【終活 ペットとともに(1)】 病気、孤独死…愛犬は? 飼育継続への支え少なく

2013年09月23日産経新聞

 「孤独死した男性の飼っていた犬がいる。新しい飼い主を探してほしい」。今年2月、神戸市の画家、島本直子さん(57)に知人から電話がかかってきた。

 ◆元気だったが…

 大阪市内のマンションで80代の男性が孤独死し、愛犬が1匹残された。男性の死後、4、5日で発見されたため、犬は衰弱もせずに元気だった。しかし、飼い主が死亡しているため、処分される可能性が高い。そこで、個人で動物保護活動をしている島本さんに新しい飼い主探しが託された。

 島本さんは「飼い主を探すケースは孤独死だけではありません。入院したり施設に入ったりと、いろいろなケースがあります」。

 白金高輪動物病院(東京都港区)の佐藤貴紀院長(35)は「来院予定日に来なかったので連絡したら、高齢の飼い主が体調を崩していたことがある」と話す。入院中のペットに飼い主が面会に来なくなったと思ったら、飼い主が入院してしまったケースもあるという。

◆ミスマッチ

 飼育のミスマッチも起きている。犬のしつけ教室を運営する「ペッツトラスト」(横浜市神奈川区)の笹部圭以(けい)社長は「高齢者の犬のしつけをし直したり、新しい飼い主を探したりするケースはあります」。

 同社が7月に引き取ったのは、70代の夫婦が飼育していたバーニーズマウンテンドッグ。夫婦は犬の飼育は初めてだったが、選んだのは大型犬。散歩に連れて行けば引っ張られ、へとへとに。犬は散歩に行けないストレスからか1日20回はトイレに行き、妻はトイレ掃除に追われた。同社に犬が来たとき、犬の体重は既に35キロにもなっていた。

 ゴールデンレトリバーの飼育経験がある老夫婦も昨春、新たな犬を飼い始めた。だが、子犬はやんちゃで体力もあり、夫婦が世話をするのも一苦労。夫婦は「以前、別の犬を飼っていたときはこんなじゃなかった」と同社に犬を預けた。

 笹部さんは「前に同じ犬種を飼育していた場合、成犬になってからのおとなしい様子しか記憶に残っていないことが多い。子犬のときはやんちゃだったはずなのが、それを忘れて飼育してしまうと『こんなはずじゃ…』となってしまう」。

 環境省によると、殺処分される犬や猫は減少傾向にあるが、それでも平成23年度は約17万5千匹に上る。無責任な飼い主に捨てられる一方、高齢の飼い主の死亡、ペットの介護などが負担になるなどして飼育が継続できなくなるケースがある。核家族化、少子高齢化が進み、ペットを「家族」と考える人も多い。だが、高齢者が飼育を継続するための支援の手はまだ少ない。「ペットの終活」を真剣に考えなければならない時代が来ている。

◆高齢者の飼育環境 整備も行政の一つ 

 ペット研究会「互(ご)」主宰、山崎恵子さんの話「高齢者がペットを飼育するには経済的や体力的な問題がある。一方で、飼育していると、伴侶を亡くしたときに老人性鬱になりにくいなど高齢者のペット飼育のメリットに対する研究結果が出ている。

事情により、飼育をギブアップする人の受け皿も必要だが、飼育し続けられる環境を整えることも動物保護運動の一つだ。経済的な問題を解決するには、ペット関連サービスでシルバー料金を設けてもいい。映画館や博物館などでは既にシルバー料金が設定されている。例えば、『年金生活者はトリミングやしつけ教室が3割引き』とか設定すれば、経済的負担の軽減につながる。

散歩やトリミングに連れて行く体力がないなら、ボランティアが代行してもいいし、出張トリミングや獣医師の往診があってもいい。米国では低所得者向けの動物病院もあるし、エイズ(後天性免疫不全症候群)や難病の人がペットを飼育し続けられるよう支援する民間団体もある。日本でも、高齢者がペットを飼育することに対するサポートを広げるという感覚を持ってほしい」