100兆円シニア市場を狙え サービス続々

2013年06月22日朝日新聞


 元気なシニアをターゲットにしたビジネスが花盛りだ。60歳以上のシニアの消費は、いまや100兆円を超える巨大市場。高齢化が進めばさらに膨らむとそろばんをはじく企業が、結婚相談所やカラオケ、リゾートホテルなどで取り込みを狙う。

●結婚相談所、カラオケ エステ……

 「もうアラカン(還暦近く)。家に帰った時、1人じゃ寂しい。孤独死も嫌だったの」。東京で美容サロンを経営する女性(57)は先月、結婚相談所「エムズブライダルジャパン」(東京)で知り合った貿易会社経営の男性(60)と再婚を決めた。

 10年前に離婚。無我夢中で働いてきたからか、1人でも平気だった。でも次第に孤独感が募り、結婚相談所に駆け込んだ。相手を見つけられたのは「親が死んで、子どももいないのが高ポイントだったみたい」。結婚式前の今月には男性と2人でハワイを旅した。「性交渉も、あって当たり前でしょ。愛情があれば相手の介護だってできるわ」
 同社は名古屋や東京など全国5カ所で結婚相談所を展開する。昨年、60歳以上の入会者が、5年前の3倍近い187人に増えた。数年前からは営業をシニア中心に絞っている。

 結婚相談所「ジュラーレ」(名古屋市)は昨年11月から、結婚届を出さない「事実婚」を原則としたシニア向けサービス「ライフパートナー」を始めた。子どもがいると財産分与で問題になるケースが多いためだ。岩崎佳子社長(40)は「正式な結婚でなくても出会いたいと思っているシニアはとてつもなく多い」と話す。

 肩こりや腰痛の予防をサポートする「名曲健康体操」「座って踊れるフラダンス」――。こんな老化防止ソフトがついたカラオケ機器を7月末に発売するのが、ブラザー工業の子会社でカラオケ機器販売のエクシング(名古屋市)。歌う機能だけではない。昭和の流行クイズや「懐かしのニュース映像」、郷土の民話といったコンテンツを今回から倍に増やした。

 カラオケ機器では、カラオケボックスやスナックなどの従来の市場は今後、大きな成長は見込めない。伸びているのが、デイケアセンターや福祉施設向けだ。同社は4月、「エルダー営業部」を30人で新設。7月からは展示会を開いて営業攻勢をかける。

 企業が狙いを定める年齢層も、どんどん上がっている。会員制リゾートホテル最大手のリゾートトラスト(名古屋市)の主な利用層は、これまで60代が中心だったが、最近は70代まで拡大。金融資産が1億円以上の富裕層がターゲットだ。

 同社は、オーダーメードの老化防止サプリメントの販売から、しわやたるみを改善するエステ店まで幅広く展開。さらに、老人ホームの買収も進める。部屋数は現在の約800室から、数年後には3倍の2500室に増やす計画だ。

 「日本の人口は減っている。でも、高齢者の活動性は、むしろ高まっている」。伊藤勝康社長(69)の目は、利益を生み出す次なる事業に向かう。(奈良部健)

●シニア市場、消費の半分

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの推計では、2012年の60歳以上の消費支出額は108兆7千億円。11年から100兆円を超えた。消費全体のほぼ半分を占める。
 シニアは教育費や住居費の負担が少なく、所得を消費に回せる人の割合が高い。昨年から団塊の世代(1947~49年生まれ)が65歳を迎え始め、完全にリタイアする人が増え、今後はシニア市場がさらに拡大するとみられる。

 国立社会保障・人口問題研究所によると、国内の総人口は年々減っていく一方、30年前に1割以下だった65歳以上の人口は、現在の約2割から、20年後には約3割、50年後には4割近くまで増える見通しだ。