障がい者が自立できる「あんしん電話事業」誕生(前)

2013年01月01日Net IB News

一般社団法人視覚障害者自立支援協会理事長 荒牧 功一氏

 2013年4月、福岡市に新しい障がい者雇用事業「あんしん電話事業」が誕生する。時同じくして、民間企業の障がい者の法定雇用率も、現状の従業員50人以上の場合2%雇用という枠に変動する(現在は56人以上1.8%)など、社会的にも障がい者の雇用を推進する動きが見られる。しかし、「あんしん電話事業」は、そのような法定雇用枠とはまったく違う立場で、障がい者の就職口を提供する。視覚障がい者自立支援活動などを通じ、長い歳月を掛けて同事業を設立した、一般社団法人 視覚障害者自立支援協会理事長の荒牧功一氏は、「障がい者が高齢者支援を行なうことで収入を得て自立でき、そして社会全体がWin-Winの関係で成長していける社会を目指す」と語る。

(聞き手:メディア事業部 黒岩 理恵子)

<障害者と高齢者が支えあうWin-Winの社会を目指す>

 ――まず「あんしん電話事業」についてお聞かせください。電話オペレーターがいろいろな相談に応えてくれる事業で、そのオペレーターとして雇用するのが障がい者なのでしょうか。

 荒牧 そうですね。障がい者オペレーターが利用会員の問い合せに対し相談に乗ったり、問い合せを請け負うに相応しい優良業者を紹介したりするのが主な事業内容ですが、特色として、利用者を独居の高齢者もしくは高齢者世帯を対象にする、という条件があります。障がい者は、あんしん電話オペレーターとして、高齢者の安心と安全を見守り、高齢者は、あんしん電話の利用者として、障がい者の経済的自立を支えることができる、というシステムです。そのほか、電話オペレーターは、独居老人の安否確認や、話し相手になる、というサービスも行ないます。独居老人の家族とも連絡を取り合い、緊急時には報告、相談を行ないます。

 ――障がい者と高齢者、そしてその家族が、あんしん電話事業を介して、支えあっているのですね。障がい者や高齢者をもつ家族の方々にも、安心を提供できます。この点が、社会全体がWin-Winの関係で成長していける事業ということですね。


 荒牧 それだけではなく、民生委員、自治会、老人クラブ、校区社協など、地域の人たちにも関わってもらおうと思っていますし、企業にも、寄附、賛助会員、優良業者、協力業者として支援していただこうと思っています。

<環境を変えないと何も変わらない>

 ――福岡市も、今年4月から協働事業者として一緒に取り組むそうですね。


 荒牧 そうですね。昨年秋、福岡市共働事業実施事業の最終審査に通ったという連絡をいただきました。4月になったら、市の地域福祉課と一緒に記者会見を開き、社会に向けて積極的に発信していこうと思っています。

 ――就労継続支援A型なのですね。社員になりたいという方からの問い合せが殺到しているのでは?


 荒牧 知人から「こんなの初めて、こんなのがあったら行きたいよね、と希望者が殺到するのではないか」と、言っていました。しかし、まだ皆さんご存知ないので。知れ渡ると希望者が増えるのではないかと思います。
 しかしハローワークには求人票を出していますから、何人か応募もあり、すでに内定者もでています。精神障がいの方が多いですね。社会経験があり、技術を身につけているにも関わらず職を失った、という方が多くいらっしゃいます。

 一般の企業の場合、法定雇用枠の問題もあり、障がい者の方を雇用しないといけないとは思っているのでしょう。しかし、雇用して何ができるかわからないので、先が見えないので、義務感が付きまとう。結果、邪魔者扱いになってしまうのはいけないと思います。

 ――ある会社でも、雇用枠として採用した聴覚障がいの方を、電話業務が多い部署に配属してしまい、本人が辛い思いをされた、という事例があったそうです。その後、書類の受け渡しだけでも仕事ができる部門に配属となり、今はいきいきと働いていると聞きました。


 荒牧 適材適所が行なえず、ミスマッチしている企業は一杯あるでしょうね。お互いにどうしていいかわからないから右往左往してしまう。しかし、そのような企業のあり方も、成功したビジネスモデルがあれば、どうすればいいのかわかるから、少しずつ変わってくるでしょう。雇用枠という法定基準を設けるのもひとつの方法だとは思いますが、まず、皆が支えあえるような環境を作らないと、永遠に問題は解決しません。

(つづく)
【文・構成:黒岩 理恵子】