社説 見守りビジネス/商倫理問われる参入事業者

2013年09月16日河北新報

 日本郵便が高齢者の生活支援事業に乗り出す。全国に約2万4千ある郵便局ネットワークを活用するという。

 郵便局員が高齢世帯を訪ねて健康状態を確認する見守り事業を柱に、日用品の買い物代行などを展開する。10月に6道県の一部地域で試験的にサービスが始まる。宮城からは大崎市などの11郵便局が選ばれた。

 内閣府が発表した2013年版「高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者は3079万人。うち独居老人は469万7千人で、今後も増え続ける。

 お年寄りの孤立は深刻な社会問題である一方、事業者にとっては新たなビジネスチャンスでもある。配送網が既に完成されている宅配・流通業者なら、独居老人の見守りが事業として成り立つ時代だ。

 こうした需要にいち早く気付いたのは、おそらくヤクルトだろう。ヤクルトレディと呼ばれる宅配員が、商品配達時に高齢者の安否を確認する社会貢献活動を40年前から続けている。

 これに、お年寄りの孤独死対策に頭を痛めていた自治体が反応した。高齢世帯へのヤクルト宅配に、独自の補助制度を創設する動きが拡大。低コストで実のある見守り事業を展開できるとあって、今では全国144自治体がヤクルト販売店と契約を結び、約4万6千人のお年寄りがサービスを利用している。

 付言したいのは、ヤクルトが見守り活動を始める端緒についてだ。1972年、郡山市で独居老人の孤独死が発覚。担当地区で起きた悲劇に胸を痛めた宅配員が、自費で高齢者に配達し始めたのが、その後の見守り活動や補助事業へと発展した。

 商売である以上、収益力向上を目指すのも、社会の高齢化を商機と捉えるのもいい。だが、根源にあるのは地域社会とそこで暮らすお年寄りへ温かいまなざしであってほしい。

 近年、注文した覚えのない商品を代金引換で強引に送る「送りつけ商法」が急増している。国民生活センターによると、2012年度の相談件数は約1万5千件で前年度の5倍以上。本年度は既に1万6千件を超えた。被害者の大半はお年寄りだ。

 紙切れ1枚といった全く無価値なものを送りつける詐欺もある。そして、こうした手口に郵便局の代金引換サービスが悪用されている。

 民間の宅配業者は代金引換サービスを請け負う際、差出人を厳格に審査する。差出人に怪しいところがあれば配送を拒否することもあるし、企業責任で被害者への代金返還にも応じる。

 ところが、郵便法で公平なサービスが義務付けられている郵便物は、窓口に直接持ち込まれると、ほぼ無審査で受理せざるを得ない。制度上、郵便局から被害者に代金を返還することもできないのが実情だ。

 お年寄りを狙った悪徳商法に自社サービスが悪用されているのを看過しつつ、高齢者の支援事業へ進出する矛盾に、どう決着をつけるのか。日本郵便は真剣に考えてほしい。