孤独死防げ 高齢者で(2)
2013年10月08日朝日新聞
「あの部屋は大丈夫」。9月中旬、川崎市宮前区の市営南平耐火住宅。丘陵地に並ぶ4~5階建ての団地15棟を、住民の大内正刀さん(69)と高橋昭さん(71)が見回っていた。
毎日午前に、70歳以上の入居者約30人のベランダを確認する。目印の洗濯物が物干しにつるしてあれば、「元気で過ごしている」ことを示す。
2人に見守りを頼んだのは、老人会長を務める斎川渡さん(79)。「若い人がいなくてね。年寄りが年寄りを見守っているんです」
東急田園都市線の宮前平駅からバスで7分。1960年代前半につくられたこの住宅では、今年4月の時点で入居者565人のうち65歳以上が55.4%を占める。市の平均は17.8%で、3倍以上だ。
完成当初に入居した斎川さんは3人の子を育て、今は病気療養中の妻都子さん(75)と2人で暮らす。
見守りは2010年に斎川さんが1人で始めた。老人会の会員だった70代の女性が孤独死したのがきっかけだった。「でも始めた翌年に、会員以外の80代の女性が亡くなってね。1週間後に民生委員が気がついた。死に顔を見て、本当に申し訳なくて」
昨夏からは会員以外の希望者も見守っている。市や区の協力を得て毎月、高齢者の集いも集会所などで開く。市は今年9月、空き部屋を活動の拠点として無償で提供してくれた。
斎川さんらは財団法人から助成金を受けているが、市から見守り活動に直接の資金援助はない。空き部屋にいつでも高齢者が集えるようにしたくても、スタッフのめどがたたない。
宮前区役所の川本正明・地域保健福祉課長は「支援の形を模索している」と話す。市高齢者在宅サービス課の手塚光洋課長は「高齢化はどんどん進む。お金をかけずに見守る仕組みを考えていく必要がある」。
一方で高齢者施策で市の財政負担は増すばかりだ。
昨年度、市は14年度までの介護保険料基準額を千円近く引き上げた。月5014円は県内33市町村で最も高い。特別養護老人ホームへの早期入所を希望する高齢者は、4月時点で4千人に迫る。今年度末までに4105床に増やす計画だが、すでに3500人前後の入所者がいる現状では、待機の解消にはほど遠い。
市高齢者事業推進課の関川真一課長は「本当に特養に入る必要がある人がどれくらいいるのかは、議論が必要だ。財政が厳しくなる中、高齢者施策は『持続可能かどうか』がキーワードになる」と話す。
武蔵小杉などに若い人たちの流入が続く川崎市でも、12年後の25年には65歳以上の割合が22・2%になると推計されている。現在の横浜市や相模原市とほぼ同じ水準だ。
国の方針は施設介護重視から在宅介護中心へと転換しており、今後はより多くのお年寄りが在宅で暮らす。介護や医療、日常の見守りなど、地域で暮らすお年寄りをどう支えていくのか。次の市長には未来像を描く責任がある。