頭よぎる「孤独死」 公的な高齢者見守り 手薄

2014年01月28日東京新聞

 「誰かと口をきくのは3日に一度」。東京都北部の都営団地。布団が敷きっぱなしの和室で、86歳の男性が一人で暮らす。「友達も年とって訪ねて来ない。倒れて外に連絡できなかったら、死ぬな」

 2カ月前、動悸(どうき)が止まらなくなったことがある。意識が薄れつつある中、低血糖が原因と思い当たり、はったまま砂糖にかぶりついた。濃い砂糖水も飲み、なんとか回復した。

 「一人は気楽」と思っていた。一昨年まで8年間、寝たきりの妻と認知症の妹を介護し、みとった経験を持つからだ。だが今は「孤独死」の不安が先立つ。

 隣人に玄関の鍵を預け、日中は施錠していない。携帯電話は手放さず、入院に備え荷物もまとめている。「それでも心から安心はできない」。遠方で暮らす娘と息子に、葬式代として150万円ずつ預けている。

 都監察医務院によると、一昨年、区部で孤独死した高齢者は2727人。前年より100人以上増えた。都の人口がピークを迎える6年後には、321万人の高齢者の4分の1が独り暮らしになると見込まれる。老後の安心は都民の大きな関心事だ。


 住み慣れた地域で高齢者が暮らすには、介護保険や在宅医療など社会保障制度による公的な支えと、近隣住民やボランティアによる支えの連携が欠かせない。

 ただ、公的な制度は高齢者側の申請がなければ利用に結び付かない。住民らの見守りは当事者が協力的でないと対応しきれない上、担い手も高齢化し、民生委員には欠員も出ている。

 はざまを埋める行政の取り組みとして、港区では「ふれあい相談員」が活躍する。社会福祉士らが、独り暮らしや高齢者だけの世帯を戸別訪問して健康状態、近所付き合いなどを把握し、緊急時に周りで気が付く状況かどうか確認する。「行政は基本的に申請主義。でも逆のベクトルで困っている高齢者を減らしたい」と担当課長は攻めの対応を意識する。

 港区の取り組みは、都が2010年に打ち出したシルバー交番設置事業を活用している。見守りや緊急通報の拠点づくりを促す事業で、13区市町村の45カ所にある。費用の半分は都が補助するが、14年度中に70カ所という都の目標には届きそうにない。

 財政難の区市町村は手が出しにくい上、相談員を別の業務に活用できない「使い勝手」の問題もある。

 「うめいても誰も来なかった」。都心部の都営住宅で独り暮らしの女性(80)は昨年末、ベランダで転び、背中と腰を痛めた。女性が住む区はシルバー交番の事業に手を挙げていない。心細さは今も残る。

 明治学院大の河合克義教授(社会福祉論)は「都は財政力の弱い区市町村に目配りをしながら孤立対策に必要な人員を配置し、公的サービスを行き届かせるべきだ」と注文を付ける。 (杉戸祐子)