引き取り手なく自治体苦悩 公営住宅入居者の遺品

2013年02月17日朝日新聞

 【東孝司】家族のアルバム、位牌(いはい)、表彰状――。公営住宅で孤独死した入居者の遺品が宙に浮いている。引き取り手のない場合、どう処分すればいいのか。管理する自治体が頭を抱えている。

 東京都大田区の7階建て都営アパート。3階にある一室の玄関ドアには「関係者は連絡を」という張り紙が張られている。

 入居していた70代の女性は2年前、室内で倒れているのが発見された。都や都住宅供給公社が遺族に室内の片付けを求めるはがきを出しても返事はなく、電話は留守番電話。訪ねても誰も出てこないため、昨年12月に紙を張った。

 相続人が遺品の引き取りを拒否したり、相続人がいなかったりするケースは年40~50件。都は張り紙をして数カ月たっても引き取り手がなければ、遺品を処分する方針だ。現金があれば国に供託し、衣類や布団などは即廃棄する。遺影、位牌は当面保管するが、10年程度たてば処分を検討する。「都営住宅の平均入居倍率は約30倍。次の入居に備え、早く部屋をきれいにするのが公営住宅の役割」と都営住宅経営部の担当者は話す。

 神戸市では担当者が半年かけて戸籍を調べ、相続人を捜す。見つからない場合やどうしても拒否の場合、庁内で「法的措置検討委員会」を開いたうえで、遺品をすべて職権で廃棄する。あとでトラブルにならないよう、遺族との交渉過程は文書で保存している。

 昨年度1年間で引き取り手がないケースは70件。相続財産管理人制度の対象になる相続人がいない例は約3分の1を占める。「管理人に1件あたり数十万円もの報酬は払えない。費用対効果が悪すぎる」(市住宅管理課)

 入居していた部屋をそのまま原状保存している自治体もある。長崎県内の県営団地。3DKの居間のこたつの上に、食事直後の茶わんや湯飲みが並ぶ。テレビの横には妻の遺影も飾られている。3年前に90代の男性が室内で亡くなった時のまま残されている。

 県住宅課が戸籍をたどって捜し当てた遠縁の遺族は男性を知らず、遺品の引き取りを拒み、県による処分にも同意しなかった。遺品が宙に浮くのは初めてだった。さらに相続人を捜しながら、当面は部屋をそのままにしておくつもりだ。
 神奈川県は県の倉庫に移して保管。千葉県や福島県は取り壊し予定の団地の一室を物置に使っている。石川県のある自治体の物置には、5年前から「文書保存箱」と印刷された段ボール箱が二つある。一つに1人分の仏具や写真、賞状などを収めている。

 一方、京都府、大阪市、堺市、福岡市の4自治体は相続人を相手取って部屋の明け渡しを求める訴訟を起こし、片付けを迫っていた。

 遺品が宙に浮くケースについて、多くの自治体は「ここ数年増えた」と言う。背景には高齢独居世帯の急増がある。国立社会保障・人口問題研究所によると、1980年は88万人だった65歳以上の単身世帯が2010年に498万人と5倍以上になった。さらに35年には762万人になると推計している。

 家族とのつながりが希薄になっている現状もある。兵庫県では、今年度に県営住宅で孤独死した約30件のうち8割が引き取りを拒否されたという。担当者は「年々拒否率が上がっている」と話す。山梨県は今年になって初めて、遺品の引き取り手のないケースに直面し、対応を探っている。