健康志向、食事宅配広がる 高齢者に需要、若い層も

2013年06月22日朝日新聞

 買い物や調理で苦労する高齢者への食事宅配サービスが広がっている。外食産業、コンビニ、生協が次々に参入。共働きや子育て世帯の利用も増えている。活用したい時の注意点は。

 コープネット事業連合が東京都などで展開する「夕食宅配」。ある日の献立には、さばのみそ煮やブロッコリーのあえ物が並んだ。弁当を受け取った板橋区の井上三郎さん(87)は一人暮らし。昨年、妻が体調を崩したのを機に利用を始めた。しばらくして妻は先立った。

 高齢化が進み、宅配のニーズは高まっている。女子栄養大教授(フードマーケティング)の高城孝助さんは「自炊や外食が減る一方、食事宅配など中食は伸び続けている。特に高齢者の中食率は高い」。多くは高齢者を意識し、管理栄養士が考えた「健康志向」のメニューを売り物にする。価格は1食500~700円程度が中心で、週単位や月単位で契約するのが一般的だという。

 食材宅配で最大手の生協も、食事の宅配に力を入れる。日本生協連によると、2007年のコープやまぐち(山口県)を皮切りに、いまは40都道府県の42生協で1日約7万食の利用がある。

 コープネットの場合、利用したい人は組合に加入し、月~金曜の5日間単位で契約。おかずのみ6品のコースが人気だ。利用者の75%は60歳以上で、単身や2人暮らしが多い。宅配は「見守り」の役割も担う。前日の弁当が手つかずで残っていた場合は緊急連絡先に通報するなど、対応策を決めてあり、倒れた高齢者の発見につなげている。

 「ワタミ」は1日27万食を宅配。4年後のグループ最有力事業に位置づける。白木屋を展開する「モンテローザ」も5月、東京西部地区で宅配を始めた。

 00年に参入した「セブン―イレブン・ジャパン」は昨年5月から、500円以上の食事宅配の配送料を無料にした。全店舗の7割にあたる約1万1千店舗で実施。会員は39万人と、1年で13万人増えた。

 カタログには食事だけでなく、菓子や野菜、日用品も掲載。店頭の商品を頼める店もある。1日単位で注文でき、育児世代の共働き家庭や単身赴任者ら、高齢者以外の利用が半数を占める。

 店舗からは「ニーズを掘り起こせた」との声が上がる。酒屋から転業したコンビニは多く、同社はかつて御用聞きをやめるよう指導していた。「今は御用聞きをするようお願いしています」

 ■宅配食、上手な利用法は 野菜や果物補って・近所で持ち寄り

 食事の宅配を上手に利用したい時は、どんな点に気をつけたらいいのか。女子栄養短大食物栄養学科の岩間範子教授に聞いた。

 最近の食事宅配サービスは、管理栄養士がメニューを組み立て、栄養価を細かく表示していることが多い。同じ500円程度なら、外で偏った食事をとるより、宅配メニューの方がバランスがとれている場合もあるだろう。

 1回の食事の塩分は、3グラムくらいを目安に。だが、味覚が衰えている高齢者は、これでは薄味だと感じるかもしれない。どうしても満足感を得られない時は、食べる直前、1品だけに一つまみの塩(0・3~0・5グラム)をかけるなど、味を補うのも一つの方法だ。ただ健康上の理由で、塩分を制限しなければならない人は避けてほしい。

 野菜の量にも気をつけて。理想は1回につき150グラム以上で、両手に1杯分が目安になる。宅配食は中毒防止のため、しっかり加熱処理されていることが多いが、加熱しすぎるとビタミンが失われてしまう。そのまま食べられるトマトやキュウリで野菜を補う、食後に果物をとるといったことを心がけたい。

 食事づくりは体の機能を活性化させ、脳に刺激を与える。買い物も、よい外出の機会になる。宅配中心で家に閉じこもってしまわないよう、たとえば近所の人と弁当を持ち寄るなど、食べ方を工夫してほしい。

 育児に多忙な世代が利用するケースもあるだろう。宅配で出会った新しいメニュー作りに休日に挑戦したり、自宅の器に移し替えて、野菜の量や副菜の種類を普段の食事と比べたりするなど、前向きに活用してみては。

 (帯金真弓)