独居高齢者の「見守り」、距離感に悩む現場
拒まれるケースも少なくなく

2013年04月08日日経新聞

 力になりたいのに――。独り暮らしの高齢者を支援するため、自治体や社会福祉団体、地域住民らによる「見守り」の取り組みが広がっているが、「私は大丈夫」「結構です」などと拒否されるケースは少なくない。相手との人間関係の築き方は難しく、見守る側にとってストレスになることも。本人の意思と支援の必要性のはざまで現場は頭を悩ませている。

 「なんで来たの? 帰ってよ!」。80代の女性は強い調子で繰り返した。体のあちこちに浮腫があり、肌はかさかさ。内臓疾患を抱える可能性があり病院での治療を勧めても、「見せ物になるだけ。行きたくない」とかたくなな態度は変わらなかった。

 東京都内の地域包括支援センターの看護師は2月上旬から女性が一人で暮らすマンションに訪問を続け、1カ月後にやっと配食サービスの利用につなげた。だが、女性は3月中旬に自力で動けなくなり、救急車で搬送された。「深刻な状況になる前に治療を受けてほしかったが……」と看護師は残念そうに話す。

 別の地域包括支援センターの関係者も「玄関のドアさえ開けてくれず、『おまえに何ができる』などと怒鳴られることもある」とため息をつく。

 本人が支援を拒否した場合、「生命の危機と判断されない限りは行政も救急隊も何もできない」と大田区地域包括支援センター入新井の沢登久雄センター長は話す。「一緒に説得してくれる親族や知人が身近にいない孤立した高齢者ほど受け入れてもらうのが難しい」

 豊島区は昨年12月から、地元のシルバー人材センターに協力を求め、月2回の広報誌の配布に合わせて、独り暮らしの高齢者への声かけを始めた。「世代が近く、地元同士なら共通の話題も見つけやすい」(同区高齢者福祉課)

 現時点では近所などとの関わりが薄い約170世帯が対象。当初は不審がって会話に応じない高齢者も多かったが、今では約8割が訪問員と会話を交わすようになった。

 一方で新たな悩みも。シルバー人材センターを通じて訪問員となった近藤文子さん(68)は、訪問先の高齢者と親しくなるにつれ、誘いや頼み事が増えてきた。花見に一緒に行かないか、掃除を手伝ってくれないか――。「人情としてはお付き合いしたいが、すべて受け入れたら自分の心身が持たない」と苦しい心情を明かす。

 地域福祉が専門の東洋大学の山本美香准教授は「支援を拒否されても目を配り続けていれば、外から異変に気づけることがある」と継続的な見守りの重要性を指摘。見守りを一般市民が担うことも多いため、「無理なく続けるには、研修などを通じて相手との適切な接し方を身につけてもらう必要がある」と話している。