さまよう「終のすみか」 減らない無届け老人ホーム

2013年01月25日朝日新聞

 家も身寄りもなく、介護が必要で、所得も低い。そんなお年寄りたちを、どこで、どうやって支えるのか。群馬県の「静養ホームたまゆら」の火災が浮き彫りにしたのは、「終(つい)のすみか」を失ってさまよう高齢者の存在でした。たまゆらと同じ無届け有料老人ホームは、4年近くたった今もなくなっていません。

 ●低所得者の施設が不足

 厚生労働省によると、「無届け」有料老人ホームの数は2011年10月末時点で259。前年より11カ所増えた。厚労省自身が「これが全てと思っていない」(高齢者支援課)と認める通り、実際はさらに多いとみられている。

 老人福祉法では、高齢者を住まわせ、食事などを提供していれば「有料老人ホーム」になる。有料老人ホームであれば、都道府県などに届け出が義務づけられ、防火設備や構造の指針を守る必要も出てくる。だが、もともと低所得者が多く入居する施設は利用料も安く、防火などの設備改修費用を負担することが難しい。「無届け」ホームがなくならない理由のひとつだ。

 高齢者住宅の入居相談をしているタムラプランニング&オペレーティングの田村明孝さんは「介護が必要な低所得の高齢者のための施設が絶対的に不足している。この構造を抜本的に変えない限り、届け出だけさせようとしても意味がない」と指摘する。

 高齢者施設や住居の現状をみると、介護度が高く、低所得の人でも入所できる施設は、特別養護老人ホームしかない。だが特養は都市部を中心に膨大な数の待機者がいる。厚労省が公表した待機者数は約42万人。約1割は介護度や家族の状況から判断して、切迫した状況にあるとみられている。

 低所得者の人向けの軽費老人ホームは数が足りないうえ、介護度があがれば退去しなければいけない場合もある。安否確認などの生活支援機能がある公営住宅(シルバーハウジング)も、介護度が進んだ場合に対応しているわけではない。

 有料老人ホームのうち手厚い介護を受けられる介護付きタイプは、数百万~数千万円の入居金を求められる場合が多く、月の負担も10万円以上が一般的。11年に制度化されたサービス付き高齢者向け住宅は昨年までに約9万戸が登録されるなど各地で急増中。ただ、都市部では月10万円以上の費用がかかり、やはり一定の収入がある人が対象になる。

 これら住まいの安全網からこぼれたお年寄りが、無届け施設に頼るという構図だ。


●「支援付き住宅」の試み

 「無届け」といっても、劣悪な環境で高齢者を囲い込む「貧困ビジネス」ばかりではない。制度の谷間を埋めようとする試みも続く。

 東京都新宿区の宿泊施設「ふるさと下落合館」。特別養護老人ホームなどに入る前の通過施設と位置づけて、「自立援助ホーム」と名乗る。ただ有料老人ホームの届け出はしていない。

 2010年12月、NPO法人ふるさとの会(本部・東京都台東区)が開設した。40~80代の男性23人が暮らす。約7割が65歳以上だ。10人が要支援・要介護の認定を受ける。大半が身寄りがなく、福祉事務所から紹介されて入居した生活保護受給者だ。

 スタッフが24時間いて、相談に乗ったり、薬の飲み忘れがないか声をかけたり、火の始末を見守ったり。家族がわりに暮らしを支える。

 3畳個室の家賃は生活支援費込みで月額6万9800円、配食センターから届く3食の食費や光熱水費などが7万円。都内の生活保護費でまかなえる金額だ。必要に応じて往診や訪問介護、訪問看護が入る。

 90年代からホームレス支援を続けてきたふるさとの会は、こうした共同居住の場所づくりに05年から取り組んでいる。自立援助ホームは都内8カ所に増え、「支援付き住宅」とも呼ばれる。

 ノウハウを生かし、民間アパートなどで一人暮らしをする生活困窮者に寄り添う事業にも力を入れ始めた。スタッフが訪問したり、近隣や大家さんとのトラブルを解決したりする。

 いま自立援助ホームなどの施設と在宅をあわせて都内で1230人以上を支援する。その約半数が65歳以上だ。低所得で高齢、要介護で障害や病気もあるなど、多重の困難を抱える人が約130人にのぼる。

 生活保護費から料金の支払いを受ける。外形的には「貧困ビジネス」と区別がつきにくい。違いはサービスの質だけだ。そのため視察受け入れなどで積極的に情報公開し、行政や学識者など外部の目が入るようにしているという。

 ふるさとの会の滝脇憲理事は「介護が必要な低所得高齢者も、住まいと生活支援という土台があれば、医療や介護サービスを利用しながら地域で暮らせる。『支援付き住宅』の制度化が必要だ」と話す。

 (見市紀世子、立松真文)

 ◇住宅手当の検討を

 <国際医療福祉大学大学院の高橋紘士教授(地域ケア論)の話> 施設を増やすだけでは問題の解決にならない。そもそも施設整備はコストが高く、急増する単身の低所得高齢者に対応するだけの供給量を確保できない。増え続ける空き家を活用して24時間の見守り態勢がある「支援付き住宅」にしたり、互助が生まれやすい長屋のような共同居住をつくったり、生活支援を考えた対応が求められる。また低所得高齢者向け住宅手当などの創設を検討する必要がある。

 ◆キーワード

 <たまゆら火災> 2009年3月、群馬県渋川市の無届け高齢者施設「静養ホームたまゆら」で火災が起き、入居者10人が亡くなった。大半が東京都内の生活保護受給者だった。身寄りがない低所得高齢者が、行政の仲介で都外の施設に送られている実態が問題となった。