増える孤独死の現場から見えたこと
「予防」と共に「発見」も重要に

2013年10月25日日経ビジネスオンライン

 10月21日号特集「相続ショック」の取材で遺品整理の現場に入った。埼玉県の私鉄沿線の住宅街だ。遺品整理業者への仕事依頼は急に入り、依頼者も動揺していることもあるため、現場に行ってみないと様子が分からないことが多い。遺品整理の現場の半分は孤独死と聞いていたが、朝からその現場に入ると強烈な異臭がする。孤独死だった。

 下の写真を見ていただきたい。中央に写る布団の下に遺体の跡があった。手前中央にあるのは故人の靴下だ。奥では特殊マスクをつけた作業員が、遺品を分別しながら袋に詰めている。右下の線香は、遺品整理業者が作業を始める前にあげたものだ。


遺品整理の現場。故人の生活の跡も残る

10日前後で内臓が腐り始める

 筆者が現場に到着した時は、写真に映る布団がなかった。そこには内臓が腐ったと見られるゲル状の液体の跡がある。遺品整理業者は臭いの侵入を防ぐ特殊マスクを装着していたが、筆者は簡易のマスクをしていたため、強烈な異臭に吐き気をもよおした。

 故人は60歳代の男性。一人暮らしのワンルームのアパートで、シャワーを浴びた直後に脳梗塞で倒れ、発見まで15日ほどかかった。遺品整理業者によると季節やケースによるが、10日以上かかると内臓が腐り始めるという。特殊な器具と洗剤で、部屋を清掃するが、発見までの時間がかかると臭いは消えず、部屋を使うのは困難だという。当日も不動産屋が不安そうに作業の様子を見守っていた。

 孤独死の現場は日常と隣り合わせだ。アパートの隣の道を通勤などに向かう人々が足早に歩いていく。近くの保育園から園児の歓声が響いていた。異臭はアパートの外まで漂っていたが、足を止めることはない。

10年弱で56%増加

 孤独死が増えている。単身世帯や高齢者の増加で、一人暮らしで誰にも看取られずに亡くなるケースが増えているようだ。

 東京都監察医務院のデータによると、東京23区の孤独死数は2012年で4472人で、2003年に比べて56%増えている。高齢者が多いが、働き盛りの40歳代の孤独死が増えているのも見逃せない。特に40歳代の女性は約2倍にまでなった。遺品整理業者は「不規則な生活とストレスで若い人の孤独死は増加傾向にある。親が子供の遺品整理を依頼するケースも多い」と話す。

東京23区における孤独死数(2012年)

若者の孤独死も多い 出所:東京都監察医務院
 残念ながら今後も孤独死は増える可能性がある。最大の要因は単身世帯の増加だ。2010年の国勢調査によると65歳以上の高齢者の単身世帯数は479万世帯と、10年前に比べ58%増となっている。

 千葉県松戸市の常盤平団地で「孤独死ゼロ作戦」を展開する中沢卓実氏は「孤独死予備軍が増えている」と話す。その条件として①料理をしない②ゴミ出しや整理整頓ができない③友だちがいない④隣近所に挨拶をしない⑤連絡を取れる親戚がいない、を上げた。

 そこで中沢氏が中心となり、「電気がつけっぱなし」「郵便受けがあふれている」などの隣人の異変に気付いたらすぐ自治会に連絡する住民ルールを作り、啓もう活動を続けている。10年前には同団地で年間20件ほどの孤独死があったが、活動の成果もあってこの数年は5件程度に減っている。ただ今年は猛暑の影響で夏に孤独死が増え、10月までに9件に達しているという。

孤独死で火事になることも

 孤立させない取り組みに加え、不幸にも孤独死になってしまった後の早期発見も大事だ。東京都のデータでは、長期間発見されないケースが増えている。東京都監察医務院の調査では、2012年に31日以降発見されなかったケースは男性で全体の9%、女性で4.2%だった。2003年にはそれぞれ7%と3.4%だった。

 実際、中沢氏が「孤独死ゼロ作戦」の取り組みを始めたきっかけは2001年に、死後3年が経過した独り暮らしの男性の遺体が見つかったことだった。中沢氏は「ガスをつけたまま死んでしまって火事になることがあった。死臭が染みつき、部屋が使えないこともある」と指摘する。

 冒頭の強烈な臭いがする孤独死の現場で、故人の息子はマスクも付けず茫然と現場に立ち尽くしていた。死後15日ほど経って不動産屋から連絡が入ったようだ。仕事で忙しく連絡を取っていなかったのかもしれない。孤独死は他人事ではないと思った。