変わり種信託 競う
高齢者の安否確認誤支払い代行・京都の町家保存事業費を提供
2014年02月03日日経新聞
信託の仕組みを活用したユニークな金融商品やサービスが広がってきた。新規参入したほがらか信託(東京・千代田)は高齢者の安否確認や公共料金などの支払い代行を組み込んだ信託商品を発売。トランスバリュー信託(同・中央)は京都の町家保全を支援する信託サービスを2月にも始める。大手信託銀行も相次いで新商品を投入しており、「変わり種信託」を巡る販売競争が熱を帯びている。
ほがらか信託は弁護士が中心となって2013年9月に開業した。同信託の「らくらく生活管理信託」は高齢者の財産を預かって、代わりに電気やガス料金、病院代など一を支払う。警備会社と提携し、自宅に取り付けた。センサーで高齢者の安否を確認し、緊急時には駆けつける。
体が不自由になって外出が難しくなった高齢者をサポートするのが狙いで、銀行の店舗まで行く手間を省くため今後現金を宅配するサービスも追加する。ほがらか信託の金森健一弁護士は「お年寄りを助ける信託は高齢化社会では大きな需要がある」と語る。
新規参入組の一つであるトランスバリュー信託は、地域振興事業への寄付に信託を活用するサービスを開始する。第1弾として地元の資産家などから寄付金を集め、京町家の保全に取り組む非営利組織(NPO)に毎年一定額の事業費を提供する。
特定寄付信託と呼ばれる制度で、寄付金控除が受けられるほか、運用益も非課税となる。NPOの活動はトランスバリュー信託がチェックし、寄付者の死後も寄付金が残っていれば、資金提供を続ける。
大手のみずほ信託銀行は1月、第一生命保険と提携し、生命保険信託を始めた。保険会社は通常、死亡保険金をまとめて遺族などの受取人に給付するが、受取人が高齢者や未成年の場合、保険金をだまし取られたり、必要以上に使い込んでしまったりするリスクがある。
このため、みずほ信託はいったん第一生命から保険金を受け取り、定期的に一定額を受取人に給付し、そうしたリスクを減らす。同種のサービスは三井住友信託銀行も取り扱っている。
りそな銀行はマンションの修繕積立金を管理・運用したり、不足分を借り入れる信託サービスを提供している。
資産運用では、三菱UFJ信託銀行が販売する上場投資信託(ETF)の「金の果実」シリーズが人気だ。純金と交換できるのが特徴で、資産残高は発売から3年半で約350億円に達した。
信託会社競争激しく、一部は免許取り消し・廃業
2004年の信託業法の改正で金融機関以外に信託業が開放されて以来、新規参入が相次いだ。新規参入組で現在営業しているのは16社。信託銀行と同様に財産の管理から運用まで手掛ける会社から、債権の流動化が主業務の会社まで様々だ。信託分野の競争は厳しく、参入組の中には廃業に追い込まれた会社もある。
ほがらか信託の中村雅男社長は「新規参入組が継続して事業を展開するには、堅実な収支計画と信託業務に精通した入材の確保が欠かせない」と指摘する。
映画やゲームなどの知的財産を基に制作費を集めていたジャハン・デジタル・コンテンツ信託(東京・港)では信託財産の流用などの法令違反が続出し、金融庁は09年に信託免許を取り消した。
ファイナンシャルプランナーの宮崎勝己氏は「自分の死後の財産まで託すだけに、利用者は信託会社の資産管理体制などをよくチェックすべきだ」と指摘する。
ことば─信託
金銭や不動産などの財産を信頼できる人に預けて、運用や管理、処分を任せる仕組み。財産は信託銀行や信託会社の名義となるが、信託銀などが倒産しても保全される。2004年の信託業法の改正で6つしかなかった受託資産の範囲は大きく広がり、知的財産などが加わった。