「介護」で選ぶ老後の住まい 費用とサービスを総点検

2012年11月14日日経新聞

 高齢者向けの居住施設は、入居者が要介護の状態かどうかなどの違いによって、大きく10種類に分類することができます。親や自分の老後で必要になるときのために、どのような施設があるのかあらかじめ知っておきたいところです。今回は、実際に施設へ取材した内容を交えながら、各施設のサービス内容や費用がどう異なるのか、チェックしました。

 核家族化が進み、高齢の夫婦だけで暮らす世帯や、一人暮らしをする老人が増えている。厚生労働省が発表した2011年の「国民生活基礎調査」によれば、65歳以上の夫婦世帯は1986年に約178万世帯だったのが2011年には約582万世帯に増えた。また単独世帯は86年に128万世帯だったのが2011年には約470万世帯に増えている。

 住み慣れた自宅で最期を迎えたいと思うのは自然な気持ち。ただ年を重ねるにつれて、徐々に食事を作るのが面倒になったり、風呂掃除などが思うようにできなくなったりするのは避けられない。ましてや病気の時に、独り住まいだと一歩間違えば手遅れになりかねない。

 2012年1月、石田慶子さん(83歳)は秋田市内の自宅から病院に運ばれた。独り住まいの石田さんは、体の不調を覚え、意識がもうろうとしていた。様子がおかしいと思った近所の人が自宅を訪ね、すぐに石田さんを病院に運んだ。

 一時は面会謝絶で意味不明の言葉を発するなどしたが回復、2カ月ほど入院した後の2012年3月に退院した。現在は千葉市緑区にある高齢者向けのマンションに入居する。心配した長男が近くに住むことを勧め、石田さんも秋田を離れる決心をした。

■2020年までに60万戸

 退院時点で石田さんは要介護5。現在は車いすを利用しながらリハビリしている。要介護度の高い人が入居する場所といえば、特別養護老人ホーム(特養)が頭に浮かぶだろう。だが石田さんが現在入居しているのは、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と呼ばれる場所だ。

 サ高住は2011年10月から始まった新しい高齢者向けの住まい。国が普及を後押し、2020年までに60万戸が建設される予定だ。

 上の表のように高齢者向けの施設はさまざまで、費用や受けられるサービスに違いがある。表のC、D、Eは介護保険3施設と呼ばれ、他の施設と比べて一般に低価格で利用できる。だが社会保障費の財源問題などから基本的に削減ないし数を増やすのを抑える傾向で、今後利用が難しくなる。

 団塊世代が75歳以上になる2025年に向けて、国は特養のような施設ではなく、自宅介護を推進する姿勢。サ高住は、自宅の場合と同様に外部の介護サービスを利用する住まいで一般に自立した高齢者向けの施設といわれている。


介護状態・費用別に見るシニア向けの住まい(注:*1=介護保険の自己負担分や家具代などを含まない。*2=住居費、食費、家具代、介護保険の自己負担分を含む)


Yes、Noで見極める施設選び(A~Jの概要は上の表を参照)

一方で、自宅と同じようなサ高住を作るより介護が必要な人が利用できる施設を増やすべきだとの意見もある。要介護の人が介護サービスを受けられる施設には、特養のほか介護付き有料老人ホームやグループホームなどがある。多数の施設がある中で、要介護になったときも見据えて高齢者が住む場所はどこか。最近普及が進むサ高住と、以前からある介護付き有料老人ホームを訪ね、話を聞いた。

【現場ルポ】 介護などへの充実図るサービス付き高齢者向け住宅

 前出の石田慶子さんが住むのは、千葉市緑区の「ココファンあすみが丘」(以下あすみが丘)。運営するのは学研ココファン。サ高住の旗振り役で現在、関東地方に28棟を運営、今後も年20棟のペースで増やす計画を持つ。

 「厚生年金の平均受給額程度の月15万円以内で基本的に暮らせて、介護にまつわる不安がない住まいを作るのが目的」。学研ココファン社長の小早川仁さんは言う。

 「安否確認や生活相談しかないサ高住は、要介護になると住み続けられない」。こうした声が専門家の中にある。小早川さんもサ高住にも介護・医療などのソフト面の充実が欠かせないと考える。あすみが丘では、建物内に通所介護施設があり、診療機関が隣接する。

 石田さんは入居後、併設された通所介護施設を利用している。住み始めた当初は要介護5だったが、8月末時点では要介護3に回復している。部屋の広さは27平方メートル(㎡)と、基準の25㎡以上(一定の条件が整えば18㎡以上)より広い。ベッドや家具があっても車いすで部屋の中を動ける広さだ。


「ココファンあずみか丘」の概要  なお、月払い契約の他、全部前払い契約、定期賃貸契約もある。自立の人以外に要支援・要介護の人も入居。通院の付き添いなどサービス費に含まれない内容は15分420円で対応する。

 要介護状態の石田さんが支払う費用は、月額利用料に1カ月の食事代、介護保険の自己負担分などが加算されると、月に20万円前後になる。石田さんは自分の年金などの管理は近くに住む長男に任せている。「費用は年金の範囲でどうにかやれているはずでは」と言う。

■地域密着で家族的な運営

 あすみが丘は戸数が92あるが、限られた戸数で家族的な雰囲気を大切にしているのが千葉県松戸市にあるイハナハウスだ。病院や有料老人ホームに勤めてきた稲田幾子さんが、「要介護にならない住まいを作りたい」と始めた。
 戸数は16戸だが、部屋の広さは小さいタイプでも32.4㎡。ただイハナハウスの特徴は、部屋の広さといったハード面より、スタッフの気配りといったソフト面にある。「全てのスタッフが入居者全員の様子を把握するには、今の部屋数が限界」と稲田さん。

 要介護にならないことを目指す住まいだが、入居年数を重ねれば契約者が要介護や病気になるのは避けられない。昨年は入居者が亡くなるのをみとった。また入居後に認知症にかかったり、脳梗塞で倒れたりする人などもいた。近隣にはグループの通所介護施設が2カ所あり、また提携医療機関が訪問治療する体制をイハナハウスは整える。こうした体制があることに加えて、スタッフそして入居者同士が気配りしながら暮らすことがイハナハウスの特徴だ。


「イハナハウス」の概要  なお、居室の光熱費・通信費は別途 認知症で徘徊(はいかい)の場合は対応が困難。部屋の掃除や洗濯、買い物などは15分当たり420円で対応


サービス付き高齢者向け住宅のチェックポイント

【現場ルポ】「安心」を重視する介護付き有料老人ホーム

 一定の介護が必要になった高齢者が暮らすのが、介護付き有料老人ホームだ。有料老人ホームは介護付き、住宅型、健康型の3つに分かれ、要介護の人が介護を受けられるのが介護付きと住宅型だ。住宅型は訪問介護のサービスなどを利用するのに対して、介護付きは公的介護保険の制度に基づいて施設内のサービスを受ける。また介護付きには、自立の人も入居する混合型と要介護の人のみが入る介護型がある。

 2000年に介護保険制度が始まる前までは、有料老人ホームは高額との印象が強かった。それ崩したのが伸こう福祉会、専務理事の片山ます江さん。数千万円の入居一時金も普通だった1990年代に、片山さんは入居一時金300万円の介護付きの有料老人ホームを始めた。使われなくなった独身寮を改装、設備費を抑えた。

 その姿勢は今も健在だ。伸こう福祉会が神奈川県藤沢市で運営する介護付き有料老人ホーム「クロスハート石名坂・藤沢」の入居一時金は50万円。月額の利用料は15万4000円。要介護の人は、介護保険の自己負担分が加わるが月20万円以内で収まる水準だ。

 低価格の分、部屋は約13㎡で、トイレ、洗面などの水回りは共同だ。廊下には手すりがなく、部屋にはわずかな段差が残る。ここも独身寮を改装したためだ。必要なときには「スタッフが手を差し伸べて対応する」のが片山さんの方針だ。

 クロスハート石名坂・藤沢では機械浴を使わないため、「要介護度の重い人はスタッフが2人がかりでお手伝いしている」と施設長の舘野理香さんは言う。ただ、胃に管を直接つけて栄養を供給する胃ろうには原則、対応できないとする。

■胃ろうも対応

 「施設ではなく住まい」。その方針で運営されているのが不動産開発会社のアズパートナーズが東京都文京区で運営する「アズハイム文京白山」。部屋は最小のタイプで約17㎡でトイレと洗面付き。料金は約17㎡の部屋で入居一時金が580万円、月払い額は32万8000円から。一時金なしの契約も選択可能にする。

 価格が高い分、高級感を意識した内装とし、また介護スタッフの人員も要介護者2人に対してスタッフ1人と、基準の3対1より多く配置する。胃ろうは入居者が必要な費用を負担できれば対応可能としている。「アッパーミドル層が最後まで過ごせる場所」がアズハイムのコンセプトだ。


「クロスハート石名坂・藤沢」(左)と「アズハイム文京白山」(右)の概要  なお、クロスハート石名坂・藤沢の居室数にはショートステイ用は含まない。また、アズハイム文京白山の費用は、17.19㎡の1人入居で入居一時金580万円の場合。入居一時金がない契約もある。


介護付き有料老人ホームのチェックポイント