見守り機能せず孤独死放置 国のシルバーハウジング

2014年01月20日朝日新聞

 全国にある国の高齢者向け集合住宅「シルバーハウジング」で、本来の目的の生活援助員による見守りが機能せず、孤独死した高齢者が長期間放置される事例が、首都圏で4件起きていたことがわかった。運営する地方自治体による援助員の管理・指導が徹底されず、孤独死の教訓が共有されていないのが背景にある。

 昨年9月、東京都葛飾区のシルバーハウジングで一人暮らしの女性(84)が死後4カ月の白骨遺体で見つかった。病死と判断された。

 区住環境整備課によると、当時、4階建て全14戸に19人が住んでいて、住み込みの生活援助員が安否確認を週1回程度することになっていた。各戸内に、住人が12時間以上動かないと援助員に自動通報するセンサーもあった。

 女性は日ごろから、生活援助員や他の住民との接触を拒み、センサーの電源も切れていた。2~3週間、安否確認ができない場合、区に報告する決まりだったが、この援助員は「いつも女性は居留守を使っていたので異常とは思わなかった」と放置していた。

 区による指導も採用時に仕事の内容を伝えるだけで、研修は実施していなかった。区担当者は「安否確認は援助員に任せきりだった」と明かす。

 横浜市のシルバーハウジングでは2006年2月、孤独死事案が2件続けて発覚した。市から運営を委託されている市福祉サービス協会によると、いずれも一人暮らしの60代の男性で、死後約10日~1カ月たっていた。協会から派遣された援助員が週1回、安否確認をすることになっていたが、怠っていたという。

 これを受け、安否確認の回数を週2回に増やしたうえ、2回続けて確認できなければ、合鍵を使って強制的に室内に入ることにした。それでも、安否確認が徹底されず、同年7月にも80代の女性が死後5日たって見つかった。

 一方、合鍵で室内に入る回数が大幅に増えたため、苦情が相次いだ。団体の担当者は「『そっとしておいてほしい』と言う入居者もいる」と話す。

 シルバーハウジングで孤独死が放置された事案は国に報告される仕組みにはなっていない。葛飾区では横浜市の事例を把握していなかった。東京都、神奈川県に次いで戸数の多い兵庫、愛知両県、大阪府によると、同様の事案は報告されていないという。

 厚生労働省高齢者支援課は実態把握について、朝日新聞の取材後、「検討したい」としている。

 ■連携探る行政と地域

 日ごろから地域で高齢者を見守る地域包括支援センターと連携する自治体も出てきた。

 東京都武蔵村山市の都営村山アパートシルバーピア。市の委託を受け、地域包括支援センターを運営する社会福祉法人「武蔵村山正徳会」の職員3人が生活援助員として住民約70人の見守りを担っている。この3人はヘルパーの資格や介護の専門知識を持ち、お年寄りの異変や健康悪化にも気づきやすい。

 住宅内の談話室でお茶を飲みながら交流する「茶話会(さわかい)」を開いたり、近隣住民の合唱サークルへの参加を呼びかけたりしている。2カ月に1度、市地域福祉課とセンター、援助員が連絡会議を開き、情報共有を徹底している。

 センター長の江川輝之さん(54)は「安否確認や見守りはチームプレー。援助員頼みにしてはいけない。自治体、センター、援助員の連携が欠かせない」と指摘する。(横川結香、渡辺洋介)

 ■専門職への切り替えを

 淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)の話 国がシルバーハウジングの運営実態を把握したうえで、孤独死や事故事例を自治体と共有する必要がある。生活援助員は地域で見守りの核になる存在。自治体は援助員の研修を徹底するだけでなく、専門職への切り替えを進めるべきだ。


 〈シルバーハウジング〉 主に60歳以上で低所得の高齢者向けの集合住宅。バリアフリー化と生活援助員による見守りなどの生活支援を融合させた政策として、国が1988年度に導入した。援助員には介護士など資格の要件はない。介護保険制度改正による見直しで、2006年度から援助員の運用などを地方自治体が自由に決められるようになった。13年3月末現在、全都道府県に2万4260戸ある。