くらしナビ・ライフスタイル:上手に「見守り」「見守られ」

2013年06月05日毎日新聞

 核家族化や少子高齢化の影響で、高齢者だけで暮らす世帯が増えている。こうした高齢者を支えるため、地域や民間企業などが、多様な「見守りサービス」を展開している。

 サービスには大きく分けて「緊急通報システム」と「安否確認システム」の2種類がある。

 ●通報と安否確認

 「緊急通報」は、体調の急変などの非常時に、本人が簡単な操作で家族や救急に連絡できる仕組み。高齢者に緊急通報装置を貸し出すものや、警備会社などの防犯・防災システムに高齢者の見守りや駆け付けサービスをつけるタイプなどがある。

 「安否確認」は、機械や人が高齢者の普段の生活を見守り、異変を察知したら家族や救急に連絡する。日常生活に欠かせない家電やトイレに取り付けられたセンサーが利用状況を確認し、家族に通知するタイプが多い。

 サービスに取り組む企業の業種はさまざまだ。東京ガスは、日々のガスの利用状況を遠方の家族にメールで知らせる「みまも~る」(月987円)を実施。広報担当者は「通報システムではないが、変化があれば家族が電話したり訪問したりすることで、家族のコミュニケーションの機会が増える」と話す。また、KDDIの携帯電話「Mi−Look(ミルック)」は、電話に内蔵した歩数計や卓上ホルダーの人感センサーで、電話の持ち主の日常の活動量や動きを記録し、離れて暮らす家族にメールで通知する。

 ●高齢者増、市場拡大

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2011年、岩手・宮城・福島の3県を除く)によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は1942万2000世帯で全体の4割。その半数以上を、単身と夫婦のみの世帯が占める。見守りサービス市場も拡大。矢野経済研究所の調査では、10年の見守りサービス市場は、利用者の金額ベースで118億900万円に上った。

 自治体の取り組みも進む。人口の3人に1人が65歳以上という千葉県いすみ市は昨秋から、健康に不安がある65歳以上の単身者を対象に、ドアの開閉などを感知するセンサーで家の中の異常を発見・通報する「見守りあんしん電話事業」を始めた。異常があれば委託先の警備会社の隊員が、AED(自動体外式除細動器)搭載車で駆け付ける。東京都三鷹市の社会福祉協議会は、65歳以上の1人暮らしの高齢者に、ボランティアが週1回電話で安否確認や話し相手をしている。

 多くの自治体が地元の生協や新聞販売店などと提携し、配達員が異常を感じれば連絡するなどの見守りシステムを採用しているので、確認してみよう。

 ●自由な人生のため

 見守りサービスは、持病などで健康に不安を持つ高齢者だけのものではない。

 東京都世田谷区で1人暮らしをする山内(やまのうち)郁子さん(72)は、セコムの新サービス「マイドクタープラス」を利用している。ホームセキュリティーサービスのオプションで、全地球測位システム(GPS)や通話機能がついた専用端末を持ち歩き、緊急時にはストラップを引くと、外出先でもスタッフが駆け付けてくれる。端末には持病や服薬中の薬、家族やかかりつけ医の情報が登録されており、救急隊員に必要な情報を提供できる。

 週2回はスポーツクラブで筋トレをしているという山内さん。還暦を過ぎて始めたボランティア活動や趣味のゴルフで遠出することも多いといい、見た目は健康そのものだ。それでもサービスを利用する理由は「離れて暮らす子どもたちを心配させたくない。私も自由に人生を楽しみたいから」だという。

 「これからの季節は熱中症も心配。大丈夫と思っていても、何があるか分からない年齢だから、持っていると安心感がある」

 サービスがたくさんあって迷う人には、比較サイト「高齢者安否確認比較.com」なども参考になる。

 旭リサーチセンターの赤山英子研究員は「機械を介した見守りでも、駆け付けて対応するのは人間だし、緊急時の判断ができるのは身内だけ。どんな目的で、どんな内容のサービスが必要なのか、よく話し合うことが大事です」と話す。こうしたサービスは、利用する高齢者が「監視」と感じる場合もあるので、家族の意思疎通は事前にしっかりとしておきたい。【中村かさね】