サービス付き高齢者住宅 自治体の保険財政圧迫 /茨城

2013年01月12日茨城新聞

実態は“有料介護ホーム” 県内急増

 バリアフリー構造で入居者の安否確認や生活相談を行う「サービス付き高齢者向け住宅」が県内で急増している。県住宅課によると、昨年2月の第1号登録以来、11日までの約1年間で計75棟1975戸に達した。制度上は60歳以上の単身・夫婦を対象とした賃貸住宅だが、大半がデイサービスなどの介護保険施設を併設し、夜間もヘルパーらが常駐。安価な“有料老人ホーム”と注目され、東京都など県外からの入居者が相次いでいる。住宅扱いで介護保険制度の「住所地特例」が適用されず、立地が集中し始めた市町村では「介護保険財政を圧迫する」との懸念が現実化している。

▽1年間で約2千戸

 「高齢者住宅」は改正高齢者住まい法に基づき、2011年10月にスタート。国土交通省が従来供給を促進してきた高齢者向け賃貸住宅を一本化し、入居者の安否確認や生活相談を必須としたことが「サービス付き」と呼ばれるゆえんだ。

 居室はバリアフリー構造で床面積は原則25平方メートル以上、台所や水洗トイレ、浴室などを備えることが設備上の基準で、介護福祉士やヘルパー2級以上などのケアの専門家が少なくとも日中は常駐するよう住宅の運営事業者に義務付けた。

 国は建設の際に1戸当たり最大100万円を補助するなど、「高齢者住宅」の供給を支援。県によると、県内の登録件数は11日現在、25市町村で計75棟1975戸。2〜3階建ての共同住宅形態が多く、平均戸数は26戸。県住宅課は「審査中や事前相談の物件があり、今後も増える可能性はある」とみている。

▽魅力的な選択肢

 賃貸住宅だが、全75棟が入居者に食事を提供し、約9割がデイサービスなどの介護保険施設を建物や敷地内に併設するなど、「実態は有料老人ホームに近い」と関係者。居宅介護支援、通所・訪問介護、グループホームなど手厚いサービスを売りにする業者もある。

 ある介護保険事業者は「普通のアパート経営は老朽化すると入居率が下がるが、高齢者が“最期の住居”と期待する『高齢者住宅』は転居が少ない。安定した利用客を囲い込め、介護保険施設も収益が見込める」と、運営事業者の多くを営利企業が占める事情を解説する。

 高齢者にとっても、特別養護老人ホームは空きがなく、有料老人ホームより費用が安い「高齢者住宅」は魅力的な選択肢となっている。

▽「特例」の対象外

 しかし、立地が集中し始めた市町村は「県内外からの転入者で介護保険財政の負担が増大する」として、「高齢者住宅」の数量規制や特別養護老人ホームなどと同様に入居前住所の市町村が介護報酬を負担する「住所地特例」の適用を求めている。

 約1年間で県内最多15棟414戸の登録があった水戸市の介護保険課は「東京などから入居し、介護サービスを受けている例はある」と指摘。要介護5の場合、1人当たり給付費は年額約360万円に上るため、「市に保険料を納めていない人の給付費を市民が負担する構図は不合理。地方が都会の問題を解決する受け皿になっている」と訴えている。

 県は11、12年度の中央要望で国に改善を求めているが、今のところ国の動きは鈍く、国交省と厚生労働省の縦割り行政の弊害を指摘する声も市町村から出ている。