【1076万人の選択 東京都知事選】(4)高齢社会 貧困、介護、孤独死…病院で死ねない時代に?
2012年12月04日産経新聞
「上京して70年。ここに住んで40年。どこにも行くあてはないし、ここで死のうと思う」。東京都墨田区の区営団地に住む相場一蔵さん(87)=仮名=は、そう話す。
埼玉県深谷市の農家の五男に生まれ、中学卒業と同時に板橋区の布団店に見習いに出た。20年ほど前に妻に先立たれ、独り暮らしを続ける。帰る故郷はもうない。
1300万人を超す人口を抱える東京は今、深刻な高齢化問題に直面している。11月、医療改革をテーマにした都内のシンポジウムで、日本の“未来予想図”が示され、会場に衝撃を与えた。
登壇した東大医科研病院の湯地晃一郎助教は、平成47年には75歳以上の死者が22年に比べ88%増加するとの推計を提示。「これからは病院で死ねない時代が来るかもしれない」と“予言”した。
患者の高齢化が進み、診察する医師の数が足りないからだ。湯地助教は「人口減少社会とは多死社会…。高齢者が大量に亡くなる時代のことです」と語る。
■入居待機4万人超
国立社会保障・人口問題研究所によると、47年の東京の65歳以上人口は3割を超すと推計される。
貧困、介護、孤独死…。高齢化はさまざまな問題を引き起こす。
厚生労働省によると、23年度の都の生活保護受給者のうち65歳以上の高齢者世帯は約43%。核家族化の進行で独居も増え、昨年度、新たに生活保護を受給した高齢世帯(855世帯)のうち約86%(736世帯)が独居だった。
都内の特別養護老人ホームの「待機高齢者」は、約4万3千人(22年)に及び、受け入れ先もない。
立教大の江上渉教授(都市社会学)は「孤独死を防ぎ、なるべく長く自宅で過ごすには、地域の連携などの環境づくりが欠かせない」と指摘する。
■孤独死どう防ぐ
都営住宅などの団地が立ち並ぶ墨田区立花地区。高齢化率が25・6%に及ぶ下町に、都と区の支援を受けた「高齢者みまもり相談室」が設置されたのは約3年半前。孤独死などを防ぐため、高齢者からの相談にのり、地域のつながりを深めるのが目的だ。
「『最近あの人を見かけない』と、住民はさりげなく日常の見守りをしてくれている。その情報を伝える場所があれば、孤独死の防止につながる」と相談室の山田理恵子さん。
定期的に相談室の協力員が高齢者宅を訪問する。区営団地で暮らす相場さんの部屋も訪問先の一つだ。「独りでテレビを見ていても面白くないけれど、協力員には言いたいことが言える」と相場さん。カレンダーには訪問日に丸がついていた。
高齢化が一層進んだとき、今のままの施策で対応できるのか。都知事選の立候補者はどんな政策を描いているのか。