自治体と業者協定 配達時に安否確認
2013年06月02日読売新聞
生協や宅配、ガス事業者などが配達や点検で高齢者宅などを訪問する際、行政機関の依頼で、異変に気付いたら連絡する協定を結ぶ例が増えている。業務と並行したさりげない「見守り」のため、抵抗感を持たれないようだ。
平日の午後、東京都内に一人で暮らす女性(78)宅に、生協のパルシステム東京の配達員が訪れた。玄関先で「暑くなりましたね」「そうね。大変よ」と言葉を交わす。
同生協などでつくる東京都生活協同組合連合会は、2011年から都内の2区と協定を結んだ。配達で訪れた際、以前に配達した商品が長期間置きっぱなしだったり、郵便物がたまったままだったりなどの異変があれば区に連絡する。
注文した食品を受け取った女性は、「この年になるといつ、どうなるか分からない不安もある」と話す。
日本生活協同組合連合会によると、今年3月末現在で全国231の自治体や社会福祉協議会が、地元生協と同様の「見守り協定」を結んでいる。この6年近くで約4倍に急増した。
乳酸菌飲料販売のヤクルトは、各地の事業所が自治体や警察と見守り協定を結ぶ事例を増やし、現在は300件を超えた。
こうした協定では、行政が特定の高齢者の見守りを依頼しているわけではない。業者が通常業務の中で無償で協力することが多い。
複数の業者と協定を結ぶ自治体もある。神奈川県は昨年5月以降、ガスメーターの検針などを行う県LPガス協会、コープかながわなどの生協、新聞販売店でつくる県新聞販売組合など11業者・団体と協定を結んだ。今後も増やす方針だ。
「行政や地域との関わりを拒む高齢者もいる。さりげなく、情報を把握するには、定期的に個人宅を訪問する業者などの協力が必要」と同県の担当者。商品の配達時に応答がなかった世帯があり、様子をうかがうと、家の中からうめき声が聞こえたため配達員が119番通報、病院に搬送された例もあったという。
一方、青森県黒石市は今年4月、65歳以上の単身高齢者宅に市の広報パンフレットなどを配達してもらう業務契約をヤマト運輸と結んだ。月1回の配達時は受領印と引き換えに直接手渡し、安否を確認する。
「業者の力を借りることで見守りの網の目が細かくなります」と話すのは、日本福祉大学教授(地域福祉)の平野隆之さんだ。
2010年に全国で判明した100歳以上の高齢者の所在不明問題や、相次ぐ孤立死や孤独死への対策として、見守り協定を結ぶ自治体が増えているという。
平野さんによると、行政や民生委員による見守りを「お役所に監視されている」と負担に感じる人は多く、「抵抗感を持たれない点でも効果的」と指摘する。また、「行政機関の後ろ盾があると、見守る業者自身も責任感を持って行動できる。見守る側、見守られる側、双方に有意義な仕組み」と話している。(上原三和)