(be report)独居高齢者どう見守る?
2013年05月04日朝日新聞
【中島鉄郎】65歳以上の独り暮らしが500万世帯を超えた。まだまだ元気なシニアが多いが、さすがに70代半ばを超えると、別居の子供たちは心配になる。とはいえ、毎日24時間、親の様子を把握するのは難しい。そんな役割を肩代わりしてくれる、民間の「見守りサービス」の中身を調べてみた。
■75歳超え「安心」買う
横浜市青葉区の主婦(75)が東急セキュリティの「シニアセキュリティ」サービスをスーパーの広告で知ったのは3年前。脳内出血で倒れた夫(79)が入院中のことだった。
独居高齢者向けのサービスの大きな柱は、(1)緊急ペンダントを押すなど通報があれば警備員が駆けつける、(2)室内にもうけられた体感センサーなどで異変を察知する、という2本。月額は4515円(価格は以下すべて税込み)。電話と結ぶ主装置やセンサーを設置する簡単な室内工事が必要となる。工事代金は4万2千円(定価)だ。
朝、起きると、元気だった夫が倒れていた衝撃は大きかった。「何かあれば飛んできてくれる、見守られているという安心感がほしい」と加入した。その後、彼女自身も夜中に「めまいが起き、天井がグルグル回り出した」。緊急ペンダントで警備員を呼び、救急車に運ばれて1週間入院した。夫は現在、要介護度2。自宅から徒歩15分の場所に息子夫婦は住んでいるが、「緊急のとき、会社勤めの息子には頼みにくい。年金生活者に4515円の出費は大きいけれど、安心料だと考えた」。
警備会社の東急セキュリティは東急電鉄の子会社。東急7路線の沿線住民を対象に、2008年12月からこのサービスを始めた。
同社ホームセキュリティ営業部の渋沢智也・担当課長は、「当初は見守りサービスといってもいま一つ認知されていなかったが、次第に関心を持つ人が増え、加入者も伸びてきた」。08年夏に起きた、独り暮らしの女優大原麗子さん(当時62)が、自宅で死後2週間ほど経過してから発見された事件なども、関心が高まるきっかけの一つだった。
加入者の平均年齢は80歳弱。78、79歳がもっとも多く、7割は女性で、3割が男性と夫婦。持ち家とマンションの比率は55%対45%。「情報弱者というか、半分以上の方は携帯電話をもっていません。20年、30年入り続けるサービスではなく、体が自由に動く数年の間といった限られた時間の安心感です」
そもそも「緊急通報・かけつけ」と「見守り・安否確認」は、性格が異なるサービスだ。前者はノウハウがある警備会社が先行してきた。例えば、ALSOKの「シルバーパック」は、ペンダント型緊急ボタンで警備員が駆けつける。基本プランが月3706円。センサーで見守り、家族にメールで知らせるサービスも込みだと5008円などになる。
■センサーで安否確認
一方、電子機器やガスなどの使用状況、室内に設置されたセンサーなどによって、日常生活に異変がないか、メール転送でチェックするのが後者。象印マホービンの「みまもりほっとライン」は、無線通信機を内蔵した「iポット」をお年寄りが使うと、その情報がネット経由で1日2回、離れて暮らす子供の元へ届く仕組みで、契約料がポット1台5250円、利用料は月3150円。
東京ガスの「みまもーる」はお年寄り宅の毎日のガスの利用状況を最大1日2回(12時間ごと)までメールで送信するサービスで、加入料金5250円で、月額987円。このほかにも、食事の宅配を利用したり、電話をかけたりする安否確認サービスがある。また、シャープは埼玉県内の自治体と共同で、テレビを操作すると、離れた場所のパソコンに送信されるという「見守りテレビ」の実験を昨年行った。
90年代半ばから、独自に開発したセンサーで見守りサービスを展開する「老舗」もある。東京都世田谷区のアートデータだ。
冷蔵庫の開閉を感知するセンサーや、トイレの床に敷いて回数をはかるマット式センサーなどを利用者に応じて設置する。例えば、冷蔵庫が開くたびに、受信ユニットからサーバーにオートコールがかかる。相手側に電話番号が表示される「ナンバー・ディスプレイ」を利用する点がミソ。番号が登録ずみなので、コールだけで識別できる。通信費は1円もかからない。
小林明夫社長はこう説明する。
「データを蓄積している管理サーバーがトイレの利用頻度、冷蔵庫の利用状況などを自動的に判定し、お年寄りの異変の可能性を察知できる。そのときにはお子さんたちに、『正常』『不安』『異常』の3種類の知らせがメールで届くのです」
例として、75歳の女性の12年12月のデータを見た。冷蔵庫は7時台に79回、11時台に114回、17時台に73回開く(月単位)。いずれも食事時だから問題ない。この時間帯に全く開いていないと、異変の可能性がある、というわけだ。
アナログ・光回線があれば申し込めるので、IT弱者のお年寄りが利用しやすい。入会金が8400円、月会費が1050円のほか、機器レンタル料月1890円から。地域の高齢者の安否確認のために同社のシステムを利用する自治体もある。
調査会社シード・プランニングの11年の調査では、15年の市場規模116億円が20年には132億円になる(イラストの左グラフは08年の国の見通しを元に作成)。独居の親をもつ300人対象のアンケートでは体力・健康への不安が上位にきた。
同社の西須裕一主任研究員は、「ITリテラシーが高い団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になる25年頃から、本格的な普及期に入るとみられます。地域の情報基盤につながるセンサーネットワークができたり、在宅医療や介護との連携が考えられたり、新たな展開をする可能性があります」