「孤立する高齢者」 結婚しないと孤独死する!?

2013年11月29日産経新聞


 「俺もこのままだと孤独死する」-。24日に放映されたNHKスペシャル「孤立する認知症高齢者」が、ネットで強い反響を呼んでいる。いつもは結婚のマイナス面を強調し、独身でいる選択を賢いとする意見が目立つ匿名掲示板でも、番組が指摘した「孤立」は切実な未来として受け止められ、一部で“恐怖”の感情も引き起こしているようだ。


 「NHKは日曜日の夜にこんなの放送して何がしたいの?」「晩婚非婚化対策として、20代前半の男女に恋愛結婚を勧めるための教材としては一級品」…。

 こんな感想も書き込まれた同番組は、高齢化が進行する中で、認知症を患う1人暮らしの高齢者が急増する状況を描いたドキュメンタリーだ。そばに家族がいないために、危険な事故を招く恐れのある徘徊(はいかい)を防げず、住居が「ゴミ屋敷」と化すのを止められない。1人暮らし生活の“終末期”を生々しく切り取った映像が与えた衝撃は大きかった。

◆将来は独身税も?

 「これ見てない独身者は金払ってでも見ろ。家族のない年寄りがどういう生き方してるかわかるから」(ツイッター)、「結婚してても連れ合いや子供に先立たれる場合もある。結局、人間は死ぬときは独りだよ」(掲示板)

 今のままの生活を何十年か続けた場合、自分はどうなるのか。番組をきっかけに、話題は独身を続けるべきかという人生設計にまで及んだ。

 「独身派が増えているし今後はもっと増えるだろうね。間違いなく独身が独身高齢者を支える時代になる。独身者への増税(独身税)は避けられない」と社会保障制度の設計や増税を危ぶむ意見があれば、「3~4割が独身者になる時代が来るんだろ? そうなったらそういう実態に合わせた仕組みができるに決まってる。例えば1人暮らしが増えたからコンビニの惣菜も充実してきたわけで」と楽観的な見通しも出される。将来の独身生活のあり方をめぐり、わが身と重ね合わせる形での議論が掲示板などで交わされている。

◆「2020年」も影響か 

 比較的若い世代が多く、1人暮らしの独身者も少なくないと考えられるネット利用者。ネットでは、独身か結婚かという議論はつねにある程度の盛り上がりを見せるテーマの一つだ。昔ながらの地域社会や古い体質の企業などでは、独身者が肩身の狭い思いを強いられるケースはまだまだ存在している。そのような現実世界に比べると、ネットでの独身派の勢いはめざましい。だが、それは独身主義をイデオロギーとして強固に支持する人が多いからというよりも、リアル社会で感じた独身差別への反発をネットで発散する一種の強がりの側面があるのではないか。

 そうした鬱憤晴らしの場としてよく利用されてきた匿名掲示板も、競合する各種SNSの隆盛で若年層の新規参入が減少し、近年は利用者の「高齢化」も指摘される。老いに対する恐怖は、匿名掲示板が隆盛を迎えた2000年代初頭よりも切実なテーマになっている。

 「東京オリンピックって聞くたびに『孤立する認知症高齢者』を思い出す」(ツイッター)

 ここ数カ月連呼された「あと7年」というかけ声を聞いても、希望よりむしろ不安を抱いてしまう。番組が広げた動揺の背景には、そうした事情もあったのかもしれない。(磨)


日本社会の高齢化と認知症

 内閣府が発表した平成25年版高齢社会白書によると、高齢者とされる65歳以上の人口は24年10月時点で過去最高の3079万人で、総人口の約24%。47年には約33%、72年には約40%に達する。厚生労働省の研究班の推計では、認知症の人は昨年時点で高齢者の15%にあたる462万人にのぼり、軽度認知障害の予備軍も含めると800万人を超える。