安否確認・支援付き急増

2013年06月07日朝日新聞

 老人ホームなどの高齢者施設に入らず、自宅のように自由に暮らしたい。でも、一人でいる時に体調の急変や事故が起きないか、ふと不安になる。そんな高齢者が安心して暮らせるように、安否確認などの機能を備えた「サービス付き高齢者向け住宅」が、県内でも急速に増えている。


 学研ココファンが運営する「ココファン日吉」(横浜市港北区)には、93人が暮らす。要介護2の井上幸雄さん(92)は、ミニキッチンが付く1ルーム(18平方メートル)のバリアフリーの部屋に移り住んで3年目。妻に先立たれてから一人で暮らしていたが、子どもから「何かあったら心配」と勧められた。「以前の自宅よりは狭いけど、何でもそろっている」

 毎朝5時に起床し、体操やストレッチをした後、部屋でトーストや果物の朝食をとる。手押し車を使って散歩したり、部屋で写経をしたり。昼食と夕食は共用の食堂で日替わりのメニューを食べ、他の入居者と世間話をしてくつろぐ。「孤独感はない。一人になりたければ部屋に戻ればいい」

 室内には、緊急時に職員を呼び出す通報装置がついている。食事や散歩の時間に、職員が井上さんの姿を見て安否を確認する。介護職員が24時間常駐し、ゴミ出しなど日常生活を支援する。建物内に訪問介護の事業所やデイサービスがあり、クリニックも併設されている。

 「誰かの目があるから安心感がある」と井上さん。家賃やサービス費などで月約13万円。食費や介護保険サービスの利用料は別にかかる。日下文則所長代行は「本人ができることを奪わずに、張りのある暮らしができる」と話す。


 横浜市は3月、同社のこうした住宅と、子育て世代の賃貸住宅、地域の交流スペースを一緒にした事業を発表した。「単身高齢者の急増が見込まれる中で、世代間や地域間のつながりを作り出したい」として、鶴見区内に建設し、来年9月にも入居が始まる予定だ。同市によると、発表後に市民からの問い合わせが相次いでいるという。

 メッセージが県内6カ所で展開している「Cアミーユ」も、サービス付き高齢者向け住宅だ。新横浜駅近くの「Cアミーユ新横浜篠原」は1月に開設したばかりだが、すでに満室状態。同社のアンケートでは「施設ではないから入居を決めた」という声が多く、自由度が決め手のようだ。

 新横浜篠原(56戸)に入居する人の約6割は、元々5キロ圏内に住んでいた。同社の菊井徹也・介護事業部長は「これまでの近所の関係は、そのまま続けてもらえたら」と願う。もう一つの特徴は、介護度が最も重い要介護5の人が4人入居していること。「介護の質が担保されていれば、介護度が重い人も認知症の人も暮らせる」と語る。

■サービス付き高齢者向け住宅

 2011年に高齢者住まい法の改正で制度が創設された。賃貸住宅が多く、県や政令指定市などに登録、行政は立ち入り検査や指示ができる。普及を後押しするため、建設費の補助や税制上の優遇措置がある。

 部屋の床面積は原則25平方メートル以上だが、食堂など共用部分が確保されていれば18平方メートルあれば可能。バリアフリー設備などの条件があり、安否確認と生活相談が義務づけられる。自立して生活する人が中心の住宅から、要介護度が重い人を積極的に受け入れるところまで様々な形がある。

 5月末時点で、全国で11万1966戸が登録。県内では133棟5047戸ある。

■記者のひと言

 私の父は還暦を迎えたばかりだが、いずれ親の介護と向き合う日が来るかもしれない。別居していると、こうした住宅も選択肢の一つになるだろう。

 実際に訪れて、住宅により価格やサービス、事業者の考え方は異なると実感した。例えば、メッセージは入居時の敷金や一時金などがない。「入りやすく出やすくしたいから」だという。それぞれの特徴をしっかり確認し、安心できる「ついの住み家」を選びたい。

(及川綾子)