込み8800円)を購入すれば、無料ソフトをダウンロードして利用できる仕組みになっている。昨年11月は販売台数の約15%がアプリをダウンロードしているという。だが、新サービスはあくまで自治体や高齢者対策を進める企業、NPOなどを対象にしている。

 すでに企業や自治体からの照会が相次いでいる。自治体からは「把握している高齢者宅への住民向けのサービスとして検討したい」「職員などによる見守りには限界があり、有効な手段のひとつ」などと評価する声が寄せられているが、残念ながらまだ導入に踏み切ったところはない。藤本氏は「高齢者対策問題は市町村など個別の自治体が単独で取り組めばいいという状況ではない」とし、「見守る側、見守られる側の自治体間のネットワークの構築が必要。NTT西の例のようなICT技術を生かしたシステムを急がなければならない」と指摘する。